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2019年4月4日木曜日

インテリ諸君の考えるべき事

本当のことを言うとね、空襲で焼かれたとき、やっぱり解放感ありました。震災でもそれがあるはずなんです。日常生活を破られるというのは大変な恐怖だし、喪失感も強いけど、一方には解放感が必ずある。でも、もうそれは口にしちゃいけないことになっているから。(古井由吉「新潮」2012年1月号又吉直樹対談) 

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さてここでは、前回記した「世界経済の破綻」は、もうすこししばらく猶予があるという前提で日本経済の崩壊のみについて記す。世界資本主義の破綻がこの20~30年のあいだに起こるなら、以下の記述は遺憾ながら机上の空論である。


■蚊居肢子予測(参照:悪夢のシナリオ





2027年度予測は、主に次の資料を利用した(みずほ研究所「2020年代、日本最後の改革機会」2017.7.5、pdf)。が、現在すでに「税収下振れ5.4兆円」が起こっており、いくらか加減した部分がある。




まず蚊居肢子予測図にいくらかのコメントしておこう。

・2027年の金利が、平成10年並程度におさまっていたら、消費税20%(あるいはそれに相当する税額約25兆円)にすれば何とかなる筈である。ただしその程度では借金は減らないので、常に金利上昇に戦々兢々としていなければならない。

・2027年の金利が、平成元年並になったら何をやってもダメ(財政震災)


これは、今の長期国債低金利の継続はありえないという前提にたっている。野口悠紀雄・小黒一正シナリオにほぼ依拠しつつの想定である。

最も愚かしいのは、共産党などの予測にみられる「税制弾性率」をひどく甘くみて、経済成長があれば何もする必要がないという態度である。なおかつ生産年齢人口がⅠ%ずつ減少する国で、成長率1パーセント超が継続することはほとんど奇跡に近い。

アメリカの潜在成長率は2.5%弱、2%~2.5%と言われているが、アメリカは移民があることと、出生率が高いことがあり、人口は1%伸びている。日本は1%弱、生産年齢人口が減っていくので、女性や高齢者の雇用を促進するとしても、潜在成長率はせいぜい実質1%程度に引き上げるのがやっとだろうと見ている。

アメリカの人口成長率が+1%、日本は-1%、生産性を日米同じ1.5%と置いても日本の潜在成長率は0.5%で、これを引き上げることは難しいということである。(深尾光洋、第4回「今後の経済財政動向等についての点検会合」内閣府議事要旨 、pdf

野口悠紀雄の「悪夢のシナリオ」は示したので、ここでは小黒一正を引用しておく。これは9割方の「まともな」経済学者のコンセンサスである。

もっとも「まともでない」経済評論家、たとえば高橋洋一のたぐいがいるという不幸があるが、現在では夢見る人たち以外にはもはや相手にされていない。

財政赤字が恒常化し、巨額の債務を抱える日本の財政は極めて厳しい状況であるにもかかわらず、財政の持続可能性に対する国民の危機感は薄い。この理由の一つには、日銀が“異次元”の金融政策で大量に国債を買い取り、長期金利を極めて低い水準に抑制できていることも大きな影響があろう。その結果として、国債の利回りが1%程度(発行済み国債の加重平均金利)で済んでおり、約1000兆円の政府債務の利払い費が約10兆円に抑制できている。しかしながら、金利が5-6%に上昇しただけで、利払い費は50-60兆円と5-6倍に膨らむ。(小黒 一正「歴史的に特異な状況にある日本財政:中長期の社会保障の姿を示せ」2018.4.2
成長率と金利は通常ほぼ連動し、成長率が1%伸びれば約70兆円の税収等は約0.7兆円増えるが、長期金利が1%上がれば利払い費は10兆円以上増え、歳出の増加の方が圧倒的に大きくなる。(異次元緩和が財政規律を弛緩、消費増税先送りも-小黒法大教授 2019年2月15日

利払い費が50-60兆円になったら国家予算はまったく組めない。

2027年の金利が、平成元年並になったら何をやってもダメ(財政震災)としたが、平成元年の金利とは冒頭に示した図にあるように6.2%である。そこまでいかなくとも、5%に到ったらかつての関東大震災並の財政震災が起こる。

というわけで、1997年の李鵬予測(「まああと三十年もしたら大体あの国はつぶれるだろう」)が的中してしまうのである。30年後、すなわち2027年、令和9年である。

武藤国務大臣)……そのオーストラリアへ参りましたときに、オーストラリアの当時のキーティング首相から言われた一つの言葉が、日本はもうつぶれるのじゃないかと。実は、この間中国の李鵬首相と会ったら、李鵬首相いわく、君、オーストラリアは日本を大変頼りにしているようだけれども、まああと三十年もしたら大体あの国はつぶれるだろう、こういうことを李鵬首相がキーティングさんに言ったと。非常にキーティングさんはショックを受けながらも、私がちょうど行ったものですから、おまえはどう思うか、こういう話だったのです。私は、それはまあ、何と李鵬さんが言ったか知らないけれども、これは日本の国の政治家としてつぶれますよなんて言えっこないじゃないか、確かに今の状況から見れば非常に問題があることは事実だけれども、必ず立ち直るから心配するなと言って、実は帰ってまいりました。(第140回国会 行政改革に関する特別委員会 第4号 平成九年五月九日


さてここで、海外住まいで年金にたよるつもりもない蚊居肢散人は勝手なことを言わせてもらうことにする。つまり「口にしちゃいけないこと」をカンタンに言い得る身なのである。

ーーはやくコイコイ、財政崩壊! はやく濃い恋、既存システムへの「革命」!

日本人は李鵬予測など鼻を明かして、先行して崩壊しなければならない。みなさんにもきっと日常生活をが破られる解放感があるはずである!


ハイパーインフレは、国債という国の株式を無価値にすることで、これまでの財政赤字を一挙に清算する、究極の財政再建策でもある。

 予期しないインフレは、実体経済へのマイナスの影響が小さい、効率的資本課税とされる。ハイパーインフレにもそれが当てはまるかどうかはともかく、大した金融資産を持たない大多数の庶民にとっては、大増税を通じた財政再建よりも望ましい可能性がある。(本当に国は「借金」があるのか/福井義高 2019.02.03)
消費税増税法案が閣議決定された(2012年)3月30日、国会内で自民党の小泉進次郎代議士はこう述べた。「若い人にもデフォルト待望論がある。財政破綻を迎え、ゼロからはじめたほうが、自分たちの世代にとってはプラスだという議論が出ている」(資産も職もない若者はデフォルト待望 「みんなが不幸になり、既得権益が一掃されることを願う」

とはいえーー「デフォルト待望論」にいくらか仄めかしたがーー、財政破綻がおこれば、一時的な大混乱が必ず起こる。生活保護受給者や一部の高齢者などはとくに救いがたい状況になる可能性が高い。たとえば社会保障費給付がかりに止まってしまえば、餓死者だって出かねない。

2012年という比較的はやい段階において、もはや日本の財政破綻は必然なのだから、悠長な現状分析はやめて財政破綻後の日本を考えようとする趣旨をもった「「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会」ーー代表:井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授)、貝塚啓明(東京大学名誉教授)、三輪芳朗(大阪学院大学教授・東京大学名誉教授)ーーが存在していたが(現在も存続しているか否かは不詳)、この研究会の冷徹なメンバーの一人は、日本で財政破綻が起こったら、ロシアと同様なことが起こりうることを仄めかしている。

いささか不謹慎な話題かもしれませんが・・・。――旧ソ連が崩壊し、ロシアでは、それまで全国民に医療サービスを政府が提供する体制が実質的に崩壊しました。また、ソ連崩壊後の時期に死亡率が急上昇しました。……[送り状(2)]




元気で活力あふれる若者のみなさん、この状況の発生に耐えうる「マキャベリ的気概(ヴィルトゥ Virtù)」があるなら、ゼロから始めるのもまったく悪くない。健康と体力、そしてファルトゥナ fortuna さえあれば、ぼろ儲けできるやもしれぬ。それは、戦後の闇市時代と同様である。

一つの悪徳を行使しなくては、自国の存亡にかかわるという容易ならぬばあいには、悪徳の評判などかまわずに受けるがよい。(マキャベリ『君主論』)

蚊居肢子予測では、何もせずに放りっぱなしにしておけば、太平洋戦争後のハイパーインフレに近似した状況が訪れる可能性が一番高い。この現在、「大戦末期と平成末期の債務残高の「同じGDP比率」」であることを強調しておこう。

なにはともあれ、90%以上(ここでは遠慮して99%とは言わないでおく)、財政破綻は起るのだから、現在考えるべきことは起こった後、ロシアのようにならないための施策を考えることである。これがインテリ諸君の現在、考えるべき最も重要なことである。さらに肝腎なのは、戦後ハイパーインフレ後のように、岸信介のたぐいの臭いのする人物が生き残らないように最善の策を現在から思考しておくことである。


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さて、「革命」がオキライの方々のために別の選択肢も示しておこう。

以前にも示したが、大前研一の「徳政令」である。ほとんどの経済学者はウダウダ不安を煽るだけで、彼らからはこういった思い切った提案はなかなか出てこない。大前を信頼する以外、ほかに人材はいない、ーーとまでは言わないでおくが。

最悪の事態を避けるためには、政府が“平成の徳政令”を出して国の借金を一気に減らすしかないと思う。具体的な方法は、価値が半分の新貨幣の発行である。今の1万円が5000円になるわけだ。

 そうすれば、1700兆円の個人金融資産が半分の850兆円になるので、パクった850兆円を国の借金1053兆円から差し引くと、残りは200兆円に圧縮される。200兆円はGDPの40%だから、デフォルトの恐れはなくなる。そこから“生まれ変わって”仕切り直すしか、この国の財政を健全化する手立てはないと思うのである。

 その場合、徳政令はある日突然、出さねばならない。そして徳政令を出した瞬間に、1週間程度の預金封鎖を発動しなければならない。そうしないと、日本中の金融機関で取り付け騒ぎが起きてしまうからだ。(大前研一「財政破綻を避けるには「平成の徳政令」を出すしかない」2016.11)


この施策の考え方の基本は次の通り。

インフレ課税というのは、インフレを進める(あるいは放置する)ことによって実質的な債務残高を減らし、あたかも税金を課したかのように債務を処理する施策のことを指す。具体的には以下のようなメカニズムである。

 例えばここに1000万円の借金があると仮定する。年収が500万円程度の人にとって1000万円の債務は重い。しかし数年後に物価が4倍になると、給料もそれに伴って2000万円に上昇する(支出も同じように増えるので生活水準は変わらない)。しかし借金の額は、最初に決まった1000万円のままで固定されている。年収が2000万円の人にとって1000万円の借金はそれほど大きな負担ではなく、物価が上がってしまえば、実質的に借金の負担が減ってしまうのだ。

 この場合、誰が損をしているのかというと、お金を貸した人である。物価が4倍に上がってしまうと、実質的に貸し付けたお金の価値は4分の1になってしまう。これを政府の借金に応用したのがインフレ課税である。

 現在、日本政府は1000兆円ほどの借金を抱えているが、もし物価が2倍になれば、実質的な借金は半額の500兆円になる。この場合には、預金をしている国民が大損しているわけだが、これは国民の預金から課税して借金の穴埋めをしたことと同じになる。実際に税金を取ることなく、課税したことと同じ効果が得られるので、インフレ課税と呼ばれている。(加谷珪一「戦後、焼野原の日本はこうして財政を立て直した 途方もない金額の負債を清算した2つの方法」2016.8.15

現金預金の多額な者たちが大損をする。大した金融資産を持たない大多数の庶民には影響はわずかであるーー、と単純に言いうるか否かは即断しがたい(むしろホドホドに貯金している中下流階級に最も打撃があるのでは?)。金融資産ゼロの者たちにわずかしか影響はないのは確かだ。


この「令和の徳政令」がオキライな方々は、やはり消費税増に頼らなければならない。







ここでは、2012年に提案された深尾光洋の消費税増シミュレーションシナリオの一つを示しておく。これは、わたくし4年ほどまえ10いくつかの経済学者・研究所の考え方を勉強したなかでは、武藤敏郎率いる「大和総研2013シミュレーション」PDFと同じくらい「すぐれた」と感じた提案である。

消費税を 2014 年から 2023 年までの 10 年間、毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、23 年の 1 月以降 25%にするケース(深尾光洋「日本の財政赤字の維持可能性」2012 年、PDF

7年前の提案なので、このシナリオが現在十分に機能するのはもはや遅すぎるかもしれない。だがなにはともあれ、次のように書き直して、ここに示しておこう。


ーー消費税を 2021年から 、毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、2027年の 1 月に24%にするケース。

ようは段階的に欧州諸国並にする方法である。消費冷え込みがあるにきまっている、経済成長はどうなるんだ、という反論にたいして蚊居肢子は聴く耳をもたないのでアシカラズ。

散発的に消費増税がなされるから、消費の増減があるのであり、長期的ヴィジョンによる毎年ごとの消費税増導入なら、冷え込みはわずかである筈(不動産等の投資等への加減措置は、深尾氏が綿密に示しているので参照されたし)。





世界一の少子高齢化国、かつまた世界一のGDP債務比率が高い国ではこれでも十分ではなく、社会保障費の三割程度の削減が必要ではある(武藤敏郎監修「大和総研2013シミュレーション」PDFによる)。

たとえば2013年の次の予測は、現在すでに起こりつつあることである。とくに④など、わずか消費税10%のために現政権は四苦八苦している。

⋯⋯ここで消費税率25%とは、かなり控えめにみた税率である。①医療や介護の物価は一般物価よりも上昇率が高いこと、②医療の高度化によって医療需要は実質的に拡大するトレンドを持つこと、③介護サービスの供給不足を解消するために介護報酬の引上げが求められる可能性が高いこと、高い消費税率になれば軽減税率が導入される可能性があること、⑤社会保険料の増嵩を少しでも避けるために財源を保険料から税にシフトさせる公算が大きいこと――などの諸点を考慮すると、消費税率は早い段階でゆうに30%を超えることになるだろう。(「大和総研2013シミュレーション」PDF


蚊居肢子の偏った頭では、改憲のための国民投票などというくだらないことはやめて、もし敢えて国民投票をやりたいならーーわたくしはどちらかというと国民投票システム反対派であるーー、消費税増の是非(あるいは国民負担率増の是非)について国民投票の決断がなされるべきである、と考えている。再掲すれば、その代表案として「消費税を 2021年から 、毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、2027年の 1 月に24%にする」事の是非を問う国民投票である。

「まさか、消費税増の選択なんかありえないにきまってるでしょ!」とおっしゃられる方々は、デフォルト選択をしたということである。この選択はマキャベリ派にとってはまったく悪くないことは上に示した通り。

これからの日本の最大の論点は、少子高齢化で借金を返す人が激減する中、膨張する約1000兆円超の巨大な国家債務にどう対処していくのか、という点に尽きます。

私は、このままいけば、日本のギリシャ化は不可避であろうと思います。歳出削減もできない、増税も嫌だということであれば、もうデフォルト以外に道は残されていません。

日本国債がデフォルトとなれば必ずハイパーインフレが起こります。(大前研一「日本が突入するハイパーインフレの世界。企業とあなたは何に投資するべきか」2017)

なによりも大切なのは、「財政赤字は問題ない説」を放言している無責任な経済評論家連中に騙されないで、自らの力で現在の情況を読み解いてみることである。




なぜこんな巨額の債務増大が続きうるのか? 続きうる筈はないのである。聞きたいことだけ聞いていてはダメなのである。

聞きたいことは信じやすいのです。はっきり言われていなくても、自分が聞きたいと思っていたことを誰かが言えばそれを聞こうとするし、しかも、それを信じやすいのです。聞きたくないと思っている話はなるべく避けて聞こうとしません。あるいは、耳に入ってきてもそれを信じないという形で反応します。(加藤周一「第2の戦前・今日」2004年)

ーー聞きたくない話は、信じない。もちろんけっして調べない。この種族のことを加藤周一は「八百屋のおっさん」と呼んでいる(参照)。わたくしのように日本の新聞雑誌のたぐいはまったく読まない者でも、すこし疑問をもてばウエブ上に情報はいくらでもある時代である。それにもかかわらず、とくに国家債務については、あるいは消費税問題については、どこもかしこも八百屋のコゾウ、八百屋のオネエサンばかりである。


財政赤字「問題ない説」は次の三つに収斂する。

【1】「国は多くの資産を所有しており,純債務は少ないから問題ない」説

【2】 「国の債務(国債)はほとんどが国内で所有されており,1800 兆円を超える国民の金融資産があるから問題ない」説

【3】 「国債は日銀が多く所有しており,日銀は政府の子会社ともいえるものであるから,統合すると国債は相殺されるので問題ない」説

これらがいかに馬鹿げた説であるかは、経済に疎くても標準的な頭脳をもっていれば、三日ぐらいのオベンキョウでおわかりになる筈である。


荷風には、辺見庸が名付けた「1937年問題」がある。

軍国政治に対しても更に不安を抱かず、戦争についても更に恐怖せず、寧これを喜べるが如き状況なり(荷風「断腸亭日乗」1937年8月24日)

現在の日本言論界とは、財政赤字に対しても更に不安を抱かず、ハイパーインフレについても更に恐怖せず、阿呆鳥のみ棲息する状況である。