いやあ、絶え難いな、ツイッター覗くと「魔男魔女」の話題ばかりで。 人間らしさに引き籠るしかないなかな・・・ |
それが吾良のライフスタイルのひとつで、映画作りの力にもなった小物集めの才能を発揮すると、魅力あるジュラルミン製の小型トランクをつけてくれた。それには五十巻のカセットテープが収められてもいたのである。吾良の映画の試写会場で受けとり、持って帰る電車のなかで、白い紙ラベルにナンバーだけスタンプで押したカセットを田亀に入れてーー実際、そのように機械を呼ぶことになったーー。ヘッドフォーンのジャックを挿し入れる穴を探していると、つい指がふれてしまったか、テープを入れると再生が自動的に始まる仕組みなのか、野太い女の声の、ウワッ! 子宮ガ抜ケル! イクゥ! ウワッ! イッタ! と絶叫する声がスピーカーから響き、ぎゅう詰めの乗客たちを驚かせた。その種の盗聴テープ五十巻を、吾良は撮影所のスタッフから売りつけられて、始末に困っていたらしいのだ。 かつて古義人はそうしたものに興味を持つことがなかったのに、この時ばかりは、百日ほども田亀に熱中した。たまたま古義人が厄介な鬱状態にあった時で、かれの窮境を千樫から聞いた吾良が、そういうことならば、その原因相応に低劣な「人間らしさ」で対抗するのがいい、といった。そして田亀を贈ってくれたついでに、確かに「人間らしさ」の一表現には違いないテープをつけてくれたのだ、と後に古義人は千樫から聞いた。千樫自身は、それがどういうテープであるかを知らないままだったが……(大江健三郎『取り替え子 チェンジリング』) |
子宮ガ抜ケル!ってより、「魔男魔女」に対抗して間男の話題がいいかもな。
この許せないもの 白川かず子 正直いって おれは あれが好きじゃない 全く うそだといってもいい おれ はあれとかかわりたくない そのような あれが あんなに 正装して ぼくの玄関へ ノートへ 土足で はいってくる 〈失礼な〉 といいたいのに おれ の椅子にすでにすわって おれ のパイプで おれ の言葉を吸いはじめているではないか |
その上 おれ の女をもうくどきはじめている また 彼女は だらしなく パンティなどをぬぐ すると おれなどは汚れて くずかごに捨てられる |
正直いって おれはあれが好きじゃない ようやく くずかごから這いでる と あれは 退散したようだ が 彼女は 彼女ときたら おれ のパイプにとまったあれの言葉と おれ の言葉に交互にキスしながら ゆっくり なにか なんでもないといった風に ふかしてしまっているのだ |
――『もうこれ以上おそくやってきてはいけない』所収 |
数年前植えたナツメヤシが最近ふんだんに実をつけて、このところ昼夕の食後に三粒ばかり食べているのだが、食べ続けると効くね。朝やたらに放電するようになったよ。40年ぶりぐらいの勢いのよさだな。
列車のなかは、ガラガラに空いていて、わたしたちの他に乗客はなく、それをいいことに、わたしはシートに彼女を横たわらせて抱いた。そんなことがあったはずがないのに(絶対になかったと確信しているわけではないのだが)、以前にも同じように列車のなかで、こうしてシートに横たわった彼女のスカートをまくり上げ、欲情して緊張し、ぴりぴり放電している手で、薄い布地の小さなパンティを脱がし(片方の足首のところに小さな布切れがひっかかったままで)、手よりももっと鋭い欲情に放電しているもので、彼女の内部に深く触れはしなかっただろうか。 |
窓の外を町並の上空で埃っぽい薔薇色の靄のように不透明な光でけぶっている夜空や、なだらかな黒い背を連ねている丘陵や、淫らな薄い水色の雲に半ば覆われた満月が流れるように遠ざかり、記憶の無重力のなかで、わたしは奇妙な反復を行っているような気持になる。 行っている――いや、行うという意志的な行為ではなく、何かあるものによって、そうすることを決められているような気がするのだ。彼女は以前と同じように、下腹をくぼませ、息をつめ、歯を喰いしばりーー以前と同じように、あるいは、はじめてわたしを受け入れた時と同じようにーー眼を見開いて放心した凝視を注ぎかけながら、ぴったりとわたしに腰を押しつけ、無言のうちに、熱っぽい溶解点に近づきつつあることを示す。 そして、わたしは、撞着的な言いまわしになってしまうのだが、確信をもって、何度も何度も、これと同じことがあったような気がする。その度に彼女と、その度ごとにこの女と――。(金井美恵子「くずれる水」) |