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2022年5月17日火曜日

ウクライナ戦争の責任を負うのはシンプルに米国だ

 


2022年2月24日、ロシアの宇国軍事侵攻は絶対悪だ

2014年2月のロシアのクリミア併合は絶対悪だ


という立場がある。ごく一般大衆は今でもそう思っている人が多いだろうし、私も当初はそう思っていた。だがそうではないという立場があるのを二か月ほど前知った。その代表的な人物がミアシャイマーだ。



「ウクライナ戦争勃発の責任は米国に」 

シカゴ大学・ミアシャイマー教授の発言  2022年4月21日

 米国の国際政治学者でシカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマー氏が、3月4日にYouTubeで公開した動画で「ウクライナ戦争勃発の第一の責任は米国にある」と発信している。ミアシャイマー氏は動画で、NATOの東方拡大、米国による日本への原爆投下や空襲、キューバ危機などについて言及し、欧米側がエスカレートさせているロシアを追い詰める行動が核戦争の危機を引き寄せていることに警鐘を鳴らしている。

 

 ミアシャイマー教授は動画内で、ウクライナ危機に関して「今回の危機の原因を明確にすることは責任の所在を明らかにする上で非常に重要」と強調している。そして「西側諸国、特に米国がこの危機を引き起こした」という見解と「ロシアが危機を招いた」という見解が二分している現状にふれ、危機を引き起こした側がウクライナ危機に伴う大惨事の責任を負わなければならないと指摘した。


 そのうえで「現在、米国や西側諸国はロシアに責任があり、とくにプーチンに責任があると主張しているが、私はこの主張をまったく信用していない。私は今日起きていることの第一の責任は西側にあると考えている」と明言。

 「2006年4月、NATOがウクライナとジグルジア(ジョージア)をその一員とすると決定したことが主な原因だ。NATOは何があろうともウクライナをNATOに引き入れるつもりだった。しかし当時、ロシア側は、絶対に容認できないと反発した。当初はグルジアもウクライナもNATOの一員になるつもりはなかった。そんなことをすれば自国に極度の緊張をもたらすため、自身で一線を画していたからだ。だがグルジアがNATOに加盟するかどうかという問題が起こり、ロシアとグルジア間で戦争が起こった」「このとき西側には三つの戦略があった。核になったのは、ウクライナをNATOに統合することであり、他の二つの柱はウクライナをEUに統合するとともに、ウクライナを親西欧の自由民主主義国家にし、“オレンジ革命”を成就させることだった。これはすべて、ロシアとの国境に接するウクライナを親欧米の国にするための戦略だった。このときロシアは“こんなことはさせない”と明確に反論していた」と指摘した。


 さらに「私が考えたいのは、2014年2月に“クリミア併合”という大きな危機が発生したことだ。昨年12月に再び大きな危機が発生し、今年の2月24日、ついにウクライナ戦争が始まった。この2014年2月には、陰で米国が支援する“マイダン革命”というクーデターが起き、ヤヌコヴィッチ大統領が倒され、親米派の大統領代行(トゥルチノフ)が後任となった。ロシアはこうしたなかでEU拡大について、西側やウクライナと激しく議論していた。この時期の背景には、常にNATOの東方拡大があった」と強調。

 

 それがクリミア併合やウクライナ東部の内戦を発生させたことにもふれ、「この内戦が2014年以降、今日まで8年間も続いている。危機は2014年に爆発し、昨年半ばから再び過熱し始め、昨年末に2度目の大きな危機が訪れた。この危機を引き起こしたのは何か? 私の考えでは、ウクライナが事実上NATOの一員になりつつあったことが大きな要因だ」との見解を示した。


 また、西側諸国の「ロシアはウクライナがNATOの一員になることを恐れることはなかった」という主張について「事実は違う」と反論。「米国がおこなったことは、ウクライナ人を武装させることだ。2017年12月、トランプ大統領はウクライナ人の武装化を決定した。米国はウクライナ人を武装させ、ウクライナ人を訓練し、ウクライナ人とこれまで以上に緊密な外交関係を結んでいた。このことがロシアを刺激した。昨年夏にはウクライナ軍がドンバス地域の親ロシア派住民に対して無人爆撃機を使用した。昨夏にイギリスが黒海のロシア領海を駆逐艦で通過したときも、ロシア沿岸から約20㌔㍍以内の地域を爆撃機で飛行し、ロシアを挑発した」「ロシアのラヴロフ外相は今年1月、“なぜロシアがこのような状況になったのか”と問われ、“NATOの東方拡大やウクライナに関連する一連の軍事的挑発でロシアへの脅威が沸点に達した”と答えた。その結果、2月24日にロシアがウクライナに侵攻した」とのべている。


 加えて、米政府要人などによる「(ロシアの侵攻と)NATOの東方拡大とは関係ない」という主張についても「ロシアの側は2008年4月以来、“NATOは東方拡大こそが目的であり、NATOのウクライナへの進出はロシアにとっての存亡の危機だ”と指摘し続けているのに、どうしてそんなことがいえるのか。まったく理解不能だ」と批判している。

 

 西側諸国が「ウクライナはロシアをうち負かす」と色めき立っていることについて、「これは、2008年の南オセチア紛争や2014年に月のクリミア紛争よりもずっと悪い結果をもたらすことを認識すべきだ」と指摘した。


 そして「太平洋戦争の末期、米国が何をしたかわかるだろうか? 終戦間近の1945年3月10日から、アメリカは日本各地の大都市の無辜の市民に、次々に無差別空襲爆撃をおこなった。その後、東京に最初に特殊爆弾(焼夷弾)を投下し、一夜にして広島や長崎の犠牲者よりもっと多くの一般市民を焼き殺したのだ。実に計画的かつ意図的に、アメリカは日本の大都市を空襲で焼き払ったのだ。なぜか? 大国日本が脅威を感じているときに、日本の主要な島々に直接軍事侵攻したくなかったからだ」「かつてのキューバ・ミサイル危機を思い出してほしい。キューバ危機で起こったことは、今回の状況ほど米国を脅かすものではなかったと思う。だが米国政府がどう考えていたか? 当時を振り返って見てほしい。米国は極度に脅威を感じていた。キューバにソ連のミサイルが配置されることは米国存亡の危機であるとみなし、ケネディの顧問の多くはソ連に対して本当に核兵器を使用することを計画していた」と強調。そのうえで「大国が存亡の危機に直面すると、これほどまでに真剣になる。だからこそ世界は今、極限的に危険な状況にある。核戦争の可能性は非常に低いと思われるものの、核兵器使用の可能性を完全に排除できない今、その結果を想像すると私は本当に怖ろしいと感じる。したがって米国も西側もロシアを追い込む行動には、細心の注意と自制心を払うことが最も重要だ」とのべている。


 そして「ここで起こったことは、米国がウクライナを花で飾られた棺へとを誘導していった結果だ。米国はウクライナがNATOの一員になることを強く勧め、ウクライナ人をNATOの一員にするよう懸命に働きかけた。ロシアが“それは受け入れられない”とはっきりいったにもかかわらず、米国はウクライナをロシア国境の西の防波堤にしようと懸命に働きかけた」「米国は棒で熊の目を突いたのだ。当然のことながら、そんなことをすれば熊は反撃に出る。ここで起きている米国とロシアの対立は、まさにそういうものだ」と指摘している。

 

 ミアシャイマー教授は最後に「今回のもっとも重要な問いかけに戻ろう。一体誰が、今回のウクライナ戦争の責任を負うのだろうか? ロシアが責任を負うのか? 私はそうは思わない。もちろん私はロシアの行為をたいした問題ではないなどと軽んじるつもりはまったくない。だが、誰が責任を負うべきか? という問いについての答えは、非常に簡単だ。それは米国だ」と結論づけている。




2014年当時のウクライナの問題、マイダン革命やそれに伴う露国クリミア併合等については、元IMF日本代表理事の小手川大助氏が、このミアシャイマーと同様な話を、より詳しく「ウクライナ問題について」(2014年)にて記している➡︎「ウクライナのネオナチ」問題


小手川氏によれば、2013年のIMFの会議において既にウクライナのネオナチ問題が話題にされていたそうだ。


さらに、国際法上、ロシアのウクライナ介入は合法という国際法学者までいる。これは極論かも知れない。だが、事実関係の記載については傾聴に値する、と私は思う。



Daniel Kovalik: Why Russia’s intervention in Ukraine is legal under international law 2022.4.23

木村 貴@libertypressjp「国際法上、ロシアのウクライナ介入が合法な理由」

弁護士、ダニエル・コバリク(2022.4.23)

*米ピッツバーグ大学ロースクールで国際人権について教鞭をとる。


以下は、この論の後半部分の木村 貴@libertypressjpによる摘要訳。原文を必ず参照のこと。例えば "according to a 2020 Washington Post report – Zelensky’s threat in this regard was not only a threat against Russia itself but was also a threat of potentially massive bloodshed against a people who do not want to go back to Ukraine."等々の箇所は割愛されている。

2022年2月のロシア軍侵攻に先立つ8年間、ウクライナではすでに戦争が起こっていたという事実を受け入れることから、議論を始めなければならない。

キエフ政府によるドンバスのロシア語圏の人々に対するこの戦争は、ロシアの軍事作戦以前から1万4000人(多くは子供)の命を奪い、150万人を避難させた戦争であり、間違いなく大量虐殺だった。米政府やメディアはこの事実を必死に隠そうとするが、以前は欧米の主流メディアが実際に報道していた。

2018年のロイターの記事によれば、ウクライナには30以上の右翼過激派グループがあり、それらは「ウクライナの軍隊に正式に統合されている」し、「これらのグループの中でもより過激なものは、不寛容で非自由なイデオロギーを推進する」とある。

国境にはロシア民族を攻撃する過激派集団が存在するだけでなく、この集団はロシア自体の領土保全を不安定にし、弱体化させるという意図を持って、米国から資金提供や訓練を受けている。

ヤフーニュースが報じたように、CIAはウクライナのエリート特殊作戦部隊やその他の諜報員のため、米国で秘密集中訓練プログラムを監督している。「米国は反乱軍を訓練している」とCIAの元幹部は言い、このプログラムはウクライナ人に「ロシア人を殺す方法」を教えている、と付け加えた。[‘The United States is training an insurgency,’ said a former CIA official, adding that the program has taught the Ukrainians how ‘to kill Russians.’”]

ロシアが、ウクライナにおける米国、NATO、それらの過激派の代理人による不安定化の努力によって、深刻な形で脅かされていることに疑いの余地はない。 ロシアは丸8年間、そのような脅威にさらされてきた。

またロシアは、イラクからアフガニスタン、シリア、リビアに至るまで、そうした不安定化の努力が他の国々にとって何を意味するかを、つまり、機能している国民国家をほぼ完全に消滅させるということを目撃してきた。 国を守るために行動する必要性について、これほど切迫したケースはないだろう。

国連憲章は一方的な戦争行為を禁止しているが、同時に第51条で「この憲章のいかなる規定も...個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と定めている。この自衛権は、実際の武力攻撃だけでなく、差し迫った攻撃の脅威に対しても、各国が対応することを認めると解釈されてきた。

今回の侵攻は自衛権の発動である。ロシアは自衛のためにウクライナに介入する権利があった。ウクライナ政府は国内のロシア系民族だけでなく、ロシアそのものを攻撃するために、米国とNATOの代理人となっていた。反対の結論は、ロシアが直面している悲惨な現実を無視することになる。


※参照:プーチンの説く「ウクライナ特別軍事作戦の合法性」に未だ国際社会の反論なし コソボ独立への国際司法裁判所の見解  2022年05月16日




要するに知れば知るほどミアシャイマーの立場を私は取るようになっているということだ、すなわち「ウクライナ戦争の責任を負うのはシンプルに米国だ」と。




◼️Why the Ukraine Crisis Is the West's Fault 

The Liberal Delusions That Provoked Putin 


By John J. Mearsheimer  2014 PDF 

The West's triple package of policies -- NATO enlargement, EU expansion, and democracy promotion -- added fuel to a fire waiting to ignite. The spark came in November 2013, when Yanukovych rejected a major economic deal he had been negotiating with the EU and decided to accept a $15 billion Russian counteroffer instead. 


That decision gave rise to antigovernment demonstrations that escalated over the following three months and that by mid-February had led to the deaths of some one hundred protesters. Western emissaries hurriedly flew to Kiev to resolve the crisis. 


On February 21, the government and the opposition struck a deal that allowed Yanukovych to stay in power until new elections were held. But it immediately fell apart, and Yanukovych fled to Russia the next day. The new government in Kiev was pro-Western and anti-Russian to the core, and it contained four high-ranking members who could legitimately be labeled neofascists.  

Although the full extent of U.S. involvement has not yet come to light, it is clear that Washington backed the coup. Nuland and Republican Senator John McCain participated in antigovernment demonstrations, and Geoffrey Pyatt, the U.S. ambassador to Ukraine, proclaimed after Yanukovych's toppling that it was “a day for the history books.” 


As a leaked telephone recording revealed, Nuland had advocated regime change and wanted the Ukrainian politician Arseniy Yatsenyuk to become prime minister in the new government, which he did. No wonder Russians of all persuasions think the West played a role in Yanukovych's ouster. 


For Putin, the time to act against Ukraine and the West had arrived. Shortly after February 22, he ordered Russian forces to take Crimea from Ukraine, and soon after that, he incorporated it into Russia. The task proved relatively easy, thanks to the thousands of Russian troops already stationed at a naval base in the Crimean port of Sevastopol. Crimea also made for an easy target since ethnic Russians compose roughly 60 percent of its population. Most of them wanted out of Ukraine.  

 Many people say that the Russians invaded Crimea and conquered it. They didn't invade Crimea. They were already there. They had an agreement with Ukraine that they could station up to 25,000 troops in Crimea. So they were there. 




戦争の原因はNATOの東方拡大ではない、プーチンはウクライナの民主化を怖れたのだという人物もいる。➡︎「マイケル・マクフォールよ、恥を知れ、この宇ナチ化野郎!」(スコット・リッター


中堅国際政治学者たちはこの元ロシア駐在アメリカ大使マイケル・マクフォール(Michael McFaul)のたぐいの見解を信じ込んでいる者が多いようだが、私はこの民主化はファシズム化の別名だと見做している。



ヨーロッパで起きる次の戦争はロシア対ファシズムだ。ただし、ファシズムは民主主義と名乗るだろう。La próxima guerra en Europa será entre Rusia y el fascismo, pero al fascismo se le llamará democracia(フィデル・カストロ Fidel Castro、Max Lesnikとの対話にて、1990年)




◼️【閲覧注意201459日、マリウポリでウクライナ軍の民間人への攻撃




噂によればElic Olsonは元海軍大将でアゾフスタルで指揮をしていたそうだが、いい齢して何でこんなとこにいるんだろ、戦争中毒かもね、米国やNATOにはこのたぐいのオッサンたくさんいるのかもな





ウクライナ戦争の原因は、《ロシアの玄関でNATOが吠え続けたことだ[l’abbaiare della Nato alla porta della Russia]》(ローマ教皇フランチェスコ、2022年5月4日)

Pope Francis’ concern is that Putin, for the moment, will not stop . He also tries to think about the roots of this behavior, about the reasons that push him to such a brutal war. Perhaps the “barking of NATO at Russia’s door” prompted the head of the Kremlin to react badly and unleash the conflict. “I can’t say if it was provoked, but perhaps, yes.”(Pope Admits NATO Likely Provoked Putin’s Invasion: “Barking At The Gates Of Russia”  4 May 2022)


新型の武器を試してみたくてウズウズしている退役軍人はいそうだな


はっきりしているのは、ウクライナの土地で武器が試されていることだ。…武器取引きは恥ずべきことだが、反対する者はほとんどいない。

The clear thing is that weapons are being tested in that land. …The arms trade is a scandal, few oppose it.”(同上)



………………


※付記



米露対立・ウクライナ内戦の原因の5つの誤謬

アメリカの米露関係・ロシア現代史専門の第一人者 故スティーヴン・コーエン氏の著書『War with Russia? / ロシアと戦争?』から

「ここで、歴史家としての立場から、その正統派に目を向けてみる。故ダニエル・パトリック・モイニハン上院議員の有名な言葉がある。「誰もが自分の意見を持つ権利があるが、自分の事実を持つ権利はない」。米国の新しい冷戦の正統性は、ほとんど誤りだらけの意見に基づいている。これらの誤謬のうち5つは、今日特に重要である。


【誤謬その1】1991年のソ連崩壊以来、米国は共産主義後のロシアを望ましい友人、パートナーとして寛大に扱い、西側の国際安全保障システムの民主的で豊かな一員となるようあらゆる努力を重ねてきた。しかし、ロシアは、プーチン政権下で、このアメリカの利他主義を拒否した。


【事実】1990年代のクリントン政権以来、アメリカのすべての大統領と議会は、ソ連崩壊後のロシアを、国内外での正当な権利に劣る敗戦国として扱ってきた。この勝利者主義、勝者主義的なアプローチは、非互恵的な交渉と現在のミサイル防衛を伴うNATOの拡大によって先導され、ロシアの従来の国家安全保障地帯に入り込み、一方でヨーロッパの安全保障システムからモスクワを排除してきた。当初、ウクライナと、ウクライナほどではないがグルジアは、ワシントンの「大きな成果」であった。


【誤謬その2】「ウクライナ国民」は、何世紀にもわたるロシアの影響から逃れ、西側に加わることを切望している。


【事実】ウクライナは、民族、言語、宗教、文化、経済、政治の違いによって長い間分断されてきた国であり、特に西部と東部の地域はそうであるが、それだけにとどまらない。2013年末に現在の危機が始まったとき、ウクライナは一つの国家体ではあったが、一つの民族でもなければ、一つの国民国家でもなかった。1991年以降に腐敗したエリートによって悪化したものもあるが、ほとんどは何世紀にもわたって発展してきたものである。


【誤謬その3】2013年11月、ワシントンの支援を受けた欧州連合は、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領に、欧州の民主主義と繁栄との良縁を持ちかけた。ヤヌコビッチは協定に署名する用意があったが、プーチンは彼をいじめ、賄賂を贈り、協定を拒否させた。こうして、キエフのマイダン抗議運動とそれ以後のすべてのことが始まった。


【事実】EUの提案は、深く分裂した国の民主的に選ばれた大統領に、ロシアか西側かを選ばせる無謀な挑発であった。プーチンの対案であるウクライナを財政破綻から救うためのロシア・ヨーロッパ・アメリカの計画をEUが拒否したことも同様である。EUの提案は、それ単独では経済的に実現不可能であった。資金援助はほとんどなく、ウクライナ政府には厳しい緊縮財政が求められ、長年にわたって不可欠だったロシアとの経済関係も大幅に縮小されることになる。また、EUの提案は決して優しいものではない。EUの提案には、ウクライナに欧州の「軍事・安全保障」政策を遵守するよう求める議定書が含まれており、これは名前は出ていないが、同盟国であるNATOを実質的に意味する。繰り返すが、今日の危機を引き起こしたのはプーチンの「侵略」ではなく、ブリュッセルとワシントンによる一種の滑らかな侵略なのであり、(ただし書きをよく読むと)ウクライナをNATOに引き入れることも含まれている。


【誤謬その4】今日のウクライナの内戦は、ヤヌコビッチ大統領の決定に反対する平和的なマイダン抗議行動に対するプーチンの攻撃的な対応によって引き起こされたものだ。


【事実】2014年2月、極端な民族主義者や半ファシスト的な街頭勢力に強く影響され、過激化したマイダン抗議デモが暴力的になった。平和的解決を望む欧州の外相たちは、マイダン議会の代表とヤヌコビッチの間で妥協案を仲介した。この妥協案では、ヤヌコビッチは12月の早期の選挙まで、連立調整政府の大統領として、権力を抑えたまま残されることになった。しかし、数時間のうちに、暴力的なストリートファイターがこの合意を破棄した。ヨーロッパの指導者たちとワシントンは、自分たちの外交的合意を守らなかった。ヤヌコビッチはロシアに逃亡した。マイダンと、主にウクライナ西部を代表する少数政党、中でもスヴォボダは、欧州の価値観とは相容れないものとして欧州議会が以前から嫌悪していた超国家主義運動であったが、そこが新政権を樹立することになった。米国とブリュッセルはこのクーデターを支持し、それ以来、その結果を支持してきた。その後のロシアのクリミア併合、ウクライナ南東部の反乱の拡大、内戦、キエフの「反テロ作戦」などは、すべて2月のクーデターが引き金となったものである。プーチンの行動はほとんど後手後手だった。


【誤謬その5】危機を脱する唯一の方法は、プーチンが「侵略」をやめ、ウクライナ南東部から工作員を引き上げさせることである。


【事実】危機の根底にあるのはウクライナ国内の分裂であり、プーチンの行動が主因ではない。危機を拡大させた本質的な要因は、キエフがルハンスクとドネツクを中心に自国民に対して行っている「反テロリスト」軍事作戦にある。プーチンはドンバスの “自衛官 "に影響を及ぼし、間違いなく援助している。モスクワでの彼への圧力を考慮すると、彼はおそらくより直接的にそうし続けるだろうが、彼は彼らを完全にコントロールしているわけではないのだ。キエフからの攻撃が終了すれば、プーチンはおそらく反政府勢力に交渉を強要できるだろう。しかし、キエフに攻撃の中止を強制できるのはオバマ政権だけであり、オバマ政権はそうしていない。要するに、20年にわたる米国の政策が、この宿命的な米露対立を招いたのである。プーチンはその過程で貢献したのかもしれないが、14年間の政権運営ではほとんど後手後手の対応であり、モスクワの強硬派はしばしばプーチンに対して苦言を呈している。

― War with Russia?: From Putin & Ukraine to Trump & Russiagate by Stephen F. Cohen