そうか、この歌はプーシキンの詩か。
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ラフマニノフ「歌わないでくれ乙女よ」ヴィシネフスカヤ Rachmaninoff 6 Romances, Op. 4: No. 4, Sing Not, O Lovely One · Galina Vishnevskaya |
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私は歌詞は気にしないほうなんだが、邦訳をつけてくれてる人がいて初めて知ったよ。
このプーシキンの詩を聴くと「紫色の火花」が突如として侵入してくるな。
中井久夫訳のセフェリスを思い起こしたんだ。
海の神秘は浜で忘れられ、
深みの暗さは泡の中で忘れられる。
だが、思い出の珊瑚はにわかに紫の火花を放つ
ーーヨルゴス・セフェリス(中井久夫「発達的記憶論」エピグラフ)
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過去の復活[résurrections du passé] は、その状態が持続している短いあいだは、あまりにも全的で、並木に沿った線路とあげ潮とかをながめるわれわれの目は、われわれがいる間近の部屋を見る余裕をなくさせられるばかりか、われわれの鼻孔は、はるかに遠い昔の場所の空気を吸うことを強制され [Elles forcent nos narines à respirer l'air de lieux pourtant si lointains]、われわれの意志は、そうした遠い場所がさがしだす種々の計画の選定にあたらせられ、われわれの全身は、そうした場所にとりかこまれていると信じさせられるか、そうでなければすくなくとも、そうした場所と現在の場所とのあいだで足をすくわれ、ねむりにはいる瞬間に名状しがたい視像をまえにしたとき、ときどき感じる不安定にも似たもののなかで、昏倒させられる。(プルースト「見出された時」) |
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過去はけっして死なない。それは過ぎ去ってさえいない[The past is never dead. It's not even past ](フォークナー『尼僧への鎮魂歌』1951年) |
要するに数々の詩人たちが歌ったレミニサンスだな。
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マドレーヌの感覚と同種のある感覚は、『墓のかなたの回想録』もっとも美しい部分につながるのではないだろうか、「きのうの夕方、私は一人で散歩していた… とある白樺のもっとも高い枝にとまった一羽のつぐみのさえずりに私は内省からひきだされた。たちまちその魔法の音は私の目に父の領地を出現させた、私は自分が証人になってきたばかりの数々の大異変を忘れた、そしてただちに過去のなかにはこびさられた私は、あのようにしばしばつぐみが鳴くのをきいたあの田舎をふたたび目にした。」 N'est-ce pas à mes sensations du genre de celle de la madeleine qu'est suspendue la plus belle partie des Mémoires d'Outre-Tombe : « Hier au soir je me promenais seul... je fus tiré de mes réflexions par le gazouillement d'une grive perchée sur la plus haute branche d'un bouleau. À l'instant, ce son magique fit reparaître à mes yeux le domaine paternel ; j'oubliai les catastrophes dont je venais d'être le témoin et, transporté subitement dans le passé, je revis ces campagnes où j'entendis si souvent siffler la grive. » |
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またこの『回想録』の二つか三つのもっとも美しい章句の一つは、つぎのものではなかろうか、「ヘリオトロープの上品な、心地よい匂が、花ざかりのまめ畑の小さな一画から立ちのぼってきた。その匂は祖国の微風によってではなくて、ニューファンドランドの野生の風にはこばれてきたもので、祖国から追いやられてきた植物とは関係もなく無意識的記憶や官能との共感もなかった。美女の呼吸をはずませることもなく、その乳房にふれて清められることもなく、そのあゆみのあとにひろがることもないこのかおり、しかし黎明を一変し、文化を一変し、世界を一変するこのかおりのなかには、悔恨と、不在と、青春との、あらゆる憂愁があった。」 Et une des deux ou trois plus belles phrases de ces Mémoires n'est-elle pas celle-ci : « Une odeur fine et suave d'héliotrope s'exhalait d'un petit carré de fèves en fleurs ; elle ne nous était point apportée par une brise de la patrie, mais par un vent sauvage de Terre-Neuve, sans relation avec la plante exilée, sans sympathie de réminiscence et de volupté. Dans ce parfum, non respiré de la beauté, non épuré dans son sein, non répandu sur ses traces, dans ce parfum chargé d'aurore, de culture et de monde, il y avait toutes les mélancolies des regrets, de l'absence et de la jeunesse. » |
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フランス文学の傑作の一つ、ジェラール・ド・ネルヴァルの『シルヴィ』は、『墓のかなたの回想録』のコンプールに関する章とまったくおなじように、マドレーヌの味や「つぐみのさえずり」と同種の感覚をもっている。 Un des chefs-d'œuvre de la littérature française, Sylvie, de Gérard de Nerval, a, tout comme le livre des Mémoires d'Outre-Tombe relatif à Combourg, une sensation du même genre que le goût de la madeleine et « le gazouillement de la grive ». |
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最後にボードレールにあっては、そんなレミニサンスréminiscencesはもっと多数にのぼり、あきらかにこれは偶然ではなく、したがって、私の意見では、決定的なものである。ほかならぬこの詩人こそ、さらに多くの選択と安逸とをもって、意志的に追求することになるのだ、ーー女の、たとえば髪の毛、乳房の匂のなかに、「ひろびろとしたまるい空のコバルト・ブルー」や「旗とマストとに満ちた港」を彼に喚起するであろう霊感の類推を。 Chez Baudelaire enfin, ces réminiscences, plus nombreuses encore, sont évidemment moins fortuites et par conséquent, à mon avis, décisives. C'est le poète lui-même qui, avec plus de choix et de paresse, recherche volontairement, dans l'odeur d'une femme par exemple, de sa chevelure et de son sein, les analogies inspiratrices qui lui évoqueront « l'azur du ciel immense et rond » et « un port rempli de voiles et de mâts ». |
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私は、根底にそのように転置された感覚が見出されるボードレールの詩篇を一心に思いだしながら、やっと自分をそれとおなじように高貴な系譜のなかに置くまでになり、そのことで、いまはためらわずに着手しようとくわだてている作品が、それにささげようとしている自分の努力に値している、という確信に達してきた。 J'allais chercher à me rappeler les pièces de Baudelaire à la base desquelles se trouve ainsi une sensation transposée, pour achever de me replacer dans une filiation aussi noble et me donner par là l'assurance que l'œuvre que je n'avais plus aucune hésitation à entreprendre méritait l'effort (プルースト「見出された時」p406-p408、井上究一郎訳、一部変更) |
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おっと、須賀敦子訳のタブッキ『ビム港の女』も向こうからやってきたぜ。 |
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女は笑って、どうしてそんな暮らしをしているのかを話してくれなかった。もうすこし待って。そうしたら、ふたりでどこかに行ってしまいましょう。あたしのことを信じて。これ以上話せないんだから。それから窓ぎわですっぽりはだかになって、月を見ながら、言った。あんたの呼び唄、歌ってよ。でも、そっと、よ。おれが歌ってやると、女はたずねた。あたしのことを愛している? 突っ立ったまま、なにかを待っているみたいに夜を眺めている女を、おれは窓際に押しつけて、抱いた。(ダブッキ『島とクジラと女をめぐる断片』須賀敦子訳、原題『ビム港の女』) |
……………
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マイスキーのチェロ版は「歌わないでくれ乙女よ」の感じが良く出てるな。 |
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Rachmaninoff: Ne poy, krasavitsa, pri mne, Op. 4, No. 4 · Mischa Maisky · Pavel Gililov |
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