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2020年5月12日火曜日

若者のための「来るべき」ハイパーインフレ

経済学者岩本康志氏の論は今まで読んだことがなかったのだが、一部で話題になっているので2つほどの小論を読んでみた。

我が国の財政政策 東京大学 教授 岩本 康志 2017 年 11 月 25 日



分母を増やす、分子を減らすというのは、つまりは次のような状況にあるから、ということだ。




現在すぐに70歳以上の年金支給にしてもとても追っつかない。 現役世代は2.8人にしかならない。75歳以上の年金支給にしてさえ2040年時点で、現役世代は3.1人しかいない。





つまりは1000万人単位の大幅な移民がなければ、現役世代の負担を増やし、社会保障給付費を減らさざるを得ない。

そうでないと国の借金は雪だるま式に増えてゆく。




つまりは、何度も掲げている武藤敏郎ーー10年に1度の財務事務次官と言われた人物--の言っていることと同様である。


最後に申し上げたいのは、日本の場合、低福祉・低負担や高福祉・高負担という選択肢はなく、中福祉・高負担しかありえないことです。それに異論があるなら、 公的保険を小さくして自己負担を増やしていくか、産 業化するといった全く違う発想が必要になるでしょう。 (基調講演―財政と社会保障 武藤敏郎 氏 株式会社大和総研 理事長ーー日本シンクタンク協議会 2016年度冬季セミナー抄録)
国民の中では、「中福祉・中負担」でまかなえないかという意見があるが、私どもの分析では、中福祉を維持するためには高負担になり、中負担で収めるには、低福祉になってしまう。40%に及ぶ高齢化率では、中福祉・中負担は幻想であると考えている。

仮に、40%の超高齢化社会で、借金をせずに現在の水準を保とうとすると、国民負担率は70%にならざるを得ない。これは、福祉国家といわれるスウェーデンを上回る数字であり、資本主義国家ではありえない数字である。そのため、社会保障のサービスを削減・合理化することが不可避である。(武藤敏郎「日本の社会保障制度を考える」2013年)







岩本康志氏の特徴は、上に掲げた図の2017年の論文においてもそうだが、かねてからハイパーインフレが起こる可能性を強調していることだ。ここではより整理されて記されている彼の2010年のブログから掲げる。


ハイパーインフレーションの理論  
東京大学大学院経済研究科岩本康志 2010年03月14日
 ハイパーインフレーションの原因は巨額の財政赤字にあると考えられている。数%のインフレ率の変動は,需給の関係で生じると考えていいが,年率3ケタや天文学的数字のインフレを同じ理由で説明するのは無理だ。ハイパーインフレが発生したときには,経済が混乱する種々の出来事が起こっているので,その原因は突き止めにくい。財政赤字原因説が支持を得たのは,Sargent (1982)の貢献によるところが大きい。彼は,欧州の有名なハイパーインフレが「終わった」原因が財政収支の改善にあったことを突き止めたのである。

 国債の信用力が失われて市場が国債を買わなくなり,中央銀行が引き受けるようになると,ハイパーインフレの道を歩み始める。ハイパーインフレという異常な状況がいとも簡単に生じることは,数式を使った方が理解が早まると思うので,以下のような簡単なモデルで説明する。モデルの後に,ハイパーインフレがどういう状況なのかを,文章でまとめる。

(モデル割愛)

モデルは以上であるが,その意味するところは以下の通り。

 政府が資金調達を貨幣発行に頼るようになり,その後も財政赤字を維持し続けると,ハイパーインフレが生じる可能性が高い。

 ハイパーインフレが生じてしまう理由は,通常とは違う政策ルールがとられているからである。通常の政策ルールでは,通貨発行益は中央銀行の金融政策の判断で変動する。財政赤字は,それとは別に財政当局の判断で決められる。国債が市場で消化されていれば,通貨発行益と財政赤字が別々に決められていても問題はない。上のモデルの状況はこれとは違う。中央銀行は国債を引き受けざるを得ないので,通貨発行益は財政赤字に等しくなければいけない。つまり,中央銀行には金融政策の裁量の余地がなく,物価は財政側の事情によって決定されている。
 この状態では,中央銀行にハイパーインフレを何とかしろと迫るのは,無理な相談である。もし貨幣の成長を抑えると,政府は財政赤字の資金調達ができなくなり,財政破綻するからだ。中央銀行は,「財政破綻」か「ハイパーインフレ」かの2つの選択肢が与えられたもとで,ハイパーインフレをやむなく選択している。マイルドインフレにする選択肢は存在しない。物価に責任をもつのは,中央銀行ではなく,政府である。

 ハイパーインフレを終息させるには,政府が借り入れをしなくてもいいように財政収支を大幅に改善し,デノミか新しい通貨の発行でもう一度,通貨の信頼を取り戻すことが必要になる。






そもそも現在日銀は事実上「財政ファイナンス」ーーつまりMMT理論とほとんど同様の施策ーーがなされていると多くの経済学者からの指摘があり、そのMMT理論的支柱ランダム・レイ自身、インフレ40%以下なら許容するというスタンスである。


経済学者にとって、年率40パーセント未満のインフレ率から経済への重大な悪影響を見出すことは困難である。economists are hard pressed to find significant negative economic effects from inflation at rates under 40 percent per year. (ランダル・レイRandall Wray「現代貨幣理論 Modern Money Theory」2012年)


40%なら、1000円のものが1年後に1400円、2年後に2000円になるに過ぎない。もっともいったんこうなったら、この程度のインフレでは終わらないというのが歴史の教えだが。


とはいえハイパーインフレに近似した状態になったほうがむしろいいんじゃないか、とはかねてから指摘がある。とくに銀行預金のない若い人たちは、むしろ好ましい結果が訪れる可能性が高い。給料だってインフレに伴って上がる。ここでは比較的最近の福井義高氏のコラムから。


ハイパーインフレは、国債という国の株式を無価値にすることで、これまでの財政赤字を一挙に清算する、究極の財政再建策でもある。

予期しないインフレは、実体経済へのマイナスの影響が小さい、効率的資本課税とされる。ハイパーインフレにもそれが当てはまるかどうかはともかく、大した金融資産を持たない大多数の庶民にとっては、大増税を通じた財政再建よりも望ましい可能性がある。(本当に国は「借金」があるのか、福井義高 2019.02.03)


どんな言い訳があろうと世界一の少子高齢化社会においてこんな国民負担率のまま放っておいたのは、われわれ還暦前後以上の世代の問題であるだろう。








➡「衆愚左翼という財政的幼児虐待者たち