2019年11月26日火曜日

午後の日射し

声がきこえてくるな
いいよ、いくら書いたって
ちゃんときいてるから
あっちじゃだめだね、そっちじゃないと

すごかったな、あの一ヶ月
時のなかで永遠になってるさ
ぼくにだって
「何度愛をかわしたでしょう」って感じだよ



午後の日射し   カヴァフィス 中井久夫訳


私の馴染んだこの部屋が
貸し部屋になっているわ
その隣は事務所だって。家全体が
事務所になってる。代理店に実業に会社ね

いかにも馴染んだわ、あの部屋

戸口の傍に寝椅子ね
その前にトルコ絨毯
かたわらに棚。そこに黄色の花瓶二つ
右手に、いや逆ね、鏡付きの衣裳箪笥
中央にテーブル。彼はそこで書き物をしたわ
大きな籐椅子が三つね
窓の傍に寝台

何度愛をかわしたでしょう。
窓の傍の寝台
午後の日射しが寝台の半ばまで伸びて来たものね

…あの日の午後四時に別れたわ
一週間ってーーそれからーー
その週が永遠になったのだわ