2016年2月13日土曜日

若い娘たち

若い娘たちが全裸でスックと立っている。
その丸い尻の下で、
それぞれの二本の腿が
不自然に思われるほど
広い間隔を開いているのに、
まず僕は印象を受けた。
セイさんとの経験に教えられながら、
なお性的な夢に出て来る裸の娘の腿は、
前から見ても後ろから見てもぴったりくっついていたから。
いま現に見ている娘たちの、
その開いた腿の間には、
性器が剥き出しになっていたが、
それはどちらも黒ぐろとした毛に囲まれ
股間全体の皮膚も黒ずんで、
猛だけしい眺めだった。





すぐにも娘たちは窓の
すぐ下の低く埋めこんだ浴槽に向って進み、
しゃがみこんだ。
娘たちの尻はさらにも横幅をあらわして張りつめ、
窓からの光に白く輝やいて、
はじめて僕に美しいものを見ているという思いをあたえた。
湯槽から湯を汲み出し、
そろって性器を洗っているふたりの、
その尻の下方にチラチラ見える黒い毛は、
やはり油断のならぬ鼠の頭のようだったが。

それから湯槽に入りのんびりとこちらを向いた様子は、
日頃のももこさん、律ちゃんと比較を絶して幼く見えた。
彼女たちがそろってスクリーンの
こちらの僕らを見つめているふうであったのは
ーー放心したような顔つきからみてもーー
僕らがひそんでいると見当をつけたのではなく、
新しく浴室の入口脇にとりつけられた鏡を発見して、
ということであったわけだ。

そのうちスクリーンが翳ってきたのは、
ふたりが湯を搔きまわしたので、
湯気がこもって鏡の表面を曇らせたのだろう。

――よし。自分が曇りをふいてやる、

とギー兄さんがすぐ脇から無警戒な微笑を僕に向けていった。

――なんのために? 自分も風呂に入るのなら……

――え? Kちゃんも楽しんでみているじゃないか?


そういいすてて、
ギー兄さんは物置の側から母屋の方へ廻り込んで行った。
逆に僕は、石垣の上の狭い道を通って庭へひきかえした。
いかにもこちらのために覗き窓を造ってやった、
というギー兄さんの口ぶりに僕は傷つけられていたのだ。

ところが庭から窓ごしに勉強部屋に入りこみ、
その勢いのまま机と壁の間の畳の上に
デングリ返しをして寝ころがったとたん、
僕はカッと燃え上がるような欲望にとらえられた。

ギー兄さんもなかへ入ってしまった以上、
風呂場の覗き見のスクリーンのところへひとり立って、
屋敷の囲む両側の森、谷あいの空、
そしてありとあらゆるそこいらの樹木や石、草の眼にさらされながら、
マスターベイションをすることを僕は想像し、
その想像によって欲望のとりことなったのである。




僕はあたらめて窓を乗り越えた。
ズボンのなかで勃起している性器が
行動の邪魔になるのを感じながら、
それでさらにもいどみかかるような気分になって、
息使いも荒く。

石垣の上を廻りこむ時には、
頭上の窓からギー兄さんとももこさんの
言葉にならぬせめぎあいのような気配が聞こえてきた。

そして僕があらためて明るくなっているスクリーンに見出したのは、
すぐ眼の前の檜の床に横坐りして脇腹を洗っている
律ちゃんの幅広の躰だった。
その向うの湯槽の低いへりに、
こちら向きに腰をかけたギー兄さんの、
濃い毛の生えた腿の上にももこさんがまたがっている。

僕がスクリーンから覗き見しているのを勘定に入れて、
ギー兄さんがわざわざももこさんに性交をしかけているのだ。

色白のギー兄さんの裸のそばでは淡い褐色に見える、
ももこさんの筋肉質の背中が機敏に上下する様子は、
床を蹴りたてるような足の動きともども、
ももこさん自体性交に乗り気になっていることを感じとらせた。




そしてすぐ眼の前に自分の躰を鏡に映しながら洗っている、
つまりはスクリーンに泣きべそをかいたような顔つきで
覗き込んでくる律ちゃんの、
胸と喉の間をゆっくり動いていた右手が、
そのうち下腹部に降りて来た。

石鹸を塗った手拭いをピンクの腿に置くと、
もう片方の太い腿をグイとずらせ、
その手は自分の性器を優しげに覆うように押しつけて
揉みしだいている。

スクリーンのこちら側に立っている僕の、
ズボンのあわせめから斜めに突き出したペニスは、
自由になるやいなや勢いよくおののいて
風呂場の腰板下方の石積みに、
西陽に赤く光る精液を発射した……

ーーー大江健三郎『燃え上がる緑の木』