2017年8月9日水曜日

「ひととき」

「ひととき」

長い年月を経てやっと
その日のそのひとときが
いまだに終わっていないと悟るのだ

空の色も交わした言葉も
細部は何ひとつ思い出さないのに
そのひとときは実在していて
私と世界をむすんでいる

死とともにそれが終わるとも思えない
そのひとときは私だけのものだが
否応無しに世界にも属しているから

ひとときは永遠の一隅にとどまる
それがどんなに短い時間であろうとも
ひとときが失われることはない

ーーー谷川俊太郎『おやすみ神たち』2014年所収

…………

ひさしぶりに近場の海に日帰りで行ってきた。近場といっても、朝三時出発六時到着。夜九時過ぎ帰宅。長男が一浪して医学校に入学が決まったので、ちょっとしたお祝いもかねて。

幸運にもとてもよい海水浴日和。しかも「ひととき」に遭遇した。きっとすぐ忘れるだろう、2017年8月8日、午後1時過ぎの「ひととき」。


白い波頭とはうそだ
白くない波頭がひかっていた
くだけると白くなる
こんな光景の記憶はない

砂浜の椰子葺の下の薄暗がり 
市場で手に入れたとびきり鮮度の 
蝦蛄と海老と蟹
家族だけの笑いさざめき

潮風の絶えまない慰撫に包まれ 
群青の囀りに耳をすます 
宴のあとの昼下り 
妻と長男は禽獣の深い眠りに耽っている

半刻ほど休んだきりで 
ふたたび独り海に向かう次男 
そのすがたをぼんやりと目で追ってゆく

そのときだ 
金の波穂と白の砕け波 
千の波の縞模様に見惚れたのは