今日病院に行ったら、病院が夏だった。蝉の死骸が待合室を埋め尽くしていて、水着姿の娘が中庭の噴水で白目をむいて溺れていた。麗しいデスタンス。私は距離をとってはスキップし、半分死にかけで夏を満喫した。外に出ると通りには人っ子一人おらず、豆腐屋の屋台が火を吹いて燃えていた。もうすぐ夏だ いや病院の中庭には噴水なんかなかったし、中庭すらなかった。ただハクチ娘が待合室の床に転がっていたし、医者はずっと緑色の咳をしていたし、俺は待たされてうんざりしてただけ。隣に坐っていたやくざ風の男が汗臭かったので雀が一羽空から落っこちた。レントゲンから骸骨が笑った。よお! 夏なのねし、俺は待たされてうんざりしてただけ。隣に坐っていたやくざ風の男が汗臭かったので雀が一羽空から落っこちた。レントゲンから骸骨が笑った。よお! 夏なのね |
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最近河で洗濯していなかったおじいさんとおばあさんが病院にいた。桃どうですかって俺が聞くと、烈火のごとく怒って自分の首に注射針を突き立ててた。へっ、ご苦労なこった、いいじゃない、スイカ食ってるんじゃないし、おまえは井戸にお尻を落としてきたんだから、さっさとカルテに記入しな! 夏よ。 「夏がもう行っちまう。夏が終ったら、俺たちはどこにいればいいんだ?」とドアーズのジム・モリソンは歌っていた。太陽に別れを惜しんだことなどないのに。「目をかけてやった記憶もないのに、庭に来て坐っているものがある。『夏だな』」と土方巽は言っていた。 |
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………… 2010年に引用してるな、 もう消してしまったブログで ビックリしたね、 ツイッターはこんな文が読める場なのかと でたね、12年ぶりに |
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病院へ行つたら、病院が夏であつた。すぐに帰つてきたン子が気安くついてきてくれたのでありがたかつた。でもきょろきょろしているン子を尻目に何も言わずに私は黙つて座つていた。ほかのことを考えていたからである。案外、ン子は小説「クラッシック」のカズキに似ているのではないかと思案した。蟬の死骸が待合室を埋め尽くしていて、ビキニ姿の娘が中庭の噴水で白目をむいて溺れていた。麗しいデスタンス! つねに遠のいてゆく風景! ン子と距離をとつてはステップし、私は半分死にかけでカズキの夏を満喫した。ちんばもタップ。亡母の口癖である。診察が終つて外に出ると通りには人つ子一人おらず、豆腐屋の屋台が火を吹いて燃えていた。もうすぐ夏だ。 |
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いや病院の中庭には噴水なんかなかつたし、中庭すらなかつた。ただ卒倒娘が二、三人待合室の床に寝転がつて詰め将棋をしていただけであるし、白衣を着た医者は反射のせいかずつと緑色の宇宙人みたいに見えていたが、咳をゴホゴホしながら鼻血をとめどなく流していた。私は待たされてうんざりしていたのである。隣に坐つていたやくざ風の男がとんでもなく汗臭かつたので、雀が一羽天井から落つこちた。天井の上の空は群青色だつた。レントゲンから骸骨が笑つた。よお! 夏なのね。 |
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川のそばに住んでいる知り合いのおじいさんとおばあさんが病院に来ていて、桃どうですかと私が聞くと、烈火のごとくじいさんが怒つて自分の首に注射針を突き立てた、へつ、ご苦労なこつた、いいじゃない、じじい、スイカ食つてるんじゃないし、頭蓋骨がまつぷたつに割れたんだろ、お前はすでに井戸に汚い尻を落としてきたんだからさあ、先生、さつさとカルテに記入しな! 夏よ。つ、つ、つ、つ、つ。 |
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ン子が先に帰ってしまったのでなぜだか私はほつとした。病院の待合室で誰かがテレビのニュースをサスペンスに変えたので、入院患者たちも一緒に水くさいプリンを食べながらそれを静かに見た。洗濯じいさんはうつらうつらしながら、二階のロビーのシャンデリアめがけて落ちていつた。ぶしょん、つて変な鈍い音がした。腕にひどい青痣ができていた。そいつは地図みたいに美しかつたし、星が一個苦水のなかに浮かんでいた。夏なのね。夏の終わりじゃなくて、終わりの夏が来たのよ。 |
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ーー鈴木創士、第150回「映画に撮られた世界の終わり 第十二話 土方家の人々」 |
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母 吉田一穂 あゝ麗はしい距離〔デスタンス〕、 つねに遠のいてゆく風景…… 悲しみの彼方、母への、 捜り打つ夜半の最弱音〔ピアニツシモ〕。
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