このブログを検索

2024年2月15日木曜日

ネタニヤフはウクライナにおけるゼレンスキーのイスラエルバージョン

 

宇露戦争が始まってからその分析の仕方に信頼を置き何度か引用して来た元外交官浅井基文氏のコラムだが、直近の「パレスチナ問題とアメリカ・バイデン政権の中東政策」(2024/2/9)にはこうある。


なぜ、バイデン政権の中東政策はトランプ政権の政策を踏襲する結果になったのか。この点に関しては、2023年11月13日付geopoliticaleconomy WSが掲載した、ベン・ノートン署名文章「バイデンがイスラエルを支持する地政学的分析」(原題:"Why does the US support Israel? A geopolitical analysis with economist Michael Hudson")が解明しています。この文章は、geopoliticaleconomy WSを主宰するベン・ノートンが、「イスラエルがアメリカの対外政策に占める重要性及びアメリカが中東地域を含む全世界を支配しようとする動機」について、マルクス主義経済学者のマイケル・ハドソンにインタビューした内容を整理したものです。ハドソンに関しては、私は2023年5月29日のコラムなどで紹介したことがあります。専門は経済学ですが、国際問題全般について高い見識を持っています。ノートンの文章自体、ノートンが問題を提起し、ハドソンがそれに答える詳細な文章が付属しています。ただ、この問答があまりにも長いため、ノートンがダイジェスト版を作成しました。以下は、そのダイジェスト版の大要です。


 この文章から理解できることは、①バイデンのイスラエル重視は尋常なものではないこと(1986年に「イスラエルが存在していなかったとしたら、アメリカはこの地域における利益を守るために、イスラエルを作り出さなければならない」とする認識を披瀝した後、今日まで一貫してその認識に固執している)、②「中東→アジア太平洋」という戦略重点の移行とは概念図式的レベルのものであり、アメリカにとっての中東の地政学的・戦略的重要性は微動もしていないこと、の2点です。


 イスラエルがバイデン政権の対外政策に占める重要性を理解する上では、バイデンが、イスラエルはアメリカの地政学上のパワーを、世界的に死活的に重要な地域の一つである中東に拡大する上での支柱と認識していることを強調する必要がある。バイデンは早くも1986年(上院議員時代)に、イスラエルが存在していなかったとしたら、アメリカはこの地域における利益を守るために、イスラエルを作り出さなければならない、と述べた。


 中東(より正しくは西アジア)は石油と天然ガスの世界最大の貯蔵量を誇り、アメリカの伝統的目標の一つは石油及び天然ガスの世界市場価格の安定を維持することにある。しかし、冷戦終了・ソ連崩壊の1990年代以後、アメリカは世界のすべての地域に対する支配を目指すようになった。そのことを端的に表明したのは国家安全保障会議(NSC)が1992年に明らかにしたいわゆるウォルフォヴィッツ・ドクトリンである。「アメリカの目標は、アメリカの利益にとって死活的な地域が敵性国家によって支配されることを排除し、アメリカ及び同盟国の利益に対する世界的脅威が台頭することを防止する障壁を強化することである。これらの地域には、欧州、東アジア、中東・湾岸地域、そしてラ米が含まれる。これら地域の資源が集権的・非民主的な勢力に支配されることは我が安全保障に対する重大な脅威を生む。」2004年に発表された国家軍事戦略も、その目標は「全面的支配」("Full Spectrum Dominance")、つまり、いかなる状況をも支配し、軍事作戦を通じていかなる敵をも打ち破る能力を維持することである、と述べた。


 中東に関しては、アメリカは伝統的に「二つの柱」戦略-西のサウジアラビア、東のイラン-に依拠してきた。しかし、1979年のイラン革命でその一つの柱を失ってから、アメリカの中東支配においてイスラエルの重要性が次第に高まっていった。この地域の戦略的重要性は石油・天然ガス資源だけではなく、地球上でもっとも重要な通商ルート(特にスエズ運河、イエメンのバブ・アル・マンダブ海峡)が位置することにある。世界の多極化が進行し、地域におけるアメリカの影響力が弱まっている中で、アメリカが支配を維持する上でのイスラエルの重要性が高まっているのだ。


 世界の石油価格決定においては、今やサウジアラビアとロシアが中核的役割を果たしている。サウジアラビアは伝統的にアメリカの忠実な属国だったが、今日ではますます非同盟的な対外政策を営むようになっている。その大きな理由の一つは、中国が地域諸国の最大の貿易相手国となっていることだ。それに加え、中国は「一帯一路」イニシアティヴという世界的インフラ・プロジェクトを通じて、世界貿易の中心をアジアに引き戻しつつある。そして、このイニシアティヴにとって決定的に重要なのは中東、より正確には西アジアであり、それはこの地域がアジアと欧州とを結びつける地域であるからに他ならない。

 アメリカが新しい交易ルート建設計画で「一帯一路」に必死に挑戦しているのは正にこのためである。アメリカは特にインド-ペルシャ湾-イスラエルという交易ルートを建設しようとしている。

 以上のすべてのプロジェクトにおいて、イスラエルはアメリカ帝国のパワーの延長として重要な役割を担っている。バイデンが「イスラエルが存在していなかったとしたら、イスラエルを作り出さなければならない」と述べた今日的理由は正にここにある。現にバイデンは、2022年10月27日にホワイトハウスでイスラエルのヘルツォグ大統領と会見した際にもこの発言を繰り返し、直近では、昨年(2023年)10月18日にイスラエルで行った演説の中でもこの発言を繰り返した。


 バイデンの「イスラエルが存在していなかったとしたら、アメリカはこの地域における利益を守るために、イスラエルを作り出さなければならない」という確信犯的認識から直ちに明らかになるのは、アメリカの中東における死活的利益を"中東におけるアメリカの分身"ともいうべきイスラエルの絶対的安全保障と直結させているということです。バイデンとネタニヤフとの個人的関係は良好とはいえませんが、イスラエルの安全を脅かす可能性のある存在を敵視する点において、歴代両国政権と同じく、両者は戦略的立場・認識が一致しています。


 アッバス率いるパレスチナ自治政府(PA)の前身はアラファトが率いたパレスチナ解放機構(PLO)ですが、オスロ合意が成立するまでは、PLOは長らくテロ組織という烙印を押され続けていました。アラファト・アッバスが「二つの国家」方式を受け入れたということは、国家としてのイスラエルの存在を認め、武力解放闘争路線を放棄したことに他なりません。


 しかし、パレスチナ人すべてがアラファト・アッバス路線を支持しているわけではありません。それを端的に示したのは、2006年のガザ地区の民主的選挙でハマスが勝利し、PA統治にノーを突きつけたことでした。ハマスは、国家としてのイスラエルの存在を認めず、武力解放闘争を通じてパレスチナ全土でパレスチナ人国家を樹立することを主張しており、ガザでの勝利は民意がこの主張を支持していることに他なりません。


 しかし、バイデンに連なるアメリカ歴代政権はこの「不都合な真実」に目を背けました。トランプ政権に至っては、オスロ合意自体を足蹴にし、ネタニヤフ政権のパレスチナ問題に関する強硬路線に迎合して、大使館を東エルサレムに移転し、アラブ諸国とイスラエルの関係正常化を推進しました(エイブラハム合意)。


 バイデン政権は、クリントン政権が仲介したオスロ合意に基づく「二つの国家」方式によるパレスチナ問題解決路線に回帰しつつ、「テロ組織」と断定するハマスを排除し、将来的パレスチナ国家の正統統治機構としてPAの復権を助長・支援する政策を推進するとともに、この政策・路線と基本的立場を同じくするサウジアラビアにイスラエルとの関係正常化に応じることを働きかけてきました。アラブ世界の雄であるサウジアラビアのイスラエル承認は、アメリカ主導の中東地域の平和と安定の実現につながる、というのがバイデン政権の中東戦略の基本的構想であるといえるでしょう。


 なお、パレスチナ人心を失って久しいPAを将来的パレスチナ国家の統治機構に据えるというバイデン政権の発想は、「アラブの春」「カラー革命」の失敗から何も学んでいない旧態依然のもので、パレスチナ問題解決に障害を設けるだけです。ちなみにアラファト自身は、将来の選挙でハマスが勝利する場合にはハマスに政権を明け渡す、と述べたことが伝えられています。


 ハマスにとっては、バイデン政権の構想の実現を許すことは、パレスチナ問題の辺縁化を許すことに他なりません。周到かつ隠密な準備の上で10月7日に決行されたイスラエルに対する奇襲攻撃は、「パレスチナ問題の解決なくして中東の平和と安定はあり得ない」ことを国際的に再認識させ、イスラエルとの関係正常化に前のめりになっていたサウジアラビアに再考を迫り、パレスチナ問題辺縁化を追求してきたバイデン・ネタニヤフ政権に痛撃を加えることを目的とした、「パレスチナ問題の主役はハマスであること」を誇示する、優れて政治戦略的意図に出た軍事作戦だったといえるでしょう。ハマスとしては、ネタニヤフ政権の軍事壊滅作戦を耐え忍び、組織としての生き残りに成功しさえすれば、パレスチナ問題の国際的解決及びパレスチナ国家建設における主役の座を確保できるという展望のもとで行動していると見られます(日中戦争を戦った毛沢東の持久戦論を彷彿させるものがあります)。




このベン・ノートンのマイケル・ハドソンインタビューは以前に一度引用したことがあるのだがほとんど忘れていた。


バイデンの《イスラエルが存在していなかったとしたら、アメリカはこの地域における利益を守るために、イスラエルを作り出さなければならない[Were there not an Israel, the United States of America would have to invent an Israel to protect her interest in the region]》とは、これのようだな。



▶︎動画


さて、あらためてベン・ノートンのマイケル・ハドソンインタビューを読み返してみたが、ハドソン曰くの《ネタニヤフはウクライナにおけるゼレンスキーのイスラエルバージョン[Netanyahu is the Israeli version of Zelensky in the Ukraine]》ってのがやはり印象的だ、これだけは朧な記憶として残っていたが失念しないようにここに掲げておく。



◼️なぜ米国はイスラエルを支持するのか?

米国がイスラエルを強く支持する理由を地政学的に分析:エコノミストのマイケル・ハドソンがジャーナリストのベン・ノートンと対談。

Why does the US support Israel? 

A geopolitical analysis of why the United States so strongly supports Israel: Economist Michael Hudson discusses with journalist Ben Norton. 

2023/11/18

私は、アメリカがイスラエルを支持しているとはまったく思いませんし、ほとんどのイスラエル人も、ほとんどの民主党議員もそう思っていません。


アメリカはネタニヤフ首相を支持しています。イスラエルではなくリクードを支持しているのです。イスラエル人の大多数は、イスラエル建国以来の中心的人口である非宗教的イスラエル人は、リクードとその政策に反対しています。


つまり、アメリカにとってネタニヤフは、ウクライナにおけるゼレンスキーのイスラエル版なのです。


そして、ネタニヤフ首相のような不愉快で、日和見主義者で、賄賂と汚職で起訴されている人物がいることの利点は、ガザで起きている攻撃に驚愕している全世界の注目が、アメリカを非難しないことです。


彼らはイスラエルを非難しています。ネタニヤフ首相やイスラエルを非難していますが、爆弾や銃を次から次へと飛行機で送り込んでいるのはアメリカです。アメリカでは販売が禁止されている22,000丁の機関銃や自動小銃が、ヨルダン川西岸で入植者が使うためにアメリカから送られているのです。


I don't think America is supporting Israel at all, nor do most Israelis, nor do most Democrats. America is supporting Netanyahu. It's supporting Likud, not Israel. The majority of Israelis, certainly the non-religious Israelis, the core population of Israel since its founding, is opposing Likud and its policies. And so what really is happening is that to the United States, Netanyahu is the Israeli version of Zelensky in the Ukraine. And the advantage of having such an unpleasant, opportunist, and corrupt person as Netanyahu, who is under indictment for his bribery and corruption, is precisely that all of the attention now of the whole world that is so appalled by the attacks going on in Gaza, they're not blaming the United States. They're blaming Israel. They're blaming Netanyahu and Israel for it, when it's the United States that has been sending plane load after plane load of bombs, of guns. There are 22,000 machine guns, automatic guns, that are banned for sale in the United States that America is sending for the settlers to use on the West Bank.