2019年11月18日月曜日

エロスは死である

前回はあえて示さなかったのだけれどーーいままで何回も示してきたのでーーまた問いをもらっている。通念とはまったく異なるのでやむえないとはいえ、もうめんどくさい。




以下、わたくしはこの観点をとっているという簡潔版。


■エロスは死

「エロスは死である」である。すくなくとも「究極のエロスは死」である。

生の欲動は死を目指し、死の欲動は生を目指す。[the life drive aims towards death and the death drive towards life.] (ポール・バーハウ Paul Verhaeghe , Phallacies of binary reasoning: drive beyond gender, 2004)
生の目標は死である。Das Ziel alles Lebens ist der Tod.…有機体はそれぞれの流儀に従って死を望むsterben will。生命を守る番兵Lebenswächterも元をただせば、死に仕える衛兵 Trabanten des Todes であった。(フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年)


■エロス=リビドー=享楽
すべての人の望みであり、みな自分がはっきりと言うことのできなかった望みの正体は、自分の愛する人と溶け合い、一つになることである。(プラトン『饗宴』)
哲学者プラトンのエロスErosは、その由来や作用や性愛 Geschlechtsliebe との関係の点で精神分析でいう愛の力 Liebeskraft、すなわちリビドーLibido と完全に一致している。(フロイト『集団心理学と自我の分析』1921年)
ラカンは、フロイトがリビドーとして示した何ものかを把握するために仏語の資源を使った。すなわち享楽である。(J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 30/03/2011)


■融合/分離(エロス/タナトス)
エンペドクレス Empedokles の二つの根本原理―― 愛 philia[φιλία]と闘争 neikos[νεῖκος ]――は、その名称からいっても機能からいっても、われわれの二つの原欲動 Urtriebe、エロスErosと破壊Destruktion と同じものである。エロスは現に存在しているものをますます大きな統一へと結びつけzusammenzufassenようと努める。タナトスはその融合 Vereinigungen を分離aufzulösen し、統一によって生まれたものを破壊zerstören しようとする。(フロイト『終りある分析と終りなき分析』第6章、1937年)
エロスは接触 Berührung を求める。エロスは、自我と愛する対象との融合Vereinigungをもとめ、両者のあいだの間隙を廃棄(止揚 Aufhebung)しようとする。(フロイト『制止、症状、不安』第6章、1926年)
エロスは二つが一つになることを基盤にしている。l'Éros se fonde de faire de l'Un avec les deux (ラカン、S19、 03 Mars 1972 Sainte-Anne)


■大他者の享楽=エロス=死
大他者の享楽[la Jouissance de l'Autre]……それはフロイトの融合としてのエロス、一つになるものとしてのエロスである[la notion que Freud a de l'Éros comme d'une fusion, comme d'une union]。(Lacan, S22, 11 Février 1975)
大他者の享楽 [jouissance de l'Autre] 、すなわちエロスありうるのは、…死に属するrelève de la mort ものの意味に繋がるときだけである。(ラカン、三人目の女 La troisième、1er Novembre 1974)
死への道は、享楽と呼ばれるもの以外の何ものでもない。[le chemin vers la mort n’est rien d’autre que ce qu’on appelle la jouissance] (ラカン、S17、26 Novembre 1969)


■愛/憎悪(エロス/タナトス)=引力/斥力
愛と憎悪との対立は、引力と斥力という両極との関係がおそらくある。Gegensatzes von Lieben und Hassen, der vielleicht zu der Polaritat von Anziehung und AbstoBung (フロイト『人はなぜ戦争するのかWarum Krieg?』1933年)
同化/反発化 Mit- und Gegeneinanderwirken という二つの基本欲動 Grundtriebe (エロスとタナトス)の相互作用は、生の現象のあらゆる多様化を引き起こす。二つの基本欲動のアナロジーは、非有機的なものを支配している引力と斥力 Anziehung und Abstossung という対立対にまで至る。(フロイト『精神分析概説』草稿、死後出版1940年)
愛は死の欲動の側にある。l'amour est du côté de la pulsion de mort. (Jean-Paul Ricœur, LACAN, L'AMOUR, 2007)

※参照:なぜエロス欲動は死の欲動なのか