以下、鈴木亘「ベーシック・インカムの実現可能性に関する一考察」2021年、PDF からだが、15歳以上の国⺠は⽉額10万円、15歳未満は⽉額6.6万円のベーシックインカムを支給したとき、年145兆円の財源がいる。その財源は、どうするか、という試算がなされている。
ベーシックインカム導入は必然的に、既存の社会保険給付費等(年金、医療、生活保護等)をカットすることになる。そのカット額は99兆円ほどある。足りない分は、消費税率相当21.7パーセントが必要だというもので、つまり、仮に全額消費税で補填するなら、現在の消費税10%を32%しなくてはならないということであり、事実上のベーシックインカム給付額は、⽉額10万円ではなく7万円となる。
これは、私が今まで見たベーシックインカムの財源論としては、最も説得的な論文だね。細部の検証はしていないが、BI を導入すれば、ほぼこうせざるを得ないということでいいんじゃないか。
図表1 ベーシック・インカム導入時の予算と財源の試算1 |
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単位:兆円 |
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(1) |
ベーシック・インカム予算額 |
145.0 |
15歳以上の国⺠は⽉額10万円、 15歳未満は⽉額6.6万円 |
(2) |
代替予算 |
99.4 |
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内訳 |
⽣活保護費 (⽣活扶助分、住宅扶助分) |
1.8 |
厚⽣労働省「⽣活保護費負担⾦事業実績報告」(平成29年度) と平成31年当初予算案から推計 |
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基礎年⾦(基礎年⾦給付費+基礎年⾦相当給付費) |
23.9 |
厚⽣労働省「公的年⾦財政状況報告(平成30年度)」 |
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児童⼿当・児童扶養⼿当 |
2.3 |
内閣府「児童⼿当制度の概要」(令和2年度)、厚⽣労働省 「令和2年度ひとり親家庭等⾃⽴⽀援関係予算案の概要」 |
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教育無償化 |
1.4 |
厚⽣労働省「令和2年度予算案の概要」 |
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失業等給付 |
1.3 |
厚⽣労働省「労働保険特別会計雇⽤勘定・歳⼊歳出予算の概要」(令和2年度当初予算) |
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育児休業給付 |
0.7 |
厚⽣労働省「労働保険特別会計雇⽤勘定・歳⼊歳出予算の概 要」(令和2年度当初予算) |
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社会保障関係費 (医療保険、介護保険分) |
15.7 |
厚⽣労働省「予算案の概要」(令和2年度当初予算) |
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配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除・社会保険料等控除・利⼦配当控除等 |
51.2 |
財務省「令和2年度 租税及び印紙収⼊予算の説明」 |
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消費税軽減税率 |
1.1 |
財務省試算 |
(3) |
差額((1)-(2)) |
45.5 |
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消費税率に換算 |
21.7% |
消費税1%当たり2.1兆円で計算 |
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所得税率に換算 |
23.1% |
課税所得+上記の控除額を新課税所得として計算(財務省「租税及び印紙収⼊予算の説明」(令和2年度当初予算)) |
(鈴木亘「ベーシック・インカムの実現可能性に関する一考察」2021年) |
ベーシック・インカムの金額をもう少し下げるという方法もある。例えば,国民一人当たり 8万円,15歳未満はその2/3である5.3万円という制度設計ならば,ベーシック・インカムの総予算額は116.0兆円になる。財源不足は16.6兆円まで圧縮されるから,消費税増税で 賄うとすると7.9%,所得税増税では8.4%である。 |
もちろん,原田(2015)が挙げた追加的な歳出削減策をもし実行できれば,計算上は何とか増税をしなくても財源が確保できる水準となる。 ただ,これを実施するとなると,もはや改革というより革命と言った方が良いかもしれない。 この国の形を大きく変えることになる。農林水産業や建設業,自営業,中小企業,地方,高齢 者への事前の所得再分配政策や岩盤規制を廃止し,地方公務員も大幅に削減して小さな政府を目指すことになる。ベーシック・インカムという生活保障は確保されているのだから,企業や労働者は市場で激しい競争を行い,安心して成長のためのリスクを取ってもらおうということになるだろう。 |
実は,ベーシック・インカムの本当の意義は,その導入をきっかけに,この国を成長型の体質に作り替えるということにあるのかもしれない。そして,そこまでやる覚悟があるのであれば,ベーシック・インカムは将来のために,十分にやる価値のある大改革となるだろう。 したがって,国民にはそこまできちんとした説明をすべきである。ベーシック・インカムを 「10万円の給付金が毎月もらえる制度」というぐらいにしか理解せず,甘い餌に釣られて賛成する国民では,この厳しい改革についてこられる訳がない。(鈴木亘「ベーシック・インカムの実現可能性に関する一考察」2021年、PDF) |