2022年2月16日水曜日

鎮守の森と樟のざわめき

 いやあ思い返せば思い返すほど

オメコに翻弄された人生だったなあ


十代には鎮守の森の風景にひどくうなされたからなあ

アレがたたったんだよなあ


風景あるいは土地の夢で、われわれが、ここへは一度きたことがある[Da war ich schon einmal.]とはっきりと自分にいってきかせるような場合がある。さてこの「既視感〔デジャヴュ déjà vu〕」は、夢の中では特別の意味を持っている。その場所はいつでも母の性器[Genitale der Mutter] である。事実「すでに一度そこにいたことがある [dort schon einmal war]」ということを、これほどはっきりと断言しうる場所がほかにあるであろうか。ただ一度だけ私はある強迫神経症患者の見た「自分がかつて二度訪ねたことのある家を訪ねる[er besuche eine Wohnung, in der er schon zweimal gewesen sei.]という夢の報告に接して、解釈に戸惑ったことがあるが、ほかならぬこの患者は、かなり以前私に、彼の六歳のおりの一事件を話してくれたことがある。彼は六歳の時分にかつて一度、母のベッドに寝て、その機会を悪用して、眠っている母の陰部に指をつっこんだことがあった[Finger ins Genitale der Schlafenden einzuführen.](フロイト『夢解釈』1900年)



初性交の場がネットに落ちていてビックリしたんだけどさ

故郷の陸軍墓地の墓石の台座に乗ってもらってさ

豊かな太腿をガバッと開いて一瞬祈りを捧げたよ

見事なオケケの女だったなあ 母もすごく濃かったけどさ


犬の遠吠えがきこえてくる森閑とした晩夏の昼過ぎの出来事

誰かに覗かれてるかもなんてお構いなしの必死の一刻だった




十八でヤッテからはタタリの対象が

鎮守の森から樟のざわめきに移行したんだけど

五十九からまた鎮守の森が復活したんだ

なぜだかは言わないでおくけどさ




女性器は不気味なものである。das weibliche Genitale sei ihnen etwas Unheimliches. 

しかしこの不気味なものは、人がみなかつて最初はそこにいたことのある場所への、人の子の故郷への入口である。Dieses Unheimliche ist aber der Eingang zur alten Heimat des Menschenkindes, zur Örtlichkeit, in der jeder einmal und zuerst geweilt hat.

冗談にも「愛は郷愁だ」と言う。 »Liebe ist Heimweh«, behauptet ein Scherzwort,

そして夢の中で「これは自分の知っている場所だ、昔一度ここにいたことがある」と思うような場所とか風景などがあったならば、それはかならず女性器、あるいは母胎であるとみなしてよい。und wenn der Träumer von einer Örtlichkeit oder Landschaft noch im Traume denkt: Das ist mir bekannt, da war ich schon einmal, so darf die Deutung dafür das Genitale oder den Leib der Mutter einsetzen.

したがっての場合においてもまた、不気味なものはこかつて親しかったもの、昔なじみのものである。この言葉(unhemlich)の前綴 un は抑圧の徴なのである。

Das Unheimliche ist also auch in diesem Falle das ehemals Heimische, Altvertraute. Die Vorsilbe » un« an diesem Worte ist aber die Marke der Verdrängung. (フロイト『不気味なもの Das Unheimliche』第2章、1919年)



樟のざわめき程度だったら

まだマシだったんだがなあ




私は橋のうえからその鑵が沈んでゆくのを見まもり、いつまでもそれを憶えておこうと思った。しかし、その空鑵はいつか私の頭から忘れさられた。ただ裏の女の子とこのようにして別れた苦痛は後までよく憶いだされた。そして、そのたびに私はあの樟のざわめきや、女中部屋の匂いや、池水の冷たい反映をふと憶いうかべるのであった。(辻邦生『夏の砦』)



樟の女は十四のときに惚れに惚れてさ

学校からの帰り道、廃屋になった広い敷地に何度も潜り込んで

腫れ上がって学生ズボンのチャックが破裂寸前のモノで

下腹やら腿やらを押しまくるのは許してくれたんだが

イレルのは全然ダメだったんだ

一度だけヌット出したら、腿の間に挟んではくれたけどさ

すぐに白い鳩が飛んじゃって

セーラー服のスカートの裏がベトベトになっちまって困惑したな 

テッシュなんかなかったからさ 

ハンカチ一枚ではまったく拭い切れない盲目の鳥の羽ばたきの跡さ


あるとき誰かが入ってきて

慌てて裏塀を乗り越えて逃げたんだけど

あのもっこり光景も衝撃だったなあ



ナオミさんが先頭で乗り込む。鉄パイプのタラップを二段ずつあがるナオミさんの、膝からぐっと太くなる腿の奥に、半透明な布をまといつかせ性器のぼってりした肉ひだが睾丸のようにつき出しているのが見えた。地面からの照りかえしも強い、熱帯の晴れわたった高い空のもと、僕の頭はクラクラした。(大江健三郎「グルート島のレントゲン画法」『いかに木を殺すか』所収)


で、四年越しにようやく墓地でヤラしてもらったんだけど

後で他の男の子供を堕ろしたばかりだったのを知って

これまたタタッタなあ


女の気持ちを確かめるために(?)

その一年上の男の家の前にある同級の女友達の家を訪ねて

彼女はいなかったんだが

兄が出てきてすぐ帰るから部屋で待ってて、というから

二人で部屋に上がり込んですぐヤリはじめたんだが

最中に兄が紅茶をもってきてさ

彼の慌てようってのはなかったね

恥ずかしさを隠すために二人で大笑いして逃げ出したんだけどさ

女友達のオッカサンが怒っちゃってさ

樟の女の家に電話してきたらしい

偶然、樟女が電話に出て

彼女の母のふりをして応答して難を逃れたと言っていたな

頭の回転のひどくいい当時は国立女子大の女だった


こういったことがすべてあの市電通りの左右で起こったんだ

あの夢以来どうもいけない

何ものかが怒涛のように押し寄せてくる