昔このギリギリの割れかかったトランペットの音をひどく好んだんだな
そのあと、もっと巧い奏者の演奏で聴いてがっかりしたよ
ここは苦しそうじゃないとな、首絞められたようにさ
わかるかい? この感じ
とはいえジャズだったらやたらに巧いClifford Brownさ
さいきんはマイルスはとんとご無沙汰だな
なんでだろ?
マックス・ローチがいいってのもあるさ
このレコード聴くようになったのは
かなり齢とってからで三十前後だったな
京都の北山通りにあるジャズバーのバーテンと仲良くなってさ
行くたびに何かをカセットテープに録音してくれたんだけど
そのころを思い出すってのもあるけどさ
このGeorge's Dilemmaは何回も貼りつけてるけどさ
やっぱりオレの一曲だな
サルトルがトランペットについてステキなこと書いてたな
と探してみればみつからず、かわりにこれを貼りつけとくよ
きみのためにさ、わかるだろ?
私は、ひとりで、完全にひとりで暮らしている。決してだれとも話はしないし、なにも受けねばなにも与えない。(……)「鉄道員さんたちの店」のマダムのフランソワーズがいることはいる。しかし私は、彼女と話すと言えるだろうか。ときどき夕食のあとで、彼女がジョッキのビールを運んでくるとき、私はたずねる。
「今夜は暇かい」
彼女がいいえと言ったためしはない。私は、時間ぎめかあるいは日ぎめで彼女が貸している二階の大きな寝室のひとつへ、彼女のあとについて行く。私は金をやらない。私たちの色事はおあいこなのだ。彼女は歓びを味う。(彼女には一日にひとりの男が必要だ。だから私以外にも大勢の情人を持っている。)こうして、私にはその原因がわかりすぎているある種の憂鬱から解放されるのだ。しかし私たちは、せいぜい二言か三言を交すにすぎない。しゃべることがなんの訳に立つか。めいめいは勝手に生きている。それに彼女の眼から見れば、私はなによりもまずカフェのお客にすぎないのだ。彼女は服を脱ぎながら言う。
「ねえ、ブリコっていう食前酒を知ってて。今週それを注文したお客がふたりいたの。女の子が知らなかったので、あたしのところへ知らせにきたわ。旅行者だったからパリでそれを飲んだのよ、きっと。どんなものか知らずに買うのはいやだわ。構わなかったら靴下とらないわよ」(サルトル『嘔吐』白井浩司訳)
いい女だったな
あの店のカウンターに入ってた娘
きみと同じくらい
わかってるさだれだか
中学最後の音楽の授業で
きみのためにこの曲歌ったじゃないか
このくらいは上手かっただろ?
……わるかったな
Ingemisco(俺は嘆くさ)