「わたしは、男性に向けて性的なアピールをしたことは、一度もありません。」
|
ーー最も初歩的なところからまったく話がかみあわないんだよ、なんども繰り返しているけれど、自我ではなく無意識の主体の話をしているのだから。そしてイマジネールな愛は「自らの欲望の原因」を隠蔽するということを話しているのだから。
|
自我は自分の家の主人ではない das Ich kein Herr sei in seinem eigenen Haus(フロイト『精神分析入門』1916)
|
主体の最も深刻な疎外は、主体が自らについて話し始めたときに起こる。là l'aliénation la plus profonde du sujet […]c'est elle que nous rencontrons d'abord quand le sujet commence à nous parler de lui . (ラカン, E281, 1953年)
|
じっさい、私がもっとも自分の弱みをさらけ出す羽目になるのは、自分の《私的なこと》を口外するときである。弱みと言っても、「スキャンダル」の危険によって、というわけではなく、むしろ、私的なことをしゃべりながら私は自分というイマージュをそのもっとも堅い固形で提示してしまうからなのだ。そしてイマージュとはすなわち他人の捕獲権の支配下にある姿のことである。(『彼自身によるロラン・バルト』1975年)
|
愛自体は見せかけに宛てられる L'amour lui-même s'adresse du semblant。…イマジネールな見せかけとは、欲望の原因としての対象a[ (a) cause du désir」を包み隠す envelopper 自己イマージュの覆い habillement de l'image de soiの基礎の上にある。(ラカン、S20, 20 Mars 1973)
|
聖人 saint とは、理解して頂くために言うと、慈悲 charité を施しません。むしろ彼は廃棄物 déchet となろうとする、つまり脱慈悲 décharite するのです。これは構造が課することを実現するため、つまり主体、無意識の主体 sujet de l’inconscient が、聖人を自らの欲望の原因 cause de son désir としてみなすことができるようにするためになされるのです。(ラカン、テレビジョン、1973年)
|
ほんのすこしまえにニーチェとラカンの「女性の仮装」にからめて2人の女性の文を引用したけど、ようするにこれは何も精神分析の話にはまったく限らない。でもこのキに及んでさらに、きみはあらゆる女がやっていることまで否定しだすのだから。ーー「愛されるために容姿を美しく飾り立て、欲望を刺激して男の気持ちを操ろうとすることは、無意識裡にであれ、あらゆる女がやっていることだ。」ま、このことを冷静になって考えてみることだよ、なによりもまず。
|
性的な身体を女性は見られることによって獲得していきます。女性にとって自己身体意識、あるいは自己身体イメージの獲得は、思春期以降、男性からかくあるべき身体として自分に付与される視線によって、その視線を内面化することによって獲得されます。(上野千鶴子 『性愛論』1991)
|
「おしろいをぬるやうになってから 女は からだを売って生きるやうになった」
金子光晴の、「どぶ」という詩の冒頭である。
体を商品にして生きているのは、何も娼婦に限ったことではない。女は、女の肉体をもって生まれたことそれ自体が、すでにひとつの業なのである。それを宝として守り、ときに力づくで奪われ、しばしば自ら武器として利用し、はたまた重い足かせとして引きずりながら、生涯肉体とともに生きていかなければならない。
|
周りの大人の男の自分に対する視線が、子供を見る目から女を見る目に変わったときのことを、私は今でも覚えている。どこか色めき、にやつき、それでいてこわばるような、本能と自意識の混在したような目つき。その視線に応じて女は、自分にとってより有利な反応を引き出せる振る舞いや媚態を、無意識に体得してゆくのである。
男性という客体を前に、自らの肉体に価値があることを自覚せざるをえない環境にあって、それをまったく利用せずに生きていく女は、ごくまれであろう。愛されるために容姿を美しく飾り立て、欲望を刺激して男の気持ちを操ろうとすることは、無意識裡にであれ、あらゆる女がやっていることだ。
|
そのような意味で、娼婦性というのは、ひとつのアーキタイプとしてすべての女のなかに潜んでいる。しかしながらその一面を否定し、愛だのプライドだのカケヒキだのをごちゃごちゃに混ぜ合わせてしまうことで、女として生きる苦悩は往々にしていっそう複雑なものとなってしまう。(菅知子「娼婦性について」)
|
明日からテトでちょっと忙しいからな、しばらく消えるよ