キチガイ雌しべがひらひらしている
ああまたあの音が聞こえる
ああまたわからなくなつた
「女から/生垣へ
投げられた抛物線は
美しい人間の孤独へ憧れる人間の
生命線である」
ああ すべては流れている
ああ また生垣の後ろで
頭を垂れた睡蓮が溜息をついている
土を思い白鳥のように
濡れて野にしやがむ
イセの木むすめの
「なかさおはいりなせ--」という
言葉がまたきこえてくる
ああかけすが鳴いてやかましい
風がたち丘のうなじが光る
盲目の小鳥は光の網を潜る
わたしのチューリップにたいする関係はリンチ風だね、あの花というのはほんとにムカつくよ。想像してみよう、あの類の花というのは、なんて言えばいいのか、ヴァギナ・デンタータだな、きみを呑み込むような畏れ多い歯のついたオメコさ。花というのはそもそも気分が悪くなる。人はわからないのかね、花がひどくおどろおどろしいものだというのが? 基本的に、すべての昆虫やら蜂やらを呼び込む口を開けた誘いだよ。「おいでよ、そして私を突いてよ」。わかるかい? わたしが思うには、花は子供たちには禁止すべきだね。(ジジェク 、Slavoj Žižek, Dreamboat, Thinks Flowers Are "Dental Vaginas Threatening to Swallow You"、2009)
◆Valery Afanassiev - Schubert - Piano Sonata D664、8:09~
「忘れるな、身体よ……」 カヴァフィス(中井久夫訳)
身体よ、忘れるな、受けた数多の愛だけではなく
きみを見つめた眼の中に、
きみに語って震えた声の中に、
いかにも露わだった憧れのきらめきも--。
決定的な過去となった今では、
肌を合わせたようにも思えてくるではないか。
きみのためのあの声の中の、あの憧れの震え。忘れるな、身体よ。