あ あなたでしたか 昨夜ぼくを撫でていたひと
すみません 忘れてしまって
--大岡信「うたのように 2」
大体私は女ぎらいというよりも、古い頭で、「女子供はとるに足らぬ」と思っているにすぎない。 女性は劣等であり、私は馬鹿でない女(もちろん利口馬鹿を含む)にはめったに会ったことがない。 事実また私は女性を怖れているが、男でも私がもっとも怖れるのは馬鹿な男である。まことに馬鹿ほど怖いものはない。
また註釈を加えるが、馬鹿な博士もあり、教育を全くうけていない聡明な人も沢山いるから、何も私は学歴を問題にしているのではない。 こう云うと、いかにも私が、本当に聡明な女性に会ったことがない不幸な男である、 という風に曲解して、私に同情を寄せてくる女性がきっと現れる。こればかりは断言してもいい。 しかしそういう女性が、つまり一般論に対する個別的例外の幻想にいつも生きている女が、実は馬鹿な女の代表なのである。 (三島由紀夫「女ぎらひの弁」)
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女はその本質からして蛇であり、イヴである Das Weib ist seinem Wesen nach Schlange, Heva」――したがって「世界におけるあらゆる禍いは女から生ずる vom Weib kommt jedes Unheil in der Welt」(ニーチェ『アンチクリスト』1888年)
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大いなる普遍的なものは、男性による女性嫌悪ではなく、女性恐怖である。(カミール・パーリア Camille Paglia "No Law in the Arena: A Pagan Theory of Sexuality", 1994)
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八千矛神よ、
この私はなよなよした草のようにか弱いヲトコですから、
私の心は浦や洲にいる鳥と同じです。
いまは自分の思うままにふるまっている鳥ですが、
のちにはあなたの思うままになる鳥なのですから、
どうか鳥のいのちは取らないでください……
たいていの場合、去勢の脅しは女性から来る。Meist sind es Frauen, von denen die Kastrationsdrohung ausgeht(フロイト『エディプス・コンプレックスの崩壊』1924年)
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母の去勢 La castration maternelleとは、幼児にとって貪り喰われること dévoration とパックリやられること morsure の可能性を意味する。この母の去勢 la castration maternell が先立っているのである。父の去勢 la castration paternelle はその代替に過ぎない。…父には対抗することが可能である。…だが母に対しては不可能だ。あの母に呑み込まれ engloutissement、貪り喰われことdévorationに対しては。(ラカン、S4、05 Juin 1957)
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構造的な理由により、女の原型は、危険な・貪り喰う大他者と同一である。それは起源としての原母であり、元来彼女のものであったものを奪い返す存在である。(ポール・バーハウ,, NEUROSIS AND PERVERSION: IL N'Y A PAS DE RAPPORT SEXUEL,1995)
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◼️「古代母権制社会研究の今日的視点 一 神話と語源からの思索・素描」( 松田義幸・江藤裕之、2007年)より |
女陰の門のΩ
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そもそもの原初のlogos はどの地域からどのようにして出てきたものなのか。それはインドの原始ヒンズー教(タントラ教)の女神 Kali Ma の「創造の言葉」のOm(オーム)から始まったのである。Kali Maが「創造の言葉」のOmを唱えることによって万物を創造したのである。しかし、Kali Maは自ら創造した万物を貪り食う、恐ろしい破壊の女神でもあった。それが「大いなる破壊の Om」のOmegaである。
Kali Maが創ったサンスクリットのアルファベットは、創造の文字Alpha (A)で始まり、破壊の文字Omega(Ω)で終わる. Omegaは原始ヒンズー教(タントラ教)の馬蹄形の女陰の門のΩである。もちろん、Kali Maは破壊の死のOmegaで終りにしたのではない。「生→死→再生」という永遠に生き続ける循環を宇宙原理、自然原理、女性原理と定めたのである。
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月女神カリマ「創造→維持→破壊」
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後のキリスト教の父権制社会になってからは、logosは原初の意味を失い、「創造の言葉」は「神の言葉(化肉)」として、キリスト教に取り込まれ、破壊のOmegaは取り除かれてしまった。その結果、現象としては確かめようのない死後を裁くキリスト教が、月女神の宗教に取って代わったのである。父権制社会のもとでのKali Maが、魔女ということになり、自分の夫、自分の子どもたちを貪り食う、恐ろしい破壊の相のOmegaとの関わりだけが強調されるようになった。しかし、原初のKali Maは、OmのAlpha からOmegaまでを司り、さらに再生の周期を司る偉大な月女神であった。
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月女神Kali Maの本質は「創造→維持→破壊」の周期を司る三相一体(trinity)にある。月は夜空にあって、「新月→満月→旧月」の周期を繰り返している。これが宇宙原理である。自然原理、女性原理も「創造→維持→破壊」の三相一体に従っている。母性とは「処女→母親→老婆」の周期を繰り返すエネルギー(シャクティ)である。この三相一体の母権制社会の宗教思想は、紀元前8000年から7000年に、広い地域で受容されていたのであり、それがこの世の運命であると認識していたのだ。
三相一体の「破壊」とは、Kali Maが「時」を支配する神で、一方で「時」は生命を与えながら、他方で「時」は生命を貪り食べ、死に至らしめる。ケルトではMorrigan,ギリシアではMoerae、北欧ではNorns、ローマではFate、Uni、Juno、エジプトではMutで、三相一体に対応する女神名を有していた。そして、この三相体の真中の「維持」を司る女神が、月母神、大地母神、そして母親である。どの地域でも母親を真中に位置づけ、「処女→母親→老婆」に対応する三相一体の女神を立てていた。
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ma:「母親」と「女神」
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インド・ヨーロッパ言語文化圈に見る、ma、mah、man、mana、manas、manos、men、mene、met、meter、materといったma、meを含んだ単語は、月女神の「創造の言葉」のlogos、Omから派生したものである。
そもそも、今日、manは「男」を意味しているが、これは「女」を意味していたのだ。manは万物創造の月女神であり、祖霊のmanesの母であった。サンスクリットのmanも、「真言」のMantraに見るように、月女神と叡智を意味していた。ma、meを語源にして派生した現在の英単語を見ると、「母親」と「物質(創造物)」と「叡智」「測定」に関するものが多い。
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maという基本音節は、インド·ヨーロッパ言語文化圏でも、「母親」と「女神」を意味している。mother, materal (母の)、matron (既婚婦人)、matrix (母体), menses (月経)、menage/manage(家庭、家事、家政、世帯、管理)。
次に、「創造物の根源」に関してみると、matter (物質)、material(材料)、mud (泥)等がある。「女神」「女神の叡智」に関しては、moon、Mut (母神)、Maat (娘神)、Demeter、Muses、Mnemosyne (記憶の女神)、Menrva (Minerva)、omen (前兆、月、啓示)、amen (アーメン、再生の月)、mind, mentality等ある。
「学問」「測定」に関しては、mathematics (数学)、matrix (行列)、metrics (計量学)、mensuration (測定法)、meter (配分)、geometry (幾何学)、mete (配分)、 trigonometry (三角法)、hydrometry(液量測定)、meter (計器)等がある。
これら語源から派生した単語を見ると、自然と共に生きていた時代の女性たちは、宇宙原理、自然原理、女性原理に従った「創造→維持→破壊」の三相一体の周期、循環に生まれながらにして熟知していたことがよく分かる。
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女性は経血(menstrul blood)の周期と月の朔望の周期、潮の干満の周期が密接に関係していることから、天文に関する研究を文化、文明の基礎学問とみなしていた。天文に関する「母親の知恵」が学問のmathesisであり、「天文の学問のある母親たち」をMathematici と呼んでいた。今日の「数学」を意味するmathematicsの語源である。特に、月女神に仕える巫女はその能力に長じたsybilsで、女神Cybeleと同語源である。(「古代母権制社会研究の今日的視点 一 神話と語源からの思索・素描」、 松田義幸・江藤裕之、2007年)
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