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2020年2月28日金曜日

カリマの女

あ あなたでしたか 昨夜ぼくを撫でていたひと
すみません 忘れてしまって

--大岡信「うたのように 2」


大体私は女ぎらいというよりも、古い頭で、「女子供はとるに足らぬ」と思っているにすぎない。 女性は劣等であり、私は馬鹿でない女(もちろん利口馬鹿を含む)にはめったに会ったことがない。 事実また私は女性を怖れているが、男でも私がもっとも怖れるのは馬鹿な男である。まことに馬鹿ほど怖いものはない。

また註釈を加えるが、馬鹿な博士もあり、教育を全くうけていない聡明な人も沢山いるから、何も私は学歴を問題にしているのではない。 こう云うと、いかにも私が、本当に聡明な女性に会ったことがない不幸な男である、 という風に曲解して、私に同情を寄せてくる女性がきっと現れる。こればかりは断言してもいい。 しかしそういう女性が、つまり一般論に対する個別的例外の幻想にいつも生きている女が、実は馬鹿な女の代表なのである。 (三島由紀夫「女ぎらひの弁」)
女はその本質からして蛇であり、イヴである Das Weib ist seinem Wesen nach Schlange, Heva」――したがって「世界におけるあらゆる禍いは女から生ずる vom Weib kommt jedes Unheil in der Welt」(ニーチェ『アンチクリスト』1888年)

大いなる普遍的なものは、男性による女性嫌悪ではなく、女性恐怖である。(カミール・パーリア Camille Paglia "No Law in the Arena: A Pagan Theory of Sexuality", 1994)






八千矛神よ、
この私はなよなよした草のようにか弱いヲトコですから、
私の心は浦や洲にいる鳥と同じです。
いまは自分の思うままにふるまっている鳥ですが、
のちにはあなたの思うままになる鳥なのですから、
どうか鳥のいのちは取らないでください……



たいていの場合、去勢の脅しは女性から来る。Meist sind es Frauen, von denen die Kastrationsdrohung ausgeht(フロイト『エディプス・コンプレックスの崩壊』1924年)
母の去勢 La castration maternelleとは、幼児にとって貪り喰われること dévoration とパックリやられること morsure の可能性を意味する。この母の去勢 la castration maternell が先立っているのである。父の去勢 la castration paternelle はその代替に過ぎない。…父には対抗することが可能である。…だが母に対しては不可能だ。あの母に呑み込まれ engloutissement、貪り喰われことdévorationに対しては。(ラカン、S4、05 Juin 1957)
構造的な理由により、女の原型は、危険な・貪り喰う大他者と同一である。それは起源としての原母であり、元来彼女のものであったものを奪い返す存在である。(ポール・バーハウ,, NEUROSIS AND PERVERSION: IL N'Y A PAS DE RAPPORT SEXUEL,1995)









◼️「古代母権制社会研究の今日的視点 一 神話と語源からの思索・素描」( 松田義幸・江藤裕之、2007年)より

女陰の門のΩ
そもそもの原初のlogos はどの地域からどのようにして出てきたものなのか。それはインドの原始ヒンズー教(タントラ教)の女神 Kali Ma の「創造の言葉」のOm(オーム)から始まったのである。Kali Maが「創造の言葉」のOmを唱えることによって万物を創造したのである。しかし、Kali Maは自ら創造した万物を貪り食う、恐ろしい破壊の女神でもあった。それが「大いなる破壊の Om」のOmegaである。

Kali Maが創ったサンスクリットのアルファベットは、創造の文字Alpha (A)で始まり、破壊の文字Omega(Ω)で終わる. Omegaは原始ヒンズー教(タントラ教)の馬蹄形の女陰の門のΩである。もちろん、Kali Maは破壊の死のOmegaで終りにしたのではない。「生→死→再生」という永遠に生き続ける循環を宇宙原理、自然原理、女性原理と定めたのである。





月女神カリマ「創造→維持→破壊」
後のキリスト教の父権制社会になってからは、logosは原初の意味を失い、「創造の言葉」は「神の言葉(化肉)」として、キリスト教に取り込まれ、破壊のOmegaは取り除かれてしまった。その結果、現象としては確かめようのない死後を裁くキリスト教が、月女神の宗教に取って代わったのである。父権制社会のもとでのKali Maが、魔女ということになり、自分の夫、自分の子どもたちを貪り食う、恐ろしい破壊の相のOmegaとの関わりだけが強調されるようになった。しかし、原初のKali Maは、OmのAlpha からOmegaまでを司り、さらに再生の周期を司る偉大な月女神であった。

月女神Kali Maの本質は「創造→維持→破壊」の周期を司る三相一体(trinity)にある。月は夜空にあって、「新月→満月→旧月」の周期を繰り返している。これが宇宙原理である。自然原理、女性原理も「創造→維持→破壊」の三相一体に従っている。母性とは「処女→母親→老婆」の周期を繰り返すエネルギー(シャクティ)である。この三相一体の母権制社会の宗教思想は、紀元前8000年から7000年に、広い地域で受容されていたのであり、それがこの世の運命であると認識していたのだ。

三相一体の「破壊」とは、Kali Maが「時」を支配する神で、一方で「時」は生命を与えながら、他方で「時」は生命を貪り食べ、死に至らしめる。ケルトではMorrigan,ギリシアではMoerae、北欧ではNorns、ローマではFate、Uni、Juno、エジプトではMutで、三相一体に対応する女神名を有していた。そして、この三相体の真中の「維持」を司る女神が、月母神、大地母神、そして母親である。どの地域でも母親を真中に位置づけ、「処女→母親→老婆」に対応する三相一体の女神を立てていた。

ma:「母親」と「女神」
インド・ヨーロッパ言語文化圈に見る、ma、mah、man、mana、manas、manos、men、mene、met、meter、materといったma、meを含んだ単語は、月女神の「創造の言葉」のlogos、Omから派生したものである。

そもそも、今日、manは「男」を意味しているが、これは「女」を意味していたのだ。manは万物創造の月女神であり、祖霊のmanesの母であった。サンスクリットのmanも、「真言」のMantraに見るように、月女神と叡智を意味していた。ma、meを語源にして派生した現在の英単語を見ると、「母親」と「物質(創造物)」と「叡智」「測定」に関するものが多い。

maという基本音節は、インド·ヨーロッパ言語文化圏でも、「母親」と「女神」を意味している。mother, materal (母の)、matron (既婚婦人)、matrix (母体), menses (月経)、menage/manage(家庭、家事、家政、世帯、管理)。

次に、「創造物の根源」に関してみると、matter (物質)、material(材料)、mud (泥)等がある。「女神」「女神の叡智」に関しては、moon、Mut (母神)、Maat (娘神)、Demeter、Muses、Mnemosyne (記憶の女神)、Menrva (Minerva)、omen (前兆、月、啓示)、amen (アーメン、再生の月)、mind, mentality等ある。

「学問」「測定」に関しては、mathematics (数学)、matrix (行列)、metrics (計量学)、mensuration (測定法)、meter (配分)、geometry (幾何学)、mete (配分)、 trigonometry (三角法)、hydrometry(液量測定)、meter (計器)等がある。

これら語源から派生した単語を見ると、自然と共に生きていた時代の女性たちは、宇宙原理、自然原理、女性原理に従った「創造→維持→破壊」の三相一体の周期、循環に生まれながらにして熟知していたことがよく分かる。

女性は経血(menstrul blood)の周期と月の朔望の周期、潮の干満の周期が密接に関係していることから、天文に関する研究を文化、文明の基礎学問とみなしていた。天文に関する「母親の知恵」が学問のmathesisであり、「天文の学問のある母親たち」をMathematici と呼んでいた。今日の「数学」を意味するmathematicsの語源である。特に、月女神に仕える巫女はその能力に長じたsybilsで、女神Cybeleと同語源である。(「古代母権制社会研究の今日的視点 一 神話と語源からの思索・素描」、 松田義幸・江藤裕之、2007年)