2019年6月20日木曜日

老体を減らすような何ごとか

⋯⋯ま、むかしから言われてるってことだな、こういった話題を語っている書き手は、ボクはほとんど中井久夫しか知らないから、以下に列挙しておくけど。「老体を減らすような何ごとか」を好まないのだったら、移民を最低限2000万人くらいはいれなくちゃダメだね、2040年までに。つまりあと20年の間に。それしかないよ。


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二〇世紀には今までになかったことが起こっている。(……)百年前のヒトの数は二〇億だった。こんなに急速に増えた動物の将来など予言できないが、危ういことだけは言える。

しかも、人類は、食物連鎖の頂点にありつづけている。食物連鎖の頂点から下りられない。ヒトを食う大型動物がヒトを圧倒する見込みはない。といっても、食料増産には限度がある。「ヒトの中の自然」は、個体を減らすような何ごとかをするはずだ。ボルポトの集団虐殺の時、あっ、ついにそれが始まったかと私は思った。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」初出2000年『時のしずく』所収)






困難な時代には家族の老若男女は協力する。そうでなければ生き残れない。(⋯⋯)

現在のロシアでは、広い大地の家庭菜園と人脈と友情とが家計を支えている。そして、すでにソ連時代に始まることだが、平均寿命はあっという間に一〇歳以上低下した。高齢社会はそういう形で消滅するかもしれない。(中井久夫「親密性と安全性と家計の共有性と」初出2000年『時のしずく』所収)




心配の種の第一は高齢化社会である。しかし、これは必ず一時である。一時であり、また予見できるものは耐えられる。行政は最悪の場合を考えて対策を立てるものである。当然そうあるべきであり、行政特有の習性でもある。最悪の場合が実現の確率がもっとも高いとは限らない。高齢者が働けるように医学も行政も考えて突破するのが正道であるが、平均寿命自体が減少に向かうかもしれない。嬉しいことではないが、2030年といわれるピークまでに流行病が絶無である確率のほうが少ない。(中井久夫「日本の心配」神戸新聞、1997.3.05)


「国民が年金年齢に達した時に皆死んでくれたら大蔵省は助かる」とある大蔵大臣が言った時、これは「貧乏人は麦を食え」どころではないぞと思ったが、この一派閥の領袖の発言を誰も問題にしなかった。その大蔵大臣は年金年齢に入ってから比較的早く亡くなった。しかし、それは別の問題である。この国が世界一の長寿国であるかどうかとは関係がなく、国民の早世を願う国は卑しい国である。国民を大切にしない国で長く栄えたためしはなく、現に、国民を奴隷に売ったり、国民の大量死を歯牙にもかけなかった国は外国の侮りを受けてきた。国民の命を粗末にした戦争で敗北したのはつい最近である。この発言は亡国の兆しではないか。

以後、私は「死の教養」とか「死と生を考える」とか「死生学」を素直に聞けなくなった。善意が利用されている気がする。……(中井久夫「「祈り」を込めない処方は効かない(?)――アンケートへの答え」初出1999年『時のしずく』所収)




「二十一世紀は灰色の世界、なぜならば、働かない老人がいっぱいいつまでも生きておって、稼ぐことのできない人が、税金を使う話をする資格がないの、最初から」、こう言ったわけであります。渡辺通産大臣は、それ以外にも、八三年の十一月二十四日には、「乳牛は乳が出なくなったら屠殺場へ送る。豚は八カ月たったら殺す。人間も、働けなくなったら死んでいただくと大蔵省は大変助かる。経済的に言えば一番効率がいい」、こう言っておられます。(第104回国会 大蔵委員会 第7号 昭和六十一年三月六日(木曜日) 委員長 小泉純一郎、1986年)









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以下、中井久夫による「移民のすすめ」


◆日本の心配(神戸新聞、1997.3.05) 中井久夫
このごろは新聞記事を見ても、周りの会話を聞いていても、日本の将来を心配する声が盛んである。

「日本が亡ぶ」という亡国論がある。しかし「国が亡ぶ」ということは文字どおり国が消滅しわれわれが死滅することではない。日本には数々の戦争と飢饉があって、しかもわれわれがここにいる。「亡ぶ」とは軽々しく吐くべき言葉ではないと私は思う。

心配の種の第一は高齢化社会である。しかし、これは必ず一時である。一時であり、また予見できるものは耐えられる。行政は最悪の場合を考えて対策を立てるものである。当然そうあるべきであり、行政特有の習性でもある。最悪の場合が実現の確率がもっとも高いとは限らない。高齢者が働けるように医学も行政も考えて突破するのが正道であるが、平均寿命自体が減少に向かうかもしれない。嬉しいことではないが、2030年といわれるピークまでに流行病が絶無である確率のほうが少ない。それに戦時中、小学生であった私の年齢の周辺は自殺率だけでなく病死率も高いのである。戦後っ子はどうか。

その先の心配は、人口減少という。21世紀の半ばに6千万の人口になる。だが、太平洋戦争開始時の「内地」人口は7千万以下であった。当時は4つの島ではやってゆけないと政治家もジャーナリズムもやかましく唱えて戦争を合理化したのだが、戦後4つの島で立派にやってゆけたではないか。

もちろん問題は人口の構成だといわれるだろう。しかし、人口減少と高齢化とは事実上すべての先進国に起こったことである。たとえばフランスでは、「20世紀初頭にフランス人であった人の子孫」は半世紀後すでに4割だといわれていた。今はもっと少なかろう。空白を移民が埋めたのである。わが国でも江戸人の末裔は現在の東京に10万いないだろう。後は全国からの移住者である。真空が周囲の空気を吸いよせるようなものである。

さて、日本の周囲には人口過剰の国が目白押しである。短期的には政策によって左右できるだろうが、長期的には日本が例外となるかどうか。ムソリーニは人口増加のために「独身税」を創設したが、効果があったとは聞いていない。人間はお国のために生殖にはげむものではない。第一、もう間に合わない。欧州諸国が非婚の子にやさしいのは悪いことではないが、これが人口政策の一環だと聞くと、それはにわかに賛成しがたい。

もし、欧州諸国のように、長期的には移民が将来の日本人を作ってゆくならば、それは無条件に危機か。たしかにマフィアのようなものが入ってきては困る。日本の麻薬に対するガードは固く、法的にも社会的にも制裁はきびしい。世界一だろう。日本の治安のよさは若年失業率の少なさとともに、このことによる。

欧州の場合、フランス文化は現在外国からの20世紀以後の移住者が担っているといってよい。わが国でも大方の予想以上にすでにそうである。カナダへの日本移民はもっとも成功した移民の歴史といわれる。まず結婚というテストがある。結婚しないで賭博や酒に明け暮れた移民は子孫を残さなかった。次に教育である。移民先覚者の凄い努力があった。3世の8、9割が非日系と結婚して「日系」は4、5世で消滅するという。日本では、結婚に際しての差別の個々例はいくらでもあろうが、宗教的障壁が低い利点もある。

ミトコンドリアDNA解析によれば、日本人ほど多種多様なものはないそうである。東アジア、東南アジアはもちろん、コーカジアン(いわゆる白人)はもとよりアフリカの血も結構入っているから驚く。未知の人種まであるそうだ。ここ以外では亡んだのかも。

考えてみれば、アジアの東端である。民族大移動の際に西に向かって西洋を作ったのもあるが、東に向かったのもあるだろう。たどり着いた人のたいていは太平洋の怒涛を眺めて、もう先がない、ここに腰を落ちつけようと思ったろう。そして、ユーラシア大陸には生きにくい時が多かった。孔子さまも、中国の政治に絶望して「私もむしろ筏に乗じて東海に浮かびたい」と叫んでおられる。歴史時代でも、百済と高句麗の遺民を受け入れ、蒙古襲来の際も中国・朝鮮系兵士は日本に入植させている。日本は化石多民族国家である。

ただ、よい人が魅力を感じるにはよい国でなければならない。フランスに文化的吸引力があるからジェンケレヴィッチもクリステヴァも来たわけである。日本の魅力は何だろうか。とにかく目下アジアでいちばん言論の自由であることは認めてよかろう。アジアに対して日本が貢献できるのは第一にはこれであると私は思う。17世紀西欧におけるオランダの役割である。明治時代にも朝鮮、中国、ベトナムの「志士」が日本に来ている。

私は「外人」という言葉を外国人が好まない事実を尊重したい。在日の人を別にして日本にいる外国人を「来国人」と呼んではどうであろうか。これも私の気づかない欠点があるだろうが、「外人」が主に紅毛碧眼の人種を指す点がなくなるだけでもよかろう。「古事記」にも「今来(いまき)、古来(ふるき)」という言葉がある。(中井久夫「日本の心配」神戸新聞、1997.3.05)





上の図の労働人口/年齢比率は、一律15~64歳の労働人口に対する比率。たとえば2040年70歳以上人口5978/3013=198%。

けれども労働人口の定義を、15~69歳に変更すれば、5978万人の労働人口は、約900万人ほど増えて、6900万人になる。これなら、約230%、つまり70歳以上の高齢者1人を労働人口2.3人で支えるとなる。

移民で労働人口のパイを2000万人(!)増やせば、労働人口8900万人となり、8900/3013=295%。これでもまだ労働人口3人で高齢者1人を支えなくちゃいけない。でも3人で1人を支えるってのが働き手の不満をもたらさない限界じゃないかな。1990年は、5.8人で高齢者1人を支えてたのに、まだ文句タラタラだったからな(ようするに税金が高いという意味。それに現在は累積債務1000兆円超も減らさなくちゃいけないからな)。

というわけで、みなさんガンバッテ移民を増やしませう! 若い人材じゃないとダメだからどこかの国と合併ってわけにはいかないぜ。東南アジアでは日本の移民政策はもう悪評高くなっちまったから、狙いはアフリカしかないんじゃないか、インドもありかな。

なにはともあれ世界人口も高齢化がすすんでるんだから、はやいとこやらないとな。






おい、計算間違いないかな? 計算間違いなかったらこれが「日本の心配」を解決する唯一の方法さ。「老体を減らすような何ごとか」以外のね。ま、だいたいの「誠実な」日本人は、無意識的な「老体を減らすような何ごとか」期待派なんだろうがね。