クロハゲワシ 写真: キム・ソンヒョン |
鷹(たか)とは、タカ目タカ科に属する鳥のうち比較的小さ目のものを指す通称で、鳥類の一種である。 オオタカ、ハイタカ、クマタカなどの種がいる。タカ科に分類される種にて比較的大きいものをワシ(鷲,Eagle)、小さめのものをタカ(鷹, Hawk)と呼び分けているが、明確な区別ではなく慣習に従って呼び分けているに過ぎない。また大きさからも明確に分けられているわけでもない。例えばクマタカはタカ科の中でも大型の種であり大きさからはワシ類といえるし、カンムリワシは大きさはノスリ程度であるからタカ類といってもおかしくない。(wikipedia)
ハゲワシ(禿鷲)は、鳥類タカ目タカ科のうち死肉を主な餌とする一群の種の総称である。かつて狭義にはクロハゲワシの標準和名だった。旧大陸の低緯度に生息し、英語では Old World vulture と呼ぶ。似た生態で新大陸に住むコンドル科 Cathartidae (New World vulture) とは類縁関係にない。(wikipedia)
Birds of Yosemite National Park (1954, 1963) by Cyril A. Stebbins and Robert C. Stebbinsha |
『大丈夫、ちゃんと殺す。心配することはない。(中略)彼らは本当にうまく皮を剥ぐ。これはもう奇蹟的と言ってもいいくらいのものだ。芸術品だ。本当にあっという間に剥いでしまうんだ。生きたまま皮を剥がれても、剥がれていることに気がつかないんじゃないかと思うほど素早く剥いでしまうんだ。しかし ? 』、と彼は言って胸のポケットからまた煙草入れを取り出し、それを左手に持って、右手の指先でとんとんと叩きました。『? もちろん気がつかないわけはない。生きたまま皮を剥がれる方はものすごく痛い。想像もできないくらいに痛い。そして死ぬのに、ものすごく時間がかかる。出血多量で死ぬわけだが、これはなにしろ時間がかかる』。彼は指をぱちんと鳴らしました。すると彼と飛行機で一緒にやってきた蒙古人の将校が前に出ました。彼はコートのポケットの中から、鞘に入ったナイフを取り出しました。(中略)彼はナイフを鞘から抜き、それを空中にかざしました。朝の太陽にその鋼鉄の刃が鈍く白く光りました。(中略)ナイフを持ったその熊のような将校は、山本の方を見てにやっと笑いました。私はその笑いを今でもよく覚えています。
今でも夢に見ます。私はその笑いをどうしても忘れることはできないのです。それから彼は作業にかかりました。兵隊たちは手と膝で山本の体を押さえつけ、将校がナイフを使って皮を丁寧に剥いでいきました。本当に、彼は桃の皮でも剥ぐように、山本の皮を剥いでいきました。私はそれを直視できませんでした。(中略)彼は始めのうちはじっと我慢強く耐えていました。しかし途中からは悲鳴をあげはじめました。それはこの世のものとは思えないような悲鳴でした。男はまず山本の右の肩にナイフですっと筋を入れました。そして上の方から右腕の皮を剥いでいきました。彼はまるで慈しむかのように、ゆっくりと丁寧に腕の皮を剥いでいきました。たしかに、ロシア人の将校が言ったように、それは芸術品と言ってもいいような腕前でした。もし悲鳴が聞こえなかったなら、そこには傷みなんてないんじゃないかとさえ思えたことでしょう。しかしその悲鳴は、それに付随する痛みの物凄さを語っていました。やがて右腕はすっかり皮を剥がれ、一枚の薄いシートのようになりました。(中略)その皮からはまだぽたぽたと血が滴っていました。皮剥ぎの将校はそれから左腕に移りました。同じことが繰り返されました。
彼は両方の脚の皮を剥ぎ、性器と睾丸を切り取り、耳を削ぎ落としました。それから頭の皮を剥ぎ、やがて全部剥いでしまいました。山本は失神し、それからまた意識を取り戻し、また失神しました。失神すると声が止み、意識が戻ると悲鳴が続きました。しかしその声もだんだん弱くなり、ついには消えてしまいました。(中略)私はそのあいだ何度も吐きました。最後にはこれ以上吐くものがなくなってしまいましたが、私はそれでもまだ吐きつづけました。熊のような蒙古人の将校は最後に、すっぽりときれいに剥いだ山本の胴体の皮を広げました。そこには乳首さえついていました。あんなに不気味なものを、私はあとにも先にも見たことがありません。誰かがそれを手に取って、シーツでも乾かすみたいに乾かしました。あとには、皮をすっかり剥ぎ取られ、赤い血だらけの肉のかたまりになってしまった山本の死体が、ごろんと転がっているだけでした。いちばんいたましいのはその顔でした。赤い肉の中に白い大きな眼球がきっと見開かれるように収まっていました。歯が剥き出しになった口は何かを叫ぶように大きく開いていました。鼻を削がれたあとには、小さな穴が残っているだけでした。地面はまさに血の海でした。(村上春樹 『ねじまき鳥クロニクル』)