2020年4月23日木曜日

中福祉低負担国日本

経済学者のなかでは、日本は事実上、中福祉低負担国だという指摘はかつてからあったが、財務省においても、昨年11月の会議議事録のなかで、日本は《「中福祉、低負担」と言わざるを得ない特異な状況》という記述がある。

これは、わたくしが知るかぎり公的な会議でのはじめての指摘である。しかも《これを放置すれば、現在の日本が「中福祉、低負担」を享受する見返りに、将来世代がツケを払う形で「中福祉、高負担」、更には「低福祉、高負担」への転換を余儀なくされることとなりかねない》ともある。

たぶん多くの方には実感が伴わない話だろうがーー「何を言っているの、今でも負担は多いのに!」ーー、諸外国と比較すれば数字としては確かにそうなのである。実感との解離は、主に負担が少なく年金や医療費等の大きな福祉を受ける高齢者が多すぎ、負担すべき労働人口が少ないという前回記した内容にかかわる。

以下、その箇所を抜き出す。



令和2年度予算の編成等に関する建議
令和元年 11 月 25 日 財政制度等審議会、pdf
社会保障関係費は、これまで一貫して増加を続け、令和元年度(2019年度)予算においては、一般歳出の6割を占めるに至っている。平成の30 年間、他の政策経費と比較しても、社会保障関係費の増加幅(3倍)は際立っており、これと軌を一にして公債発行が大幅に増加してきた。〔資料Ⅱ-1-1参照〕





この要因として、第一に、医療、年金、介護といった社会保障給付自体が、高齢化といった人口要因で説明できる範囲を大きく超えるペースで増加してきたことが挙げられる。

加えて、我が国の社会保障制度は、社会保険方式を採りながら、高齢者医療・介護給付費の5割を公費で賄うなど、公費負担に相当程度依存しているが、特に近年、公費負担の比重の大きい高齢者医療・介護給付費の増に伴い、社会保障給付費に占める公費の割合は上昇している。〔資料Ⅱ-1-2参照〕





公費の増加に有効な対応策が講じられず、それに見合う負担も求められてこなかった結果、社会保障制度における給付と負担のバランスは、既に大きく崩れている。特に 1990 年代以降、社会保障の給付の増加のペースが負担(社会保険料+税)の増加のペースを上回り、経済協力開発機構(OECD)諸国と比較しても、「中福祉、低負担」と言わざるを得ない特異な状況となっている。〔資料Ⅱ-1-3参照〕 




更に、将来を見据えると、このまま社会保障制度の改革を行わない場合、給付と負担のアンバランスは、更に拡大すると見込まれる。これを放置すれば、現在の日本が「中福祉、低負担」を享受する見返りに、将来世代がツケを払う形で「中福祉、高負担」、更には「低福祉、高負担」への転換を余儀なくされることとなりかねない。我が国の財政と社会保障は、これまで未解決の宿題を背負ったまま、以下のように更なる課題に直面しているといえる。

第一に、今後の人口構造の変化に目を向ければ、2022年には団塊の世代が後期高齢者になり始めるため、医療・介護を中心に、これまでのペースを上回る形での公費の増加がほぼ確実に見込まれ、その後も、後期高齢者数は高止まりを続ける。また、年金給付の面で影響が大きい65歳以上の人口については、中期的に増加を続け、2040年頃にかけてピークを迎える。〔資料Ⅱ-1-4参照〕 




第二に、前述のように、そもそも医療・介護給付費は高齢化による伸びを大きく超える形で増加してきた。この点はこれまで長年にわたり政策課題とされてきたが、これを抑制する実効的な方策は未だ講じられておらず、こうした増加の定量的要因すら明らかになっていない。今後もこうしたトレンドが変わるとは考えにくく、昨今における高額な新薬の相次ぐ登場や、介護利用の広がりを考慮しても、現行制度のままでは、人口動態を大きく超える形での給付増が生じると考えることが自然である。

第三に、こうした給付の負担を賄う主な「支え手」を仮に 20 歳から75 歳未満と想定したとしても、その人口は、既に足元で大規模な減少が始まっており、特に 2040 年以降は、毎年1つの大都市の人口に匹敵する約 100 万人のペースで急速に減少していく。我が国の労働参加率は女性や高齢者を含めて相当高まってきているが、仮に更なる大幅な労働参加率の上昇を想定したとしても、労働力人口の大幅な減少は避けられない。中期的に経済成長の足かせとなる可能性があり、「支え手」一人ひとりの負担はその分だけ重くなりかねない。〔資料Ⅱ-1-5参照〕 






結局、危機の際、速やかな財政出動ができないのは、中福祉低負担を続けたせいで、世界で最も悲惨な財政赤字国のひとつになってしまい、財政的身動きがほとんど取れないために他ならない(参照)。






最近、岡本財務次官がスェーデンの事例を出してこのままだと自分たちを支えているこの国のシステムが壊れるではないか、と国民が政治を後押しした」という話をしている。

日本の財政がわかってない人に教えたい真の姿
作家真山仁と岡本薫明財政省事務次官の対談 2020/03/31
岡本:空気のように感じられている行政サービスも、コストをかけて国や自治体が提供しているわけです。それを若い方含め皆さんに理解してもらう必要があります。高福祉で有名なスウェーデンは消費税率が非常に高い(25%)わけですが、かつて経済危機に瀕したとき、公的年金をカットして消費税率を上げるという政策を実行したことがあります。当時、私は課長だったのですが、スウェーデンの担当者の方々と議論する機会があって、「何でそんなことができたんですか?」と質問したら、向こうの方は「なぜ、そんなことを聞くんですか?」という反応でした。

「このままだと自分たちを支えているこの国のシステムが壊れるではないか、と国民が政治を後押しした」と言うのです。ものすごくびっくりしました。「ゆりかごから墓場まで」というように、一生のすべてに公的な負担がかかわっていることを、国民がよく理解しているからでしょう。日本はそこまでの高福祉ではないにしても中福祉以上にはなっています。国のシステムがなくなったら、今の生活の基盤は大きく損なわれることはわかっていただく必要があります。

※スゥエーデンの財務施策分析は➡︎「財務省によるスゥエーデン事例

こういう要請が国民からあるなどとは日本では到底考えられないが、スウェーデンは小国で教育--日本では「洗脳」と呼ばれるーーが行き届いているせいということもあるだろうし、国民が政府を信頼しているということもあろう。

他方、人口の多い財政優良国ドイツでは、おそらく「民意に反して」財政健全策が取られてきた(「平成財政の総括」(財務省、平成31年4月17日、pdf)。










何はともあれ、世界一の少子高齢化国で次のような国民負担率のままであるのは、財政的には致命的である。