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2023年7月15日土曜日

精神分析の起源は母の陰毛

 

そうだな、陰毛ってのは微妙なとこだよ、最後の防衛かどうか。




この荒木経惟の作品はとっても気に入ってるのだが、とはいえパンティがあったほうがもっといいかもね、いくら透けて見える程度の。




ラカンには黒いフェティッシュ概念がある。


純粋対象、黒いフェティッシュ[pur objet, fétiche noir.](Lacan, S10, 16 janvier 1963)

享楽が純化されるとき、黒いフェティッシュとなる[Quand la jouissance s'y pétrifi e, il devient le fétiche noir](Lacan, Kant avec Sade , E773, 1963年)


陰毛は黒いフェティッシュだろうよ、ブラックホールに限りなく近接してるから防衛と言いうるかね。


ジイドを不安で満たして止まなかったものは、女の形態の光景の顕現、女のヴェールが落ちて、ブラックホールのみを見させる光景の顕現である[toujours le désolera de son angoisse l'apparition sur la scène d'une forme de femme qui, son voile tombé, ne laisse voir qu'un trou noir ](Lacan, JEUNESSE DE GIDE, E750, 1958)



足とかパンティとかを、仮に白いフェティッシュと呼べば、こっちは明らかな防衛だが。



こっちのアラーキーのほうがいいかもな、少なくとも美の印象が長持ちするね。



……………………


死の枕元にあったとされる草稿で、フロイトはこう言っている。


幼児の最初期の出来事は、後の全人生において比較を絶した重要性を持つ[die Erlebnisse seiner ersten Jahre seien von unübertroffener Bedeutung für sein ganzes späteres Leben](フロイト『精神分析概説』草稿、第7章、1939年)


フロイトが書き残している範囲で、彼の最初期の出来事は次のものだ。


後に(2歳か2歳半のころ)、私の母へのリビドー[meine Libidogegen matrem ]は目を覚ました。ライプツィヒからウィーンへの旅行の時だった。その汽車旅行のあいだに、私は母と一緒の夜を過ごしたに相違ないない。そして母の裸[sie nudam]を見る機会があったに相違ない。〔・・・〕あなた自身も私の旅行不安が咲き乱れるのを見たでしょう。

daß später (zwischen 2 und 2 1/2 Jahren) meine Libidogegen matrem erwacht ist, und zwar aus Anlaß der Reise mir ihr von Leipzig nach Wien, auf welcher eb gemeinsames Übernachten und Gelegenheit, sie nudam zu sehen, vorge fallen sein muß […] Meine Reiseangst hast Du noch selbst b Blüte gesehen.(フロイト、フリース宛書簡 Briefe an Wilhelm Fließ, 4.10.1897)


この「2歳か2歳半のころ」というのは、フロイト研究者たちによれば、実際は4歳前後だというのが今は定説になっている、家族でライプツィヒからウィーンへの旅行したのは4歳前後でしかないと。


ま、それはこの際はどうでもよろしい。重要なのは、フロイトの記憶においては、母の裸[sie nudam]ーーなぜかラテン語で書いているーーが彼の人生においておそらく比較を絶した重要な出来事だということである。精神分析の起源は母の裸である!


で、「母の裸」ってなに見たんだろうな、まさか母の乳房程度じゃあるまいし。たぶんオッカサマは汽車のなか、幼いフロイトの眼前で、下履きでも履き替えたんだろうよ。



母の裸ってのは母の陰毛じゃないかね、たぶん。


フェティッシュは女性のファルス(母のファルス)の代理物である[der Fetisch ist der Ersatz für den Phallus des Weibes (der Mutter) ]……


我々は、喪われた女性のファルスの代替物として、ペニスのとなる器官や対象が選ばれると想定しうる[Es liegt nahe zu erwarten, daß zum Ersatz des vermißten weiblichen Phallus solche Organe oder Objekte gewählt werden, die auch sonst als Symbole den Penis vertreten]。〔・・・〕


フェティッシュが設置されるとき、外傷性健忘における記憶の停止のような或る過程が発生する。[Bei der Einsetzung des Fetisch scheint vielmehr ein Vorgang eingehalten zu werden, der an das Haltmachen der Erinnerung bei traumatischer Amnesie gemahnt]


またこの場合、関心が中途で止まってしまったような状態となり、あの不気味でトラウマ的な直前の印象が、フェティッシュとして保持される[Auch hier bleibt das Interesse wie unterwegs stehen, wird etwa der letzte Eindruck vor dem unheimlichen, traumatischen, als Fetisch festgehalten. ]


こうして、足あるいは靴がフェティッシューーあるいはその一部――として優先的に選ばれる。これは、少年の好奇心が、下つまり足のほうから女性器のほうへかけて注意深く探っているからである[So verdankt der Fuß oder Schuh seine Bevorzugung als Fetisch –; oder ein Stück derselben –; dem Umstand, daß die Neugierde des Knaben von unten, von den Beinen her nach dem weiblichen Genitale gespäht hat; ]。


毛皮とビロードはーーずっと以前から推測されていたようにーー、垣間見られた陰毛の光景への固着[fixieren den Anblick der Genitalbehaarung]である。これには、あの強く求めていた女性のペニスの姿がつづいていたはずなのである。

Pelz und Samt fixieren –; wie längst vermutet wurde –; den Anblick der Genitalbehaarung, auf den der ersehnte des weiblichen Gliedes hätte folgen sollen; (フロイト『フェティシズム』1927年)


フロイトは犬の毛皮フェチだろうからな、





というわけで、精神分析の起源は母の陰毛だよ、たぶん。フロイトは生涯、あの《不気味でトラウマ的な[unheimlichen, traumatischen]》印象、《垣間見られた陰毛の光景への固着[fixieren den Anblick der Genitalbehaarung]》の反復強迫があったんじゃないかね



病因的トラウマ、この初期幼児期のトラウマはすべて五歳までに起こる[ätiologische Traumen …Alle diese Traumen gehören der frühen Kindheit bis etwa zu 5 Jahren an]〔・・・〕

トラウマは自己身体の出来事もしくは感覚知覚である[Die Traumen sind entweder Erlebnisse am eigenen Körper oder Sinneswahrnehmungen]〔・・・〕


このトラウマの作用はトラウマへの固着と反復強迫として要約できる[Man faßt diese Bemühungen zusammen als Fixierung an das Trauma und als Wiederholungszwang. ]


この固着は、標準的自我と呼ばれるもののなかに含まれ、絶え間ない同一の傾向をもっており、不変の個性刻印と呼びうる[Sie können in das sog. normale Ich aufgenommen werden und als ständige Tendenzen desselben ihm unwandelbare Charakterzüge verleihen](フロイト『モーセと一神教』「3.1.3 Die Analogie」1939年)




フロイトは死の欲動についていろんなことを言っているが、何よりもまず、この固着の反復強迫が死の欲動の原点だよ、


われわれは反復強迫の特徴に、何よりもまず死の欲動を見出だす[Charakter eines Wiederholungszwanges …der uns zuerst zur Aufspürung der Todestriebe führte.](フロイト『快原理の彼岸』第6章、1920年)


母の裸を垣間見たことにより、《私の母へのリビドー[meine Libidogegen matrem ]》が目を覚ましたんだ。


つまり愛の欲動かつ死の欲動が。


リビドーは愛の欲動である[Libido ist …Liebestriebe](フロイト『集団心理学と自我の分析』第4章、1921年、摘要)

リビドーはそれ自体、死の欲動である[La libido est comme telle pulsion de mort](J.-A. Miller,  LES DIVINS DÉTAILS, 3 mai 1989)


愛の欲動は死の欲動であり、これがラカンが次のように言っている意味だ。


すべての欲動は実質的に、死の欲動である[toute pulsion est virtuellement pulsion de mort](Lacan, E848, 1966年)

タナトスの形式の下でのエロス [Eρως [Éros]…sous  la forme du Θάνατος [Tanathos] ](Lacan, S20, 20 Février 1973)