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2020年4月23日木曜日

引き返せない急な下り坂

以下のデータをマクロ的に見る限りでだが、日本の低成長期1990〜2016年のあいだ、生産年齢人口一人当たりの成長率は米国やフランス、イタリアを上回っている(真ん中の棒グラフ)。ドイツやイギリスに比べても遜色ない。


◼️「平成財政の総括」(財務省、平成31年4月17日、pdfより




ではなぜ実質GDP成長率はひどく低いのかと言えば、生産年齢の激減があったせいである。






こうしてみると今後もーー大幅な移民にて生産年齢人口が増えなければーー、日本の実質GDP成長はとても困難だと言える。

◼️人口減少の下での経済成長 ~平成時代の構造変化から見えてくるもの~財務総合政策研究所 小野稔, 2019年11月15日, PDF



ただし吉川洋氏がかねてから言っているように水際立った労働生産性上昇とイノベーションがあればその限りではない。実際に過去の高度成長期(1955~ 70)に、生産年齢人口増はあったにしろ(当時の労働人口の増加率は 1% 強)、それとは比較にならないほどの格段の成長(平均10パーセント)をしている。もっとも現在の日本では「生産性」という言葉を政治家が安易に口にすると途轍もなく炎上してしまうようだが。



ここで改めて経済成長と人口の関係を長期的な視点から考えてみることにしたい。急速な人口減少に直面するわが国では、「人口ペシミズム」が優勢である。「右肩下がりの経済」は、経営者や政治家が好んで口にする表現だ。たしかに、少子高齢化が日本の財政・社会保障に大きな負荷をもたらしていることは事実である。少子化、人口減少は、わが国にとって最大の問題であるといってもよいだろう。

しかし、先進国の経済成長と人口は決して 1 対 1 に機械的に対応するものではない。図-4 は、明治初年以降の実質 GDP と人口の種類を比較したものだが、GDP は人口とほとんど関係ないといってよい成長をしてきたことが分かる。戦後の高度成長期(1955~ 70)に、日本が実質ベースで年平均 10% の経済成長をしてきたことは誰もが知ることだが、当時の労働人口の増加率は 1% 強であったということを知る人は少ない。両者のギャップ 10% - 1% = 9% は、「労働生産性」の上昇率だが、それをもたらしたものが「資本装備率」の上昇と、イノベーション(TFP の上昇)にほかならない。(人口減少、イノベーションと経済成長、吉川洋(東京大学大学院経済学研究科教授、経済産業研究所ファカルティフェロー、2015)




とはいえ多くの経済学者はやはり「移民」という語を口に出す。上でケインズが言っているように人口減少とは経済成長にとって致命的なのである。


アメリカの潜在成長率は 2.5%弱であると言われているが、アメリカは移民が入っていることと出生率が高いことがあり、生産年齢人口は年率1%伸びている。日本では、今後、年率1%弱で生産年齢人口が減っていくので、女性や高齢者の雇用を促進するとしても、潜在成長率は実質1 %程度に引き上げるのがやっとであろう。

丸めた数字で説明すれば,、アメリカの人口成長率が+1%、日本は-1%、生産性の伸びを日米で同じ 1.5%と置いても日本の潜在成長率は 0.5%であり、これをさらに引き上げることは難しい。なお過去 20年間の1人当たり実質GDP 成長率は、アメリカで 1.55%、日本は 0.78%でアメリカより低いが、これは日本においては失われた 10 年といった不況期があったからである。

潜在成長率の引上げには人口減少に対する強力な政策が必要だが、出生率を今すぐ引き上げることが出来たとしても、成人して労働力になるのは20年先であり、即効性はない。今すべき政策のポイントは、人口政策として移民政策を位置づけることである。現在は一時的に労働力を導入しようという攻策に止まっているが、むしろ移民として日本に定住してもらえる人材を積極的に受け入れる必要がある。(『財政赤字・社会保障制度の維持可能性と金融政策の財政コスト』深尾光洋、2015年)



ここでの深尾光洋氏の記述は、「失われた 10 年といった不況期」とあり確かにそのせいもあるだろうが、冒頭に示した生産年齢人口一人当たりの成長率については視野に入れていないように見える。わたくしもごく最近気づいたのだが、たぶんこの話はごく最近一部で指摘されるようになったばかりなのかも知れない。

移民といっても必要なのは生やさしい数ではなく、生産年齢人口ピーク期1995年に比べて、2040年には2500万人以上減ってしまう。




これらから判断すれば、ふつうは経済成長は諦めましょうということになる。ほとんど引き返せない急な下り坂である。当然のこと、借金は増え続ける。

今回のコロナ禍で、長期を見る習慣のある一部の経済学者がヤケクソ気味になっても何の奇妙さもない。





10万円一律給付の補正予算で、ワニの口は崩壊した
4月20日に、1人当たり一律10万円の給付を盛り込んだ2020年度補正予算案が閣議決定された。
4月7日に一度閣議決定していた予算案を、組み替えて閣議決定をし直すというのは極めて異例なことである。
結局、4月7日の補正予算案で盛り込んでいた4兆0206億円もの生活支援臨時給付金(仮称)をやめて、特別定額給付金を12兆8803億円盛り込んだ。その結果、差し引きで8兆8597億円給付が増えた。それも合わせて補正予算の財源は、25.7兆円の国債増発で賄われた。
その結果、国の一般会計はどうなったか。当初予算とこの補正予算を合わせると、一般会計歳出総額は128.3兆円となった。
時系列で国の一般会計歳出と税収の金額を折れ線グラフを、いわゆる「ワニ口グラフ」と呼ぶ。記事冒頭のグラフがそうである。ワニの上あご(赤線)が歳出総額で、下あご(青線)が税収である(2018年度まで決算ベース、2019年度以降は補正後予算ベース)。この両者で描かれる形がワニの口に見えることからその名が付いた。
国の一般会計では、歳出の増加に、税収が追い付かず、上あごが上がる割には下あごが上がらず、国の財政は、文字通り「開いた口がふさがらない」状態にある、とたとえられてきた。

2020年度補正後予算ベースでみると、一般会計歳出総額は128.3兆円と断トツで過去最高額となり、上あご(歳出総額)が上に突き抜けて、もはやワニの口は崩壊したかのようである。
この補正予算では、税収の減額補正はしていない。だから、図にあるわにの下あご(税収)は当初予算で見積もった63.5兆円のままである。今後、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、税収が減れば、この下あごはこの図よりももっと下がってしまうだろう。
図の棒グラフは国債発行額で、2020年度補正後予算ベースで58.2兆円、歳出総額との比である公債依存度は45.4%となった。
2020年度補正予算で、「ワニの口」はもはやその体を成していない様になってしまった。