しかしルーブルはダイジョウブなのかね、ロシア連邦中央銀行総裁のエリヴィラ・ナビウリナ(Elvira Nabiullina)さんはこう言っているが。 |
◾️Bank of Russia increases the key rate by 200 bp to 21.00% p.a. 25 October 2024 Bank of Russia Press release |
On 25 October 2024, the Bank of Russia Board of Directors decided to increase the key rate by 200 basis points to 21.00% per annum. Inflation is running considerably above the Bank of Russia’s July forecast. Inflation expectations continue to increase. (…) In September, the current seasonally adjusted price growth rose to 9.8% in annualised terms from 7.5% in August. The similar indicator of core inflation increased to 9.1% from 7.7% in August. Inflationary pressures, including underlying ones, were close to the maximum values since the beginning of the year. According to the estimate as of 21 October, annual inflation equalled 8.4% and is expected to be in the range of 8.0–8.5% by the end of 2024. |
平和は、なくなって初めてそのありがたみがわかる。短い祝祭期間が失望のうちに終わると、戦争は無際限に人命と労力と物資と財産を吸い込むブラックホールとなる。その持続時間と終結は次第に誰にもわからなくなり、ただ耐えて終わるのを待つのみになる。 (中井久夫「戦争と平和についての観察」2005年『樹をみつめて』所収) |
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ナビウリナさんはこう言っているそうだ[参照]、《インフレ率が4年間も目標水準を上回っているため、インフレ期待の慣性は大きい。...インフレ率が目標を上回れば上回るほど、人々や企業はインフレ率が低水準に戻る可能性を信じなくなる[There is a high inertia of inflationary expectations as the inflation has exceeded the target level for four years…The more inflation exceeds the targets, the less people and companies believe that it could fall back to low levels.]》。 これはハイパーインフレ勃発を懸念しているということだ。 |
たとえひとびとがインフレ的熱狂に浮かされていたとしても、それが一時的なものでしかないという予想が支配しているならば、その予想によってインフレーションはじっさいに安定化する傾向をもつことになる。なぜならば、そのときひとびとは将来になれば相対的に安くなった価格で望みの商品を手にいれることができることから、いま現在は不要不急の支出を手控えて、資金をなるべく貨幣のかたちでもっているようにするはずだからである。とうぜんのことながら、このような流動性選択の増大は、その裏返しとして商品全体にたいする需要を抑制し、進行中のインフレーションを鎮静化する効果をもつことになるだろう。物価や賃金の上昇率がそれほど高いものでないかぎり、ひとびとはこのようなインフレーションの進行を「好況」としておおいに歓迎するはずである。じっさい、すくなくともしばらくのあいだは、消費も投資も活発になり、生産は増大し、雇用は拡大し、利潤率も上昇する。 |
しかしながら、ひとびとが逆に、進行中のインフレーションがたんに一時的ではなく、将来ますます加速化していくにちがいないと予想しはじめたとき、ひとつの転機(Krise)がおとずれることになる。 貨幣の購買価値がインフレーションの加速化によって急激に低下していってしまうということは、支出の時期を遅らせれば遅らせるほど商品を手に入れるのが難しくなることを意味し、ひとびとは手元の貨幣をなるべき早く使いきってしまおうと努めることになるはずである。とうぜんのことながら、このような流動性選好の縮小は、その裏返しとして今ここでの商品全体への総需要を刺激し、進行中のインフレーションをさらに加速化してしまうことになる。もはやインフレーションはとまらない。 |
インフレーションの加速化の予想がひとびとの流動性選好を縮小させ、流動性選好の縮小がじっさいにインフレーションをさらに加速化してしまうという悪循環――「貨幣からの遁走(flight from money)とでもいうべきこの悪循環こそ、ハイパー・インフレーションとよばれる事態にほかならない。ここに、恐慌(Krise)とインフレ的熱狂(Manie)とのあいだの対称性、いや売ることの困難と買うことの困難とのあいだの表面的な対称性がうち破られることになる。買うことの困難が、売ることの困難のたんなる裏返しにとどまらない困難、恐慌という意味での危機(Krise)以上の「危機(Krise)」へ変貌をとげてしまうのである。(岩井克人『貨幣論』1993年) |
不況(Depression、depression)、熱狂(Manie、mania)、さらには解体(Spaltung、splitting)ーー貨幣的な交換に固有な困難のあり方を形容するためにわれわれがもちいたこれらの言葉が、それぞれ鬱病(depression)、躁病(mania)、精神分裂病(schizophrenia = splitting of mind)といった精神病理学的な病名を想いおこさせるのはけっして偶然ではない。精神病理学者の木村敏によれば、躁鬱病とは、自己が自己であるということはあくまでも自明なものとされたうえで、その自己の対社会的な役割同一性が疑問に付されているという事態であり、これにたいして分裂病とは、まさに自己が自己であるということの自明性が疑問に付されてしまう事態であり、自己がそのつど自己自身とならなければならないという個別化の営みの失敗として特徴づけられるという。( 『分裂病の現象学」(弘文堂、一九七五)、『自己・あいだ・時間」(弘文堂、一九八一)、 『時間と自己』(中公新書、一九八二)、 『分裂病と他者』(弘文堂、一九九O)等の一連の著作を参照のこと。) じっさい、これからわれわれは、不況やインフレ的熱狂とは、貨幣が貨幣であることは前提とされたうえでの、貨幣とほかの商品全体とのあいだの関係において生じる困難であるのにたいして、ハイパー・インフレーションとは、貨幣が貨幣であることの根拠そのものが疑問に付され、その結果として貨幣の媒介によって維持されている商品世界そのものが解体してしまうという事態にほかならないということを論ずるつもりである。すなわち、人間社会において自己が自己であることの困難と、資本主義社会において貨幣が貨幣であることの困難とのあいだには、すくなくとも形式的には厳密な対応関係が存在しているのである。(岩井克人『貨幣論』第4章「恐慌論」注16、1993年) |
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