世界の根拠のなさについて(2001)
高橋悠治
〔・・・〕
世界はことばでうごかせるか
うごかせるとしたら
それは 世界を暴力でうごかすのと どこがちがうだろう
いま起こりつつあることがらも もう過ぎてしまったかのように
ことばは うごいて止まないものを 一瞬つなぎとめる
そして ことばはことばを呼ぶ
ことばはことばを凝視する
そのあいだも
爆弾はことばを持たないものたちの上に 花びらのように降る
現実は だれのものでもない
思うままにうごかせないから 世界はある
世界に意味があったら こんなにも多くの苦しみがあるだろうか
情報によって 知識によって はっきり見透せるものなら
世界は こんなふうになっていただろうか
こんな世界を ありのままに見ることは
もうひとつの苦しみだからといっても
なにかをしなければならないと思い
なにかできることがあるはずだと信じて
安全なところでうろうろしている
このありさまを見たら
空爆の下で毎日を生きているひとびとは どう感じるだろう
かみさま
あなたのひこうきが まいにち やってきます
きのうも ぼくたちのテントに
ばくだんを おとしていきました
ぼくははしって いわかげに かくれました
わらって わらって わらいました
(パレスチナの子どもの神さまへのてがみ)
(批評空間第III期第2号)
切り刻まれた子どもたちの遺体の映像はもう見たくない。 私たちは、彼らに会って許しを請うまで、沈黙のうちに彼らの記憶を称えるだろう...。 ガザの子どもたちは皆、ジェノサイドで殺されることを予期しながら成長しているのだから。
インド洋にいるアメリカの航空母艦の甲板から次々に飛び立ち
闇のなか 機械に導かれたコースをたどり
機械が指した場所で爆弾を落とし
飛び還っては次の爆弾を装填し
こんなことが あたりまえのように淡々とすすむ
この世界で
夜の下界にどんなひとたちが息づいているのかを 感じることもなく
ふと立ち止まることもなく
何百万ドルかの武器を黙々と消尽する この空爆
世界貿易センターの破壊は ヒロシマよりひどい と
ふつうのアメリカ人は思っているらしい
アメリカのこどもたちの平和がいつまでもつづくように と
アフガニスタンのひとびとの泥の家をもとの泥にもどす爆撃が
毎日毎晩つづく
こんな世界にも
意味があるかのように語り
原因 条件 動機を分析し
やるべきことと やってはならないことを分別し
非難し 糾弾し 警告し
論じ 論じ 論じ 論じて
それでどうなる
※ツイッター「#ムスタファ先生」より