2022年3月3日木曜日

反ロシアでの結束の危険性

 この人うまいこと言ってるなあ。


結局、反ロシアで結束しちゃってるんだよな、フロイト的に言えば「集団神経症」になっちまってるんだ。


集団神経症は基本的には自我理想(指導者あるいは理念でもよろしい)を自我に取り入れることで、その集団の成員のあいだで感情結合が起こるということだ。





原初的集団は、同一の対象を自我理想の場に置き、その結果おたがいの自我において同一化する集団である「Eine solche primäre Masse ist eine Anzahl von Individuen, die ein und dasselbe Objekt an die Stelle ihres Ichideals gesetzt und sich infolgedessen in ihrem Ich miteinander identifiziert haben.](フロイト『集団心理学と自我の分析』第8章、1921年)


第一に、同一化は対象への最も原初的感情結合である 。第二に、同一化は退行の道を辿り、自我に対象を取り入れることにより、リビドー的対象結合の代理物になる。daß erstens die Identifizierung die ursprünglichste Form der Gefühlsbindung an ein Objekt ist, zweitens, daß sie auf regressivem Wege zum Ersatz für eine libidinöse Objektbindung wird, gleichsam durch Introjektion des Objekts ins Ich(フロイト『集団心理学と自我の分析』第7章、1921年)


でもこの自我理想としての理念が「憎悪」の場合もある。


指導者や指導的理念[Der Führer oder die führende Idee]が、いわゆるネガティヴの場合もあるだろう。特定の個人や制度にたいする憎悪[der Haß gegen eine bestimmte Person oder Institution」は、それらにたいする積極的依存と同様に、多くの人々を結束させるように作用するだろうし、類似した感情的結合を呼び起こしうる。Der Führer oder die führende Idee könnten auch sozusagen negativ werden; der Haß gegen eine bestimmte Person oder Institution könnte ebenso einigend wirken und ähnliche Gefühlsbindungen hervorrufen wie die positive Anhänglichkeit.(フロイト『集団心理学と自我の分析』第6章、1921年)



ラカン派で使われる簡易図で示せばこうなる。






基本的にはヨーロッパ諸国を中心にして右の形で感情結合が起こっていると見做せる。もっとも左の形ーー軍事力でなんとでもなるというロシア軍に対して徹底抗戦するウクライナという国あるいはゼレンスキー自身が民主主義的理想という意味での「自我理想」となっているということもありうる。


おそらくウクライナの近隣諸国は自分の国の安全保障感が侵される危険を体感しているという意味で、憎悪での感情結合要素が大きく、少し離れた国なら自我理想による感情結合の要素が多くなる。


上の図の語彙にウクライナと反ロシアを代入すればこうだ。




フロイトにとってこの形の集団神経症ーー集団ヒステリーや集団強迫神経症と言ってもよい。ヒステリーの強迫神経症の相違は最も基本的には「融合/分離」だが、《強迫神経症言語は、ヒステリー言語の方言である[die Sprache der Zwangsneurose ist gleichsam nur ein Dialekt der hysterischen Sprache]》(フロイト 『鼠男』 1909年)であり、ベースは「集団ヒステリー」ーー、この集団神経症の何が悪いかと言うと、何よりもまずアツくなって批判精神がなくなることだ。



集団は異常に影響をうけやすく、また容易に信じやすく、批判力を欠いている。Die Masse ist außerordentlich beeinflußbar und leichtgläubig, sie ist kritiklos, (フロイト『集団心理学と自我の分析』第2章)

集団にはたらきかけようと思う者は、自分の論拠を論理的に組みたてる必要は毛頭ない。きわめて強烈なイメージをつかって描写し、誇張し、そしていつも同じことを繰り返せばよい。Wer auf sie wirken will, bedarf keiner logischen Abmessung seiner Argumente, er muß in den kräftigsten Bildern malen, übertreiben und immer das gleiche wiederholen.(フロイト『集団心理学と自我の分析』第2章)

集団内部の個人は、その集団の影響によって彼の精神活動にしばしば深刻な変化をこうむる。彼の情動は異常にたかまり、彼の知的活動[intellektuelle Leistung] はいちじるしく制限される。そして情動と知的活動は両方とも、集団の他の個人に明らかに似通ったものになっていく。そしてこれは、個人に固有な欲動制止が解除され、個人的傾向の独自な発展を断念することによってのみ達せられる結果である。この、のぞましくない結果は、集団の高度の「組織」によって、少なくとも部分的にはふせがれるといわれたが、集団心理の根本事実である原集団における情動興奮と思考の制止 [der Affektsteigerung und der Denkhemmung]という二つの法則は否定されはしない。(フロイト『集団心理学と自我の分析』第4章、1921年)


要するに同一化によって批判力の欠如あるいは思考制止が生じ、情動興奮に支配されるようになるということだ。


ニュースを垣間見る範囲でも、これが起こってる感じがするね、ポーランドやフィンランド、スウェーデンなどは特に。ドイツだってだいぶあやしい。これが冒頭のSpicaさんが言っている反ロシアでの結束の危険性ということだ。