このブログを検索

2025年7月5日土曜日

 二種類の「現実主義」ーーリアリティ主義とリアル主義

 

リアルポリティック[Realpolitik]、つまり政治的現実主義は、一般に使われる意味での現実主義とはまったく異なるのだよ。それがモーゲンソーやミアシャイマーを引用して昨日示したことだ道徳を口にする者は詐欺師であるーーリアルポリティック[Realpolitik]」

例えば、政治的文脈においてさえ、現実主義をpragmatism(実用主義あるいは実利主義)の意味で使われることが多い。

プーチンでさえその文脈で使っている。


◼️プーチン「トランプ政権を称賛:最初の接触は希望を抱かせた」2025年2月27日

Putin praises Trump administration: "First contact inspires hope", 27 FEBRUARY 2025

現在のパートナーが実用主義、現実的な視点を示し、多くの固定観念、いわゆるルール、そして先人たちの救世主的なイデオロギー的決まり文句から脱却していくことが重要だ。こうした決まり文句は実際には国際関係システム全体の危機を招いたのだ。

"It is important that our current partners demonstrate pragmatism, a realistic view of things, and are moving away from many stereotypes, so-called rules, and the messianic ideological clichés of their predecessors, which, in fact, led to the crisis of the entire international relations system."



このイデオロギーに囚われず実用的な視点をもつという「プラグマティズム」が一般に「現実主義」と訳されるんだな。



この5ヶ月前のプーチンの希望自体、今から見ると浅はかな期待だったわけで、その意味では現実的ではなく幻想だったわけだが。ーー《現実はない。現実は幻想によって構成されている[il n'y a pas de réalité.La réalité n'est constituée que par le fantasme]》(Lacan, S25, 20 Décembre 1977)


少なくともモーゲンソーの力への意志=欲動としての現実主義は、決してプラグマティズムではなく、フロイト・ラカン的な精神分析的区分にすこぶる近似している。➤「RealitätとReal(リアリティとリアル)の相違





要するに「現実主義」と訳される語は大きく言って「リアリティ主義」と「リアル主義」がある。一般に流通している現実主義はリアリティ主義であり、フロイト・ラカン的には幻想主義だな。



じつは、この世界は思考を支える幻想でしかない。それもひとつの「現実」には違いないかもしれないが、現実界の顰め面[grimace du réel]として理解されるべき現実である。alors qu'il(monde) n'est que le fantasme dont se soutient une pensée, « réalité » sans doute, mais à entendre comme grimace du réel.(Lacan, Télévision, AE512、Noël 1973)


もっとも幻想は常に悪いものというわけではない。ーー《取り戻し得ないとしても失われた秩序へのノスタルジーは、幻想の力をもつ[Nostalgie pour un ordre perdu impossible à retrouver qui a la vigueur d'une illusion. ]》(J.-A. MILLER,「21世紀における現実界 LE RÉEL AU XXIèmeSIÈCLE」2012年)


※参照:普遍宗教の回復(ラカンと柄谷行人)