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2021年12月27日月曜日

二種類の無意識簡潔版

 

◼️二つの無意識ーー原抑圧の無意識と抑圧の無意識

フロイトは、システム無意識[System Ubw] あるいは原抑圧[Urverdrängung]と力動的無意識[Dynamik Ubw ]あるいは抑圧された無意識[verdrängtes Unbewußt]を区別した(『無意識』1915年)。


システム無意識[System Ubw] は、欲動の核の身体の上への刻印(固着[Fixierung])であり、欲動衝迫の形式における要求過程化である。〔・・・〕他方、力動的無意識[Dynamik Ubw]は、誤った結びつけ[eine falsche Verkniipfung]のすべてを含んでいる。すなわち、原初の欲動衝迫とそれに伴う防衛的加工を表象する二次的な試みである。言い換えれば症状である。フロイトはこれを、無意識の後裔 [Abkömmling des Unbewussten](『無意識』第6章)と呼んだ。(ポール・バーハウ Paul Verhaeghe、On Being Normal and Other Disorders A Manual for Clinical Psychodiagnostics、2004年)



力動的無意識としての抑圧とは、後期抑圧である。


われわれが治療の仕事で扱う多くの抑圧は、後期抑圧の場合である。それは早期に起こった原抑圧を前提とするものであり、これが新しい状況にたいして引力をあたえる[die meisten Verdrängungen, mit denen wir bei der therapeutischen Arbeit zu tun bekommen, Fälle von Nachdrängen sind. Sie setzen früher erfolgte Urverdrängungen voraus, die auf die neuere Situation ihren anziehenden Einfluß ausüben. ](フロイト『制止、症状、不安』第2章、1926年)



原抑圧の無意識は欲動の現実界の無意識である。


私が目指すこの穴、それを原抑圧自体のなかに認知する[c'est ce trou que je vise, que je reconnais dans l'Urverdrängung elle-même.](Lacan, S23, 09 Décembre 1975)

欲動の現実界がある。私はそれを穴の機能に還元する。…穴は原抑圧と関係がある[il y a un réel pulsionnel …je réduis à la fonction du trou.…La relation de cet Urverdrängt](Lacan, Réponse à une question de Marcel Ritter、Strasbourg le 26 janvier 1975)

現実界は穴=トラウマを為す[le Réel … ça fait « troumatisme ».](ラカン, S21, 19 Février 1974)



他方、(後期)抑圧の無意識は、欲望の象徴界の無意識である。


欲望は防衛である。享楽へと到る限界を超えることに対する防衛である[le désir est une défense, défense d'outre-passer une limite dans la jouissance].( ラカン、E825、1960)

欲望は自然の部分ではない。欲望は言語に結びついている。それは文化で作られている。より厳密に言えば、欲望は象徴界の効果である[le désir ne relève pas de la nature : il tient au langage. C'est un fait de culture, ou plus exactement un effet du symbolique.](J.-A. MILLER "Le Point : Lacan, professeur de désir" 06/06/2013)

欲動は、ラカンが享楽の名を与えたものである[pulsions …à quoi Lacan a donné le nom de jouissance.](J. -A. MILLER, - L'ÊTRE ET L'UN - 11/05/2011)




上にあるように欲望は言語に繋がっている。他方、欲動(享楽)は身体にかかわる。

エスの要求によって引き起こされる緊張の背後にあると想定された力を欲動と呼ぶ。欲動は心的生に課される身体的要求である[Die Kräfte, die wir hinter den Bedürfnisspannungen des Es annehmen, heissen wir Triebe.Sie repräsentieren die körperlichen Anforderungen an das Seelenleben].(フロイト『精神分析概説』第2章1939年)

ラカンは、享楽によって身体を定義するようになる[Lacan en viendra à définir le corps par la jouissance](J.-A. MILLER, L'Être et l 'Un, 25/05/2011)


ーー《私が享楽と呼ぶものは、身体を経験するという意味である[ce que j'appelle jouissance au sens où le corps s'éprouve,]》(Lacan : Psychanalyse et médecine, Lacan, 16 février 1966)



以上、次の通り。





今、左右に分けたが、実際は原抑圧に結びついていない後期抑圧はない。身体に結びついていない言語なんてものは、数学的言語のたぐいでなければなければない。


つまりーー、


欲動に結びついていない欲望はない[il n'y a pas de désir qui ne soit connecté à la pulsion](J.-A. MILLER, L'Être et l'Un - 25/05/2011)


なんでも欲動だよ、欲望は欲動に対する防衛だが、防衛なんかできっこない。



……………………


なお原抑圧の別名は固着である。


「抑圧」は三つの段階に分けられる。

①第一の段階は、あらゆる「抑圧」の先駆けでありその条件をなしている固着である[Die erste Phase besteht in der Fixierung, dem Vorläufer und der Bedingung einer jeden »Verdrängung«. ]。〔・・・〕

この欲動の固着[Fixierungen der Triebe] は、以後に継起する病いの基盤を構成する。そしてさらに、とくに三番目の抑圧の相を生み出す決定因となる[Fixierungen der Triebe die Disposition für die spätere Erkrankung liege, und können hinzufügen, die Determinierung vor allem für den Ausgang der dritten Phase der Verdrängung. ]


②正式の抑圧[eigentliche Verdrängung]の段階は、ーーこの段階は、精神分析が最も注意を振り向ける習慣になっているがーー実際のところ後期[Nachdrängen]の抑圧である。〔・・・〕①の原初に抑圧された欲動[primär verdrängten Triebe] がこの二段階目の抑圧に貢献する。


③第三段階は、病理現象として最も重要であり、抑圧の失敗[Mißlingens der Verdrängung]、侵入[Durchbruchs]、抑圧されたものの回帰[Wiederkehr des Verdrängten]である。この侵入[Durchbruch]とは固着点[Stelle der Fixierung]から始まる。そしてその点へのリビドー的展開の退行[Regression der Libidoentwicklung]を意味する。(フロイト『自伝的に記述されたパラノイアの一症例に関する精神分析的考察』(症例シュレーバー)1911年、摘要)



上にあるように抑圧されたものの回帰とは事実上、固着の回帰(「欲動の固着=享楽の固着」の回帰)である。


「抑圧されたものの回帰」のスキーマは、症状の形態における「享楽の回帰」と相同的である。そしてこの固執する残滓が、ラカンが対象aの名を与えたものである[C'est symétrique du schéma du retour du refoulé, …symétriquement il y a retour de jouissance, sous la forme du symptôme. Et c'est ce reste persistant à quoi Lacan a donné la lettre petit a. ](J.-A. MILLER, Le Partenaire-Symptôme, 10/12/97)

無意識の最もリアルな対象a、それが享楽の固着である[ce qui a (l'objet petit a) de plus réel de l'inconscient, c'est une fixation de jouissance.](J.-A. MILLER, L'Autre qui n'existe pas et ses comités d'éthique, 26/2/97)


享楽は真に固着にある。人は常にその固着に回帰する[La jouissance, c'est vraiment à la fixation …on y revient toujours. ](Miller, Choses de finesse en psychanalyse XVIII, 20/5/2009)

分析経験の基盤、それは厳密にフロイトが「固着 Fixierung」と呼んだものである[fondée dans l'expérience analytique, …précisément dans ce que Freud appelait Fixierung, la fixation. ](J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 30/03/2011)