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2020年7月25日土曜日

女の中核


それをもっているために女であり、そのために男を誘惑し、それが原因でおとしめられ、女の中核でありながら、女自身から最も女が遠ざけられているもの (上野千鶴子『女遊び』1988年)

いや、敢えていくらかずらして記したが(参照)、この上野千鶴子の40歳のときの書の文は限りなく重要だよ。彼女の原点がここにあるなら、嫌味なしに敬意を表するね。

最近の発言だけを捉えて、ほどよく聡明な=凡庸なインテリが次のように言う心持ちはよくわかるが。



いつもそうなのだが、わたしたちは土台を問題にすることを忘れてしまう。疑問符をじゅうぶん深いところに打ち込まないからだ。(ヴィトゲンシュタイン『反哲学的断章』)



◼️付記

本源的に抑圧されている要素は、常に女性的なものではないかと思われるれる。Die Vermutung geht dahin, daß das eigentlich verdrängte Element stets das Weibliche ist(フロイト, フリース宛書簡 Brief an Wilhelm Fließ, 25, mai, 1897)
女というものは、その本質において、女にとっても抑圧されている。男にとって女が抑圧されているのと同じように。La Femme dans son essence,…elle est tout aussi refoulée pour la femme que pour l'homme (ラカン、S16, 12 Mars 1969)

女性器 weibliche Genitale という不気味なもの Unheimliche は、誰しもが一度は、そして最初はそこにいたことのある場所への、人の子の故郷 Heimat への入口である。冗談にも「愛とは郷愁だ Liebe ist Heimweh」という。もし夢の中で「これは自分の知っている場所だ、昔一度ここにいたことがある」と思うような場所とか風景などがあったならば、それはかならず女性器 Genitale、あるいは母胎 Leib der Mutter であるとみなしてよい。したがって不気味なもの Unheimliche とはこの場合においてもまた、かつて親しかったもの Heimische、昔なじみのものなの Altvertraute である。しかしこの言葉(unhemlich)の前綴 un は抑圧の徴 Marke der Verdrängung である。(フロイト『不気味なもの Das Unheimliche』1919年)

ーーここに現れる「抑圧」はすべて「原抑圧」あるいは「排除」の意味である(参照)。


女は何も欠けていない La femme ne manque de rien(ラカン, S10, 13 Mars 1963)
不気味なもの Unheimlich とは、…私が(-φ)を置いた場に現れる。(-φ)とは、想像的去勢castration imaginaire を思い起こさせるが、それは欠如のイマージュ image du manqueではない。…私は(-φ)を、欠如が欠如している manque vient à manquerと表現しうる。(ラカン、S10「不安」、28 Novembre 1962)
欠如の欠如が現実界を為す Le manque du manque fait le réel(AE573、1976)
現実界は…穴=トラウマを為す。le Réel […] ça fait « troumatisme ».(ラカン、S21、19 Février 1974)

問題となっている現実界は、一般的にトラウマと呼ばれるものの価値を持っている。le Réel en question, a la valeur de ce qu'on appelle généralement un traumatisme.  (Lacan, S23, 13 Avril 1976)
ラカンの現実界は、フロイトがトラウマと呼んだものである。ラカンの現実界は常にトラウマ的である。それは言説のなかの穴である。ce réel de Lacan […], c'est ce que Freud a appelé le trauma. Le réel de Lacan est toujours traumatique. C'est un trou dans le discours.  (J.-A. Miller, La psychanalyse, sa place parmi les sciences, mars 2011)
人はみなトラウマ化されている。…この意味は、すべての人にとって穴があるということである[tout le monde est traumatisé …ce qu'il y a pour tous ceux-là, c'est un trou.  ](J.-A. Miller, Vie de Lacan, 17/03/2010 )

我々の言説はすべて現実界に対する防衛である tous nos discours sont une défense contre le réel 。(J.A. Miller,  Clinique ironique, 1993)
明らかに、現実界はそれ自体トラウマ的であり、基本情動として原不安を生む。想像界と象徴界内での心的操作はこのトラウマ的現実界に対する防衛を構築することを目指す。(ポール・バーハウ Paul Verhaeghe, Does the woman exist? 1997)