2020年1月19日日曜日

トランプによるソレイマニの殺害の「成功」

ははあ、ジジェクがようやくコメント出してるな。

ソレイマニの殺害…トランプの「成功」は、彼の危なっかしい地政学的ゲームの部分だ。イラン危機の最終的結果がいかなるものであれ、米国はイラクにおける支配力を急速に失いつつあるだけでなく、また中東の多くから徐々に押し出されてゆく。シリアにおけるクルド民族危機の偽の「解決」--トルコとロシアが自らの側をコントロールするように両国に平和を任せることは、この今、リビアでも繰り返されている。そしてどちらのケースでも、米国は積極的な役割を担うことから静かに撤退した。ロシアとトルコは現在、ヨーロッパに圧力をかけるための理想的ポジションにある。両国はヨーロッパへの石油供給をコントロールする。それと同時に難民の流れをも。したがってロシアとトルコはヨーロッパを脅すために両方の手段を使うことができる。

しかしこれはトランプがしたいことだったらどうだろう? 答えとして「イエス」を指し示す不吉な徴候がある。トランプは関税戦争を中国からヨーロッパ共同体へと移行する脅しを今している。はっきりしていることは、強いヨーロッパ共同体への憎悪が、トランプ、プーチン、エルドアンを結びつけていることだ。…進行中の中東危機の大負け組は米国である以上にはるかにヨーロッパだ。(ジジェク、Why Europe is the biggest loser、17.01.2020

テキトウに訳しているので(しかも記事の一部だけを)、必ず原文を参照のこと。



…………

※付記

(2015年)11月終りに発表されたEUとトルコのあいだの取引(その取引の下、トルコはヨーロッパへの難民流入を抑制するというものだ。EUからの気前のよい財政援助、最初は30億ユーロ(約3900億円)を拠出することによって)ーーこれは、恥知らずの胸がむかつく振舞い、厳密な意味での倫理-政治的災厄である。これが「テロとの戦争」のなされ方だというのか? トルコの恐喝に屈服して、シリアにおけるイスラム国台頭の主要な刑事被告国のひとつに報酬を与えることが。

この取引の日和見-実利的正当化ははっきりしている(トルコに賄賂を贈ることが難民流入を制限する明瞭な方法ではないか?)。しかし長い目でみた帰結は破局的だ。このどんよりした背景が明らかにしていることは、イスラム国に対する「全面戦争」は本気に取られていないに違いないことだ。彼らは全面戦争などとは本当には思っていない。

我々はまったく文明の衝突を取り扱っているのではない(西側キリスト教徒対ラディカルイスラム)。そうではなくそれぞれの文明内部での衝突だ。すなわち、キリスト教徒の宇宙のなかでの米国と西側ヨーロッパ対ロシア。ムスリムの宇宙のなかでのスンニ派対シーア派である。イスラム国の醜怪さは、これらの闘争を覆う「フェティッシュ(呪物)」として機能している。そこでは、どちらの側も、本当の敵を叩くために、イスラム国と闘うふりをしているのだ。(Slavoj Žižek: We need to talk about Turkey, 9 DECEMBER 2015)


ジジェクの思考は常に三つの環の視差だ。






イラクへの攻撃の三つの「真の」理由(①西洋のデモクラシーへのイデオロギー的信念、②新しい世界秩序における米国のヘゲモニーの主張、③石油という経済的利益)は、パララックスとして扱わねばならない。どれか一つが他の二つの真理ではない。「真理」はむしろ三つのあいだの視野のシフト自体である。それらはISR(想像界・象徴界・現実界)のボロメオの環のように互いに関係している。民主主義的イデオロギーの想像界、政治的ヘゲモニーの象徴界、エコノミーの現実界である。. (Zizek, Iraq: The Borrowed Kettle, 2004)