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2025年7月27日日曜日

「脱米入BRICS」を言えない「風をみながら絶えず舵を切るほかはない」日本の外交

 

中井久夫は1994年にこう書いている。


中国人は平然と「二十一世紀中葉の中国」を語る。長期予測において小さな変動は打ち消しあって大筋が見える。これが「大国」である。アメリカも五十年後にも大筋は変るまい。日本では第二次関東大震災ひとつで歴史は大幅に変わる。日本ではヨット乗りのごとく風をみながら絶えず舵を切るほかはない。為政者は「戦々兢々として深淵に臨み薄氷を踏むがごとし」という二宮尊徳の言葉のとおりである。他山の石はチェコ、アイスランド、オランダ、せいぜい英国であり、決して中国や米国、ロシアではない。(中井久夫「日本人がダメなのは成功のときである」初出1994年『精神科医がものを書くとき』所収)


現在、「二十一世紀中葉の中国」はBRICSと上海協力機構(BRICSのイデオロギー部門)に結実しつつある。他方、アメリカのグランドプランはどうか。しばしば語られてきたズビグネフ・ブレジンスキーの1997年の著書『世界のチェス盤:アメリカの優位性とその地政学的義務』ーーこの副題に要約されたネオコンの妄想にこの今も象徴されるのではないか。


今後、米国は、米国をユーラシアから追い出し、ひいては世界大国としての米国の地位を脅かそうとする地域連合にどう対処するかを決定しなければならないかもしれない。 〔・・・〕潜在的に最も危険なシナリオは、中国、ロシア、そしておそらくイランによる大連合、つまりイデオロギーではなく相互補完的な不満によって結束した「反覇権主義的」連合である。これは、かつて中ソ連圏が直面した脅威を規模と範囲において彷彿とさせる。ただし今回は中国が主導権を握り、ロシアが追随する可能性が高い。この不測の事態を回避するには、たとえ可能性がいかに低くても、ユーラシア大陸の西、東、南の境界において、米国の地政学的手腕を同時に駆使する必要がある。

Henceforth, the United States may have to determine how to cope with regional coalitions that seek to push America out of Eurasia, thereby threatening America's status as a global power.(…) 

Potentially, the most dangerous scenario would be a grand coalition of China, Russia, and perhaps Iran, an "antihegemonic" coalition united not by ideology but by complementary grievances. It would be reminiscent in scale and scope of the challenge once posed by the Sino-Soviet bloc, though this time China would likely be the leader and Russia the follower. Averting this contingency, however remote it may be, will require a display of U.S. geostrategic skill on the western, eastern, and southern perimeters of Eurasia simultaneously.

(ズビグネフ・ブレジンスキー『グランドチェス盤アメリカの優位性とその地政学的義務

』ZBIGNIEW BRZEZINSKI, THE GRAND CHESSBOARD American Primacy and Its Geostrategic Imperatives,1997)


現在の日本の外交はこの二つの大国に挟まれて《ヨット乗りのごとく風をみながら絶えず舵を切るほかはない》のだろうか。私には「脱米入BRICS」を前面に出して謳う主要政党が出てこないのが不思議でならないが、そうできない事情がおそらくあるのだろう。


なにはともあれ、加藤周一が指摘した日本の外交の「米国追随」はこの今も継続している。


戦後の日本の外交に関しては、もちろん、さまざまな要因を考慮しなければならない。

2・26事件の1936年以後敗戦の45年まで陸軍は事実上外交を無視していた。45年から52年まで占領下の日本には外交権がなかった。52年から「冷戦」の終わった89年まで、日本は「米国追随」に徹底していた。

ということは、事実上外交的な「イニシアティブ」をとる余地がほとんどなかった、ということである。日本国には半世紀以上も独自の外交政策を生み出す経験がなかった。そこでわずかに繰り返されたのが、情勢の変化に対するその場の反応、応急手当、その日暮らし、先のことは先のこととして現在にのみこだわることになったのだろう。
おそらく過去を忘れ、失策を思い煩わず、現在の大勢に従って急場をしのぐ伝統文化があった。〔・・・〕

人々が大勢に従うのは、もちろん現在の大勢にである。大勢は時代によってその方向を変える。…当面の時代、歴史的時間の現在、大勢の方向が決定する今日は伸縮するが、昨日の立場から切り離して、今日の大勢に、それが今日の大勢であるが故に、従おうとするのが大勢順応主義の態度である。その態度は昨日と今日の立場の一貫性に固執しない。別の言葉でいえば、大勢順応主義は集団の成員の行動様式にあらわれた現在中心主義である。

(加藤周一『日本文化における時間と空間』2007年)


一年ほど前、アレクサンドル・ドゥーギンがこう言っていたがね、ーー《現代のドイツや日本の行動に対する憤慨は無駄である。第二次世界大戦の結果、彼らは西側の奴隷となり、単に存在しないのである。That is why it is pointless to be outraged by the behavior of modern Germany or Japan ― because they lost World War Two, they are now slaves of the West; they effectively do not exist.》(Victory as Existence by Alexander Dugin 13.08.2024)


あるいはーー、





……………


以下、今まで引用してきた中で米国の覇権維持プランに関わるものを中心にいくつか掲げておく。



◼️「オールイン・サミット2024 」YouTube公開2024年9月17日

ミアシャイマー:レジームチェンジを行い、世界を支配しようとするには、アメリカは莫大な権力を必要とする。だからこそディープステートが形成されたのです。

これは、自由主義と憲法原則が帝国主義のために侵食される、まさにオーウェル的な構造を生み出している。それがアメリカを破壊している。

Mearsheimer:To conduct regime change and try dominating the world, America needs IMMENSE power. That’s why the Deep State was formed.

This creates a very Orwellian structure where liberalism and constitutional principles erode for Imperialism. It’s destroying America



◾️ジェフリー・サックス「BRICS首脳会議はネオコンの妄信の終焉を告げるものであるべきだ」

The BRICS Summit Should Mark the End of Neocon Delusions, JEFFREY D. SACHS Nov 02, 2024

ロシアのカザンで最近開かれたBRICS首脳会談は、ズビグネフ・ブレジンスキーの1997年の著書『世界のチェス盤:アメリカの優位性とその地政学的義務』の副題に要約されたネオコンの妄想の終焉を象徴するものである。1990年代以来、アメリカの外交政策の目標は「優位性」、つまり世界覇権であった。アメリカが選んだ手段は、戦争、政権交代作戦、一方的な強制措置(経済制裁)であった。カザンには、アメリカの威圧を拒否し、覇権を主張するアメリカに屈しない、世界人口の半分以上を占める35カ国が集まった。

The recent BRICS Summit in Kazan, Russia should mark the end of the Neocon delusions encapsulated in the subtitle of Zbigniew Brzezinski’s 1997 book, The Global Chessboard: American Primacy and its Geostrategic Imperatives. Since the 1990s, the goal of American foreign policy has been “primacy,” aka global hegemony. The U.S. methods of choice have been wars, regime change operations, and unilateral coercive measures (economic sanctions). Kazan brought together 35 countries with more than half the world population that reject the U.S. bullying and that are not cowed by U.S. claims of hegemony.





◼️マイケル・ハドソン「米国の新自由主義的金融化政策 vs. 中国の産業社会主義

America’s Neoliberal Financialization Policy vs. China’s Industrial Socialism

By Michael Hudson, April 14, 2021

「古代帝国のより残酷な時代を彷彿とさせる用語で言えば」とブレジンスキーは説明している、「帝国の地政学における三つの重要な責務は、属国間の共謀を防ぎ、安全保障上の相互依存関係を維持すること、属国を従順かつ保護された状態に保つこと、そして蛮族の結束を防ぐことである」。


第二次世界大戦でドイツと日本を破り、彼らを属国に転落させた後、アメリカの外交は1946年までにイギリスとその帝国領ポンド圏を急速に属国に転落させ、その後、西ヨーロッパの残りの国々とその旧植民地も続いた。次のステップは、ロシアと中国を孤立させつつ、「蛮族の結束を防ぐ」ことだった。もし両国が結束した場合、「アメリカは、アメリカをユーラシアから追い出し、ひいてはアメリカの世界大国としての地位を脅かそうとする地域連合にどう対処するかを決断しなければならないかもしれない」とブレジンスキーは警告した。


2016年までに、ブレジンスキーはこれらの目標を達成できなかったことでパックス・アメリカーナが崩壊しつつあると見ていた。彼は、アメリカ合衆国が「もはや世界的な帝国主義国家ではない」と認めた。これが、中国、ロシア、そしてイランとベネズエラに対するアメリカの敵意を強めている原因である。

“To put it in a terminology that harkens back to the more brutal age of ancient empires,” Brzezinski explained, “the three grand imperatives of imperial geostrategy are to prevent collusion and maintain security dependence among the vassals, to keep tributaries pliant and protected and to keep the barbarians from coming together.”

After reducing Germany and Japan to vassalage after defeating them in World War II, U.S. diplomacy quickly reduced the Britain and its imperial sterling area to vassalage by 1946, followed in due course by the rest of Western Europe and its former colonies. The next step was to isolate Russia and China, while keeping “the barbarians from coming together.” If they were to join up, warned Mr. Brzezinski, “the United States may have to determine how to cope with regional coalitions that seek to push America out of Eurasia, thereby threatening America’s status as a global power.”

By 2016, Brzezinski saw Pax Americana unravelling from its failure to achieve these aims. He acknowledged that the United States “is no longer the globally imperial power.” That is what has motivated its increasing antagonism toward China and Russia, along with Iran and Venezuela.




◾️ペペ・エスコバル「公然な政策としてのガザジェノサイド: マイケル・ハドソンはすべての名を名付ける」2024年4月15日

The Gaza Genocide as Explicit Policy: Michael Hudson Names All Names

PEPE ESCOBAR • APRIL 15, 2024

ハドソン教授は、主要な点を結び付ける。「私が理解する限り、米国がイスラエルとともに行っていることは、イランと南シナ海へ向かうためのリハーサルです。ご存知のとおり、米国の戦略にはプラン B がありません。それには十分な理由があります。プラン A を批判する人は、チームプレーヤーではない (あるいはプーチンの操り人形である) と見なされるため、批判者は昇進できないとわかると去らざるを得ません。だからこそ、米国の戦略家たちは立ち止まって自分たちの行動を再考しようとしないのです。」

Prof. Hudson then connects the major dots: “As I understand it, what the U.S. is doing with Israel is a dress rehearsal for it to move on to Iran and the South China Sea. As you know, there is no Plan B in American strategy for a very good reason: If anyone criticize Plan A, they’re considered not to be a team player (or even Putin’s Puppet), so critics have to leave when they see that they won’t be promoted. That’s why U.S. strategists won’t stop and re-think what they’re doing.”



なお直近には、(あたかもブレジンスキーグランプランの戲画のような)ハドソン研究所による「共産主義後の中国:中国共産党後の中国への準備(China after Communism: Preparing for a Post-CCP China)」という滑稽な青写真が提出されている[参照]。