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2020年3月28日土曜日

MLF商会の彼岸


現在の天下の形勢は、男性中心、女性蔑視どころか、まさにその反対で女性が男女同権を唱えるどころか、せめて男女同権にしていただきたいと男性が哀訴嘆願し失地回復に汲々としている有り様だ。…まったく、男というものには、女性に対してとうてい歯のたたぬ部分がある。ものの考え方に、そして、おそらく発想の根源となっている生理のぐあい自体に、女性に抵抗できぬ弱さがある。(吉行淳之介「わたくし論」1962年)

ーーと前回引用したが、ここではいくらかの理論篇、歴史篇である。




MLF商会
ひとつの享楽がある il y a une jouissance…身体の享楽 jouissance du corps である…
ファルスの彼岸 Au-delà du phallus、キュートじゃないか!ça serait mignon ça, hein ! 女性解放運動MLFにもうひとつの一貫性を提供するだろう(笑) et puis ça donnerait une autre consistance au MLF. [ Rires ] …ああ、ファルスの彼岸の享楽!(Lacan20、20 Février 1973)
MLF商会の彼岸
フローラがついうっかりぼくに見せてしまった報告…こんな風にしてぼくはFAMの存在を知ったのだ…「子宮自律戦線」…「男の絶滅と新たな出生率のための世界機構」…それ自身SGIS、「ソドムとゴモラ国際会議」から出たものだ…古くからの知己…すでにずっと前から事業の公式的ショーウインドでしかないフェミニスト解放運動、MLF商会をはるかに越えてて…おびただしい兆候からして、もっと秘密で、もっと強硬で、もっと知的で、もっと野心的な組織があるんじゃないかとぼくがにらんでもうずいぶんになる…ついにお出ましだ…(…)ぼくはそれを、われわれの時代の最も偉大な思想家であるファルスに見せに行った…彼は二十枚ほどのタイプ原稿を読むと、両腕を高く上げ、四、五回ため息をついて、長いことぼくを眼鏡越しに面白そうに見て言った、「言わんこっちゃない!…だからいつも私は言ったんだ!…もちろん、きみたちに降りかかったことだ!…こんなものは忘れてしまうことだよ、きみ…きみたちが知るべきことじゃない…ちがうかね…まぬがれんことだ…忘れたまえ…命を落とすことになるぞ…」もっとも、一年後にファルスは事実上あらゆる活動を停止した…(ソレルス『女たち』原著1983年、鈴木創士訳)
MLF商会の彼岸に対する防衛としてのファルス
私は、エディプスは役立たずだ l'Œdipe ça ne sert à rien とは全く言っていない。我々がやっていることとは無関係だとも言っていない。だが精神分析家にとっては役に立たない。それは真実である!Ça ne sert à rien aux psychanalystes, ça c'est vrai ! …

精神分析家は益々、ひどく重要な何ものかにかかわるようになっている。すなわち「母の役割 le rôle de la mère」に。…母の役割とは、「母の圧搾 le « béguin » de la mère」である。

これは絶対的な重要性をもっている。というのは「母の圧搾」は、寛大に取り扱いうるものではないから。そう、黙ってやり過ごしうるものではない。それは常にダメージを引き起こすdégâts。そうではなかろうか?

巨大な鰐 Un grand crocodile のようなもんだ、その鰐の口のあいだにあなたはいる。これが母だ、ちがうだろうか? あなたは決して知らない、この鰐が突如襲いかかり、その顎を閉ざすle refermer son clapet かもしれないことを。これが母の欲望 le désir de la mère である

やあ、私は人を安堵させる rassurant 何ものかを説明しようと試みている。…単純な事を言っているんだ(笑 Rires)。私は即席にすこし間に合わせを言わなくちゃならない(笑Rires)。

シリンダー rouleau がある。もちろん石製で力能がある。それは母の顎の罠にある。そのシリンダーは、拘束具 retient・楔 coinceとして機能する。これがファルス phallus と呼ばれるものだ。シリンダーの支えは、あなたがパックリ咥え込まれる tout d'un coup ça se refermeのから防御してくれるのだ。(ラカン、S17, 11 Mars 1970)
「父の名 Nom-du-Père」は「母の欲望 Désir de la Mère」の上に課されなければならない。その条件のみにおいて、身体の享楽 jouissance du corps は飼い馴らされ、主体は、他の諸主体と共有された現実の経験に従いうる。(JACQUES-ALAIN MILLER L’Autre sans Autre,2013)
全能の女
(原母子関係には)母なる女の支配 dominance de la femme en tant que mère がある。…語る母・幼児が要求する対象としての母・命令する母・幼児の依存 dépendance を担う母が。(ラカン、S17、11 Février 1970)
全能 omnipotence の構造は、母のなか、つまり原大他者 l'Autre primitif のなかにある。あの、あらゆる力 tout-puissant をもった大他者…(ラカン、S4、06 Février 1957)
すべての女性に母の影は落ちている。つまりすべての女は母なる力を、さらには母なる全能性を共有している。これはどの若い警察官の悪夢でもある、中年の女性が車の窓を下げて訊ねる、「なんなの、坊や?」

この原初の母なる全能性はあらゆる面で恐怖を惹き起こす、女性蔑視(セクシズム)から女性嫌悪(ミソジニー)まで。(ポール・バーハウPaul Verhaeghe, Love in a Time of Loneliness THREE ESSAYS ON DRIVE AND DESIRE, 1998)








マルクス・ポルキウス・カト・ケンソリウス Marcus Porcius Cato Censoriu (紀元前234年 - 紀元前149年)の予言
諸君、我々一人一人が各家庭で夫の権威と権利を守り抜いていたら、こんなことにはならなかったはずですぞ。今や事態はここまで来た。女がのさばり、家庭でのわれわれの行動の自由を粉砕しただけではあきたらず、広場におけるわれわれの自由をさえ粉砕にかかっているのではないか。法が男性の権利を保証している間でさえ、女たちをおとなしくさせ、勝手なことをさせないために、どんなに苦労してきたか、よくお分りと思う。もし女どもが法的にも男と同等の立場に立つならいったいどうなることか、よくよくお考えあれ。女というものをよく御存知の諸君、かりに連中がわれわれと同等の地位に立つとすれば、きっとわれわれを支配するようになりましょうぞ。どこの世界でも男たちが女を支配しておる。ところが世界の男たちを支配する男たち、つまりわれわれローマ人がだ、女たちに支配されることになるのですぞ。(大カトーの演説――ティトゥス・リウィウス「ローマ建国史」)







フェミニズムは死んだ
私は全きフェミニストだ。
他のフェミニストたちが私を嫌う理由は、私が、フェミニスト運動を修正が必要だと批判しているからだ。
フェミニズムは女たちを裏切った。男と女を疎外し、ポリティカルコレクトネス討論にて代替したのである。(カミール・パーリア 、プレイボーイインタヴュー、1995年)
男たちは身体的かつ感情的に自らを犠牲にして、女と子供を養い住居を当てがい守ってきた。男たちの痛みあるいは成果は、フェミニストのレトリックには全く登録されていない。連中のレトリックは、男を圧制的で無慈悲な搾取者として描くだけだ。(Camille Paglia, Vamps and Tramps, 1994年)
男を敵として定義するとき、フェミニズムは女たちを自分自身の身体から疎外している。(Camille Paglia、Vamps & Tramps、2011)
フェミニズムは死んだ。フェミニズム運動は完全に死んでいる。女性解放運動は反対者の声を制圧しようとする道をあまりにも遠くまで進んだ。異をとなえる者を受け入れる余地はまったくない。まさに意地悪女 Mean Girls のようだ。彼女たちが私のいうことを聞いていたなら、船は正しい方向に舵をとったのだが。…(連中は)私のことをフェミニストではないとまだ言っている⋯⋯フェミニストのイデオロギーは、数多くの神経症女の新しい宗教のようなものだ。(Camille Paglia on Rob Ford, Rihanna and rape culture、2013)
文明が女の手に残されたままだったなら、われわれはまだ掘っ立て小屋に住んでいただろう。(カーミル・パーリア camille paglia『性のペルソナ Sexual Persona』1990年)
判で押したようにことごとく非難される家父長制は、避妊ピルを生み出した。このピルは、現代の女たちにフェミニズム自体よりももっと自由を与えた。…
フェミニズムが家父長制と呼ぶものは、たんに文明化である。家父長制とは、男たちによってデザインされた抽象的システムのひとつだ。だがそのシステムは女たちに分け与えられ共有されている。(Camille Paglia、Vamps & Tramps、2011年)





宿命の女(ファンム・ファタール)は虚構ではなく、変わることなき女の生物学的現実の延長線上にある。ヴァギナ・デンタータ(歯の生えたヴァギナ)という北米の神話は、女のもつ力とそれに対する男性の恐怖を、ぞっとするほど直観的に表現している。比喩的にいえば、全てのヴァギナは秘密の歯をもっている。というのは男性自身(ペニス)は、(ヴァギナに)入っていった時よりも必ず小さくなって出てくる。……

社会的交渉ではなく自然な営みとして見れば、セックスとはいわば、女が男のエネルギーを吸い取る行為であり、どんな男も、女と交わる時、肉体的、精神的去勢の危険に晒されている。恋愛とは、男が性的恐怖を麻痺させる為の呪文に他ならない。女は潜在的に吸血鬼である。……

自然は呆れるばかりの完璧さを女に授けた。男にとっては性交の一つ一つの行為が母親に対しての回帰であり降伏である。男にとって、セックスはアイデンティティ確立の為の闘いである。セックスにおいて、男は彼を生んだ歯の生えた力、すなわち自然という雌の竜に吸い尽くされ、放り出されるのだ。(カーミル・パーリア Camille Paglia『性のペルソナ Sexual Personae』1990年)





最後に吉行的観察篇に戻っておこう。





ぼくは、いつも連中が自分の女房を前にして震え上がっているのを見た。あれらの哲学者たち、あれらの革命家たちが、あたかもそのことによって真の神性がそこに存在するのを自分から認めるかのように …彼らが「大衆」というとき、彼らは自分の女房のことを言わんとしている ……実際どこでも同じことだ …犬小屋の犬… 自分の家でふんづかまって …ベッドで監視され…(ソレルス『女たち』)