2022年4月13日水曜日

「巧みな弁舌に惑わされ、事の理非を糾す暇もないままに、一度限りの言辞に欺かれるかもしれない」国際政治学者たち

 

ボクが主に観察した国際政治学者は、池内恵、篠田英朗、細谷雄一、中山俊宏、そして小泉悠だよ。



とくにこの4人ってのはゼレンスキーの演説に「大衆とともに」ナイーヴに萌えちゃったわけだ。だからとっても興味深くてさ。

興味深いってのは「巧みな弁舌に惑わされ、事の理非を糾す暇もないままに、一度限りの言辞に欺かれるかもしれない」国際政治学者たちだから。


「我々は君らの市民に直接語りかける機会を与えられていない。なぜならば、大衆は立て続けに話されると巧みな弁舌に惑わされ、事の理非を糾す暇もないままに、一度限りの我らの言辞に欺かれるかもしれないとの恐れ(それゆえ我々は君ら少数の選ばれた者を招集したのだ)があるからだ。さればここに列席する諸君に、さらに万全を期しうる方法を提案しよう。この会談が一度限りの一方的な通達に終わらぬよう、君たちの一つの論に私たちが一つの弁で答える。我らの言葉に不都合なりと覚える点があれば、直ちに遮って理非を糾して貰いたい。まずはこの点に満足か答えて貰いたい」(ツキジデス『戦史』)



本来、政治学者も含めた知識人というのは、こういった大衆的熱狂にブレーキをかけるのが第一の役割だと思ってたから、ビックリ仰天しちゃったよ。

昨晩、東浩紀が「実に正当的に」指摘してたけど。


東浩紀 Hiroki Azuma@hazuma 2022年04月12日

これからことあるごとに言っていきたいのだけど、民主主義の最大のリスク(のひとつ)は世論が沸騰し合理的な判断ができなくなること。ゼレンスキーはその点で西欧諸国にきわめて効果的なハイブリッド戦争を仕掛けている。ロシアに、ではなく西欧諸国に。ロシアに対しては機能しないから。1/2

このままでは多くの国が巻き込まれかねない。核戦争もありうる。この状況においては、言論人や専門家の役割は、世論の沸騰を制御し、指導者が合理的な判断をできるようにすることにあると考えます。それはプーチンが悪かどうかと関係ありません。とりあえず落ち着け、と言い続けることですね。2/2

余談として付け加えると、これはぼくがコロナのときに専門家に求めていた(そして果たされなかった)役割と同じ。専門家はパニックを抑えなければならない。民主主義はとにかくパニックに弱いのでこれは大前提。パニックを煽る専門家は、個々の指摘で正しくても総じては社会に害を与えると思います。



しかもしばらく観察していると、あの4人うちのとくに3人、池内恵・篠田英朗・細谷雄一は、「特定のアクターだけを悪者として片付ける」タイプのように捉えざるを得ず、ますますビックリ仰天しちまったな。


塩川伸明 @NobuakiShiokawa 2022年04月12日

「どっちもどっち」と言ってはいけない事項と、「特定のアクターだけを悪者として片付けることなく、多面的な検討が必要だ」と言うべき事項との区別が重要なのではないでしょうか。私は戦争そのものについては決して「どっちもどっち」とは言いませんが、その背景は別だと思います。

KANAYAMA Koji@kanayVc

「どっちもどっち論〔をあいつらは言っている〕」と言い出す人間は総じて危ない・雑なのではないか、という、若干雑な感想を抱きつつある。



以前に次の図を示したけどさ(参照)。



NATOの箇所はゼレンスキーを入れたっていいさ。


ボクの観点ではあの3人は、政治学、いやごく標準的な人文学的知に反するとっても危ないタイプじゃないかと疑っているんだ。


根源的悪に直面しては独裁以外ない[angesichts des radikal Bösen gibt es nur eine Diktatur ](カール・シュミット『政治神学』1922年)

ボルシェヴィズムとファシズムとは、他のすべての独裁制と同様に、反自由主義的であるが、しかし、必ずしも反民主主義的ではない。民主主義の歴史には多くの独裁制があった。Bolschewismus und Fascismus dagegen sind wie jede Diktatur zwar antiliberal, aber nicht notwendig antidemokratisch. In der Geschichte der Demokratie gibt es manche Diktaturen, (カール・シュミット『現代議会主義の精神史的地位』1923年版)

民主主義とは、治者と被治者と同一性、支配することと支配されることの同一性、命令することと従うことの同一性である。Demokratie (...) ist Identität von Herrscher und Beherrschten, Regierenden und Regierten, Befehlenden und Gehorchenden(カール・シュミット『憲法論』1928年)



ファシズム的なものは受肉するんですよね、実際は。それは恐ろしいことなんですよ。軍隊の訓練も受肉しますけどね。もっとデリケートなところで、ファシズムというものも受肉するんですねえ。〔・・・〕マイルドな場合では「三井人」、三井の人って言うのはみんな三井ふうな歩き方をするとか、教授の喋り方に教室員が似て来るとか。〔・・・〕

アメリカの友人から九月十一日以後来る手紙というのはね、何かこう文体が違うんですよね。同じ人だったとは思えないくらい、何かパトリオティックになっているんですね。愛国的に。正義というのは受肉すると恐ろしいですな。(中井久夫「「身体の多重性」をめぐる対談――鷲田精一とともに」2003年『徴候・記憶・外傷』所収)



で、前回書いたようにもうウンザリしてきたけどね、とはいえ連中の危なさーー東浩紀や塩川伸明は充分に気がついているだろうけどーー、あのアブナサにもっと多くの人がそろそろ気づかないとな。