映画のドシロウトとしてメモをする。どなたが書かれているか判然としないが、「ジャン=リュック・ゴダール暗殺」からである。
若き映画狂<シネフィル>ベルトルッチがゴダールに心酔し、慕っていたのは公然の事実だ。一緒に写ったスナップが残されていることからも、このフランス・イタリア両国の映画作家の60年代に何らかの師弟関係、もしくは共闘的絆が存在したことが窺い知れる。
だが60年代も後半にさしかかる頃、「政治の季節」へと突入したゴダールは、ベルトルッチを資本主義の犬のように見なし、断絶し、攻撃するようになる。
(左から、ベルトルッチ、ゴダール、パゾリーニ) |
作品への批判には更なる作品で応戦すべし。ベルトルッチは雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の連中が展開して来た映画製作=評論戦略を、『暗殺の森』において、師であるゴダールを標的に実践して見せる。
・暗殺のターゲットである大学時代の恩師=クアドリ教授の家の電話番号は、ゴダールのアパルトマンの電話番号と同じものである。
・原作では「エドモンド」だった教授のファースト・ネームを、ベルトルッチはわざわざ「ルカ」に変えている。ルカとは、ゴダールが「カイエ・デュ・シネマ」への寄稿の際に用いたペン・ネーム=「ハンス・ルカ」に由来するものだ。そして原作では「リーナ」だった教授の妻の名は、映画ではなんと「アンナ」へと変更されている。これ以上の明白は無い。
・モラヴィアの原作では「せむしで近視で頬にひげを生やし」(原文)た醜い小男として登場するクアドリ教授だが、映画で教授を演じるのは、スラリと背筋の伸びた、まるでパリジャンのようにスマートでダンディなエンツォ・タラシオである。
・年齢のことにも触れねばならない。タラシオは、恐らく、原作のクアドリ教授よりも若い。そして対するトランティニャンは、原作のマルチェッロより10歳も上の40歳である。演じる2人は、実際には11歳しか離れていない。そしてゴダールとベルトルッチの年齢差は10歳なのだ。
ーーベルトルッチの『暗殺の森 Il Conformista 』(1970年)は、純粋にとても美しい映画だけどね。
さらに言えば、ゴダールの『カルメンという名の女 Prénom Carmen』(1983年)は、ベルトルッチの『ラストタンゴ・イン・パリ Last Tango in Paris 』(1972年)のパクリと思える箇所があるな、そしてその場面が最も美しい。映画のドシロウトとして言うが。