2019年6月19日水曜日

「国民福祉税」という主人のシニフィアン

細川護熙が言い出した「国民福祉税」ってのは、当時は非難轟々だったけど、今から見ると、この名称にしとけば、おバカなこと言う政治家やらそのあたりのボク珍たちが、すくなともすこしは少なくなったんだろうけどな、やっぱり「名」ってのは大事だよ。


《君の指先が太鼓をひと弾きすれば、音という音は放たれ、新しい階調が始まる [Un coup de ton doigt sur le tambour décharge tous les sons et commence la nouvelle harmonie.]》(ランボー、A une raison)

〈主人のシニフィアン〉とは何だろう?社会的崩壊の混乱状況を想像してみよう。そこでは、結合力のあるイデオロギーの力はその効果を失っている。そのような状況では、〈主人〉は新しいシニフィアンを発明する人物だ。そのシニフィアンとは、名高い「縫合点」、すなわち、状況をふたたび安定化させ、判読可能にするものである。(……)〈主人〉は新しいポジティヴな内容をつけ加えるわけではまったくない。――彼はたんにシニフィアンをつけ加えるだけだが、突如として無秩序は秩序、ランボーが言ったような「新しいハーモニー」に変ずるのだ。(ジジェク、LESS THAN NOTHING, 2012)


全然違う話だけと、ツイッターで「消費税」検索してみたら真っ先に出てきた「石垣のりこさん」ってトッテモイイなあ、これだけボクの好みのタイプだと、ナニイッテテモ全面的に応援しちゃうや。





朝風に似て歩みもかるくすがしい乙女よ、おんみの出現が
かれをかほどまでに激動さしたと、おんみはまことに信ずるのか。(リルケ『ドゥイノ』)

それでっと、--あだしごとはさておきつ。

閑話休題(あだしごとはさておきつ)。妾宅の台所にてはお妾が心づくしの手料理白魚の雲丹焼きが出来上り、それからお取り膳の差しつ押えつ、まことにお浦山吹の一場は、次の巻の出づるを待ち給えといいたいところであるが、故あってこの後あとは書かず。読者諒せよ。ーー(永井荷風『妾宅』)

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消費税を廃止し、税率7%の国民福祉税を創設する――。平成6(1994)年2月3日午前1時。深夜の会見で細川護熙首相(当時)が突然、発表した国民福祉税構想は「唐突だ」との厳しい批判を受け、すぐに撤回に追い込まれた。短命内閣につながった大きな痛手の舞台裏を、細川氏本人が書面で明かしてくれた。

「よく『即日撤回』と言われますが、対応策をまかせた与党代表者会議に私が内々に案を示し、決まったのは2月8日で、それを内閣が受け入れる形をとりました。『撤回』というのも多少違います。最終的な案は当時、バブル崩壊後の景気対策として各界から求められた6兆円の所得減税を定率で成し遂げ、その財源は増税で穴埋めし、年内に関連法案を成立させる内容でした。それに基づき、その年の11月、村山内閣で所得税法及び消費税法改正案が成立。消費税率を5%に引き上げる布石となったのです」

前年末に終わる予定だった最大の課題の政治改革が1月末までかかり、日本に内需拡大を迫った米国への訪問も2月10日からと決まっていた。それまでに所得減税を盛り込んだ予算の骨子を固めるという切羽詰まった日程を余儀なくされたこと。連立与党内の調整不足で具体策が「首相一任」になったことが、唐突な公表に至った理由という。

「時間をかけ、きちんと手順が見えるように行うべきでしたし、大規模な行政改革を先行させて国民の理解を得た上で実施すべきだったと反省しています。ただ、赤字国債を財源に6兆円の減税を実施する安易な方法は絶対に避けたかった。ツケを後世に回す無責任極まりないやり方だからです。もし、私が赤字国債で減税の穴埋めをしていれば、今日の赤字国債のたれ流し政策は細川が始めたと言われていたでしょう。その点は今なお矜持に思っています」(【国民福祉税構想】細川元首相が明かす深夜発表の舞台裏、2019/04/30









細川による提案というのは、消費税を廃止して国民福祉税と名称変更し、税率7%に上げるというものだったのだけど、当面、税率据え置きでも名前だけ「国民福祉税」というシニフィアン(表象)にしておけば、たぶん世界はだいぶ変わったんだろうけどな。遅くでもやらないよりはましだから、今からだって変更したほうがいいんじゃないか。

現在、いまだ無思考で「消費税廃止!」と叫んでいる庶民的正義派ーー「未来の他者」にたいして最も残酷な連中ーーがあまたいるけど、彼らでも「福祉税廃止!」と叫ぶ前にはすこしは考えてみるだろうからな。

そもそも国民負担率上げなくちゃどうしようもないのに、「福祉税」以外、なにを上げるってんだい? 





どこかの政党のたぐいのように法人税あげるってのは、まったく馬鹿げているのであって、法人税や所得税上げちまったら、もっと現役世代に負担がかかっちまうじゃないか。

いまどき次の認識がまったくないらしい連中ってのがなんで政治やってんだろ?

日本の財政は、世界一の超高齢社会の運営をしていくにあたり、極めて低い国民負担率と潤沢な引退層向け社会保障給付という点で最大の問題を抱えてしまっている。つまり、困窮した現役層への移転支出や将来への投資ではなく、引退層への資金移転のために財政赤字が大きいという特徴を有している(「DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」」大和総研2013、武藤敏郎監修)

ま、もちろんいまもむかしもかわらず、左派系の明日のみを考え未来の他者をまったく思考から外している、「庶民のため、大衆に根ざした」共感の共同体の政治家たちってわけだけど。

つまりは「短期的には正しい心を抱いて、長期的には最悪の行為をする」あの経済音痴の連中ってことになる。


邪な心を抱いて正しい行為
そして正しい心を抱いて邪な行為

wicked meaning in a lawful deed
And lawful meaning in a wicked act

ーーシェイクスピア『終わりよければすべてよし』


逆に消費税導入に政治生命を賭けた大平やら細川やらは「短期的には邪心を抱いて、長期的には正しい行為を試みた」と言ってもいいさ。特に大平なんてのは野党どころか自民党内部からも大反対にあって選挙中に死んじゃったんだから。

消費税の「導入」と「増税」の歴史

首相年月
大平正芳1979年1月財政再建のため「一般消費税」導入を閣議決定。同年10月、総選挙中に導入断念を表明したが、大幅に議席を減らす。
中曽根康弘1987年2月「売上税」法案を国会に提出。国民的な反対に遭い、同年5月に廃案となる。
竹下 登1988年12月消費税法成立。
1989年4月消費税法を施行。税率は3%。その直後、リクルート事件などの影響もあり、竹下首相は退陣表明、同年6月に辞任。
細川護煕1994年2月消費税を廃止し、税率7%の国民福祉税の構想を発表。しかし、連立政権内の足並みの乱れなどから、発表翌日に撤回。
村山富市1994年11月消費税率を3%から4%に引き上げ、さらに地方消費税1%を加える税制改革関連法が成立。
橋本龍太郎1997年4月消費税率を5%に引き上げ。
鳩山由紀夫2009年9月「消費税率は4年間上げない」とするマニフェストで民主党が総選挙で勝利、政権交代を実現。
菅直人2010年6月参院選直前に「消費税10%」を打ち出し、選挙に惨敗。
野田佳彦2012年6月消費税率を2014年に8%、15年に10%に引き上げる法案を提出。8月10日、参院本会議で可決成立。
安倍晋三2014年4月消費税率を8%に引き上げ。
2014年11月2015年10月の税率10%への引き上げを2017年4月に1年半延期。
2016年6月2017年4月の税率引き上げを2019年10月に2年半延期。
2018年10月2019年10月に税率10%に引き上げる方針を表明。軽減税率を導入し、食品(外食・酒類を除く)は現行の8%の税率を維持する。