2020年8月27日木曜日

小津安二郎の緑の色遣い



ミントグリーンというのか、その近似色を晩年の小津安二郎はとてもしばしば使っている。1959年の『浮草』にはとくに多いが、1960年の『秋日和』にも1962年の遺作『秋刀魚の味』にもある。

浮草、1959年


1959年の『お早よう』は緑の薬缶が主役だとときに言いたくなる。




看板などの文字まで自分で書いたといわれる、小物に凝り性の小津である。カラーバランス等の効果を狙った意図的使用であるのは間違いないだろう(1961年の『小早川家の秋』にはグリーンの記憶は残っていないないが、今あえて見直して確認はしていない)。



秋日和、1960年


こうやって並べてみて気づいたが、『秋日和』の『秋刀魚の味』の間仕切りは同じものなんだろうな。


秋刀魚の味、1962年



わたくしの住んでいる国は、かつて仏植民地だったせいだろう、鎧戸や鎧窓などにこの近似色がしばしば使われており、、最初に出会ったときはとても新鮮だった。




もう少し明るい、いくらかクリームを混ぜたようなマネのあの色合いに近いものも多い。





20年以上まえの話だが、当時月ぎめ家賃のアパートに住んでいたのだが、ひどく殺風景な、鉄製のベッドと小さな机が無愛想に置いてあるだけの細長い長方形の部屋だった。だが窓だけはとても瀟洒なミントグリーンの鎧窓がついていて、朝はその隙間から漏れ入る光が床や壁に模様を描くのにしばしば見惚れた。バスルームはペラペラのベニヤドアでうまく閉まらなかったりしたが、他方、部屋の入り口には分厚い見事な扉ととてもさわり心地のよい重厚な真鍮の把手がついていて、こういったアンバランス感に奇妙な魅力を感じていた。