2019年2月14日木曜日

悪夢のシナリオ

前回、野口悠紀雄の「悪夢のシナリオ」を引用したが、公債残高、利払費等をもう少し詳しく、10年スパンで見てみた。


ーー厳密には、平成元年(1989年)から平成10年(1998年)だけは9年。

2018年実質GDPはもちろん予測値である。



冒頭図の数字は直近の財務省データにもとづく。主に以下の図表より抜き出した。








ここでもう一度、野口悠紀雄の「悪夢のシナリオ」の箇所だけを再掲する。

いま仮に、17年度以降において、新規国債と借り換え債の平均利回りが一挙に3%になると仮定しよう。

 その場合には、17年度の利払い費は、予算額より約1・6兆円増加して10・8兆円となる。そして、22年度における利払い費総額は27・4兆円と、17年度予算の3倍近くになる(下図を参照)。




話はこれで終わらない。なぜなら、国債残高が増加していくからだ。それに伴って、利払い費は、それ以降も増加を続ける。

 新金利が3%の場合、23年度における利払い費は30兆円を超える。つまり、現在の予算総額の3分の1程度になるのだ。

 これは、「悪夢のシナリオ」としか言いようがない。

 なお、以上のほかに債務償還費もあることを忘れてはならない。債務償還費は、17年度で14・4兆円、一般会計予算総額の14・7%を占める。それを加えれば、国債費は、現在の予算総額の半分程度になるのだ。こうなっては、予算編成はできなくなる。財政再建ができないどころの話ではない。これは、財政破綻以外の何物でもない。

 日本の財政は、これまでデフレと低金利によって利払い費を圧縮できたために、かろうじて存続しえたのだ。金利が正常な値に戻れば、利払いだけで到底持たなくなる。(野口悠紀雄「金利が上昇すると、国債の利払い費が増加して財政は破綻する」2018/06/25

野口悠紀雄の言っていることはこうだ。

①新金利が3%の場合、23年度における利払い費は30兆円を超える。つまり9兆円の利払費が、30兆円超になる。

②30兆円超+2017年度債務償還費14・4兆円(2018年度15・5兆円予算)は、概算46兆円。


ここでは2017年度ではなく、2018年度一般会計予算をみる。





国債費が46兆円になったらたしかに予算は組み難い。社会保障費が33兆円なのだから、あわせて79兆円である。わずかしか残らない。とすれば新規国債発行をしなくてはならず悪の循環である。

野口悠紀雄は《日本の財政は、これまでデフレと低金利によって利払い費を圧縮できたために、かろうじて存続しえたのだ。金利が正常な値に戻れば、利払いだけで到底持たなくなる》と言っているが、正常な金利とは、平成10年であったり、平成元年であったりするのだろう。



こうやって簡易図表化してみると、経済成長など近い将来における財政破綻をまぬかれるためには、ほとんど関係がないようにさえ見える。いやそれどころか、経済成長をしたら金利が上がり、いっそうのこと悪夢のシナリオ実現を促すようにも感じてしまう(反対の意見もあるのは知らないわけではないが)。

かつて池尾和人が野村総研の大崎貞和氏との対談で次のように言っていたのが、ひどく印象に残っている。

日本の置かれている状況は、 一般会計の税収40兆円ぐらいに対し、 グロスで1,000兆円ぐらいの政府債務があるわけです。 そうすると、 1対25です。 景気がよくなって税収が増えたとしても、 利払いの増加のほうがその上をいく構造になっています。ですから、 景気が好転するときが一番用心すべきときになります。(「経済再生の鍵は不確実性の解消 」 野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部、2011)

図表に戻れば、なによりも公債残高の急激な伸びが驚異的である。そして金利が低く抑えられているからこそ、利払費がわずかで済んでいる。もはやそれが今後も可能なのか否かだけの話であるように思える。そして多くの経済学者はそれは不可能だと言っている。

消費税を25~30%にあげたらいけるかも。消費税1%増、現在約2.5兆円。15%上げたら30兆円を超える。

消費税を 2014 年から 2023 年までの 10 年間、毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、23 年の 1 月以降 25%にするケース(深尾光洋「日本の財政赤字の維持可能性」2012 年)

ま、人はこれ以外にどんな方策があるのか、そろそろマガオで考えたほうがいいんじゃないだろうか。でもムリだろうね、きっと。

たとえ知識があろうとも、それだけでは誰にも行動を促すことはできない。…(なぜなら)私たちは自分の知識が導く当然の帰結を、自分で思い描けないから。(ジャン=ピエール・デュピュイ『ツナミの小形而上学』)

そうてあるなら・・・、平成9年つまり1997年に、《まああと三十年もしたら大体あの国はつぶれるだろう》とオッシャッテイタ中国首相がいたが、2027年ごろとは、だいたいアタリじゃないだろうか・・・

武藤国務大臣)……そのオーストラリアへ参りましたときに、オーストラリアの当時のキーティング首相から言われた一つの言葉が、日本はもうつぶれるのじゃないかと。実は、この間中国の李鵬首相と会ったら、李鵬首相いわく、君、オーストラリアは日本を大変頼りにしているようだけれども、まああと三十年もしたら大体あの国はつぶれるだろう、こういうことを李鵬首相がキーティングさんに言ったと。非常にキーティングさんはショックを受けながらも、私がちょうど行ったものですから、おまえはどう思うか、こういう話だったのです。私は、それはまあ、何と李鵬さんが言ったか知らないけれども、これは日本の国の政治家としてつぶれますよなんて言えっこないじゃないか、確かに今の状況から見れば非常に問題があることは事実だけれども、必ず立ち直るから心配するなと言って、実は帰ってまいりました。(第140回国会 行政改革に関する特別委員会 第4号 平成九年五月九日

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※追記


小黒一正がさっそく示しているようだ、ここで記した成長率と金利の関係を。

成長率と金利は通常ほぼ連動し、成長率が1%伸びれば約70兆円の税収等は約0.7兆円増えるが、長期金利が1%上がれば利払い費は10兆円以上増え、歳出の増加の方が圧倒的に大きくなるという。(異次元緩和が財政規律を弛緩、消費増税先送りも-小黒法大教授 2019年2月15日