至聖所のヴェール
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この全き空無 ganz Leeren は「至聖所 Heilige」 とさえ呼びうる。…我々は、その空無のヴェールをせねばならない es müßte sich gefallen lassen、意識自体によって生み出される、空想 Träumereien・見せかけ(仮象 Erscheinungen) によって。何としても必死になって取り扱わねばならない何かがあると考えるのだ。というのは、何ものも空無よりはましであり、空想 Träumereienでさえ空無 Leerheit よりはましだから。(ヘーゲル『精神現象学』1807年)
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無のヴェールという神
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ここに、主体、一つの点、ヴェールがある。他の側には無がある[Ici, le sujet, un point ; le voile ; et de l'autre côté, un autre point, le rien]。
もしヴェールがないなら、我々は無があるのを見る[S'il n'y a pas de voile, on constate qu'il n'y a rien]。
もし主体と無とのあいだにヴェールがあるなら、すべてが可能である[Si entre le sujet et le rien il y a un voile, tout est possible]。
人はヴェールにて戯れ[jouer avec le voile]、事物を想像する[imaginer des choses]ことができる。…ヴェールは無から何ものかを創造する[le voile crée quelque chose ex nihilo]。ヴェールは神である[Le voile est un Dieu]。(J.-A. Miller, 享楽の監獄 LES PRISONS DE LA JOUISSANCE 1994年)
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去勢を覆うフェティッシュとしての見せかけ
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セミネール4において、ラカンは「無 rien」に最も近似している対象a を以て、対象と無との組み合わせを書こうとした。ゆえに彼は後年、対象aの中心には去勢[- φ]がある [au centre de l'objet petit a se trouve le - φ]と言うのである。そして対象と無 [l'objet et le rien ]があるだけではない。ヴェール voile もある。したがって、対象aは現実界であると言いうるが、しかしまた見せかけでもある [l'objet petit a, bien que l'on puisse dire qu'il est réel, est un semblant]。この対象aは、フェティッシュとしての見せかけ [un semblant comme le fétiche]である。(J.-A. Miller, la Logique de la cure du Petit Hans selon Lacan, Conférence 1993)
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偉大なる動くフェティッシュ
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我々は、見せかけを無を覆う機能と呼ぶ。Nous appelons semblant ce qui a fonction de voiler le rien(J.-A. Miller, Des semblants dans la relation entre les sexes、1997)
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女は、見せかけに関して、とても偉大な自由をもっている!la femme a une très grande liberté à l'endroit du semblant ! (Lacan、S18, 20 Janvier 1971)
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女性は自らが持っていないものの代わりにファルスを装う。つまり対象a、あるいはとても小さなフェティッシュ (φ) を装う。[elle ne peut prendre le phallus que pour ce qu'il n'est pas, c'est-à-dire : soit petit(a) , l'objet, soit son trop petit (φ) ](ラカン 、S10, 5 Juin 1963)
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女性が自分を見せびらかし s'exhibe、自分を欲望の対象 objet du désir として示すという事実は、女性を潜在的かつ密かな仕方でファルス ϕαλλός [ phallos ] と同一のものにし、その主体としての存在を、欲望されるファルス ϕαλλός désiré、他者の欲望のシニフィアン signifiant du désir de l'autre として位置づける。こうした存在のあり方は女性を、女性の仮装 la mascarade féminineと呼ぶことのできるものの彼方に位置づけるが、それは、結局のところ、女性が示すその女性性 féminité のすべてが、ファルスのシニフィアンに対する深い同一化に結びついているからである。この同一化は、女性性 féminité ともっとも密接に結びついている。(ラカン、S5、23 Avril 1958)
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フェティッシュ定義基本版
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足は、不当にも欠けている女性のペニスを代替する。Der Fuß ersetzt den schwer vermißten Penis des Weibes. (フロイト『性理論三篇』1905年)
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フェティッシュは女性のファルス(母のファルス)の代理物である。der Fetisch ist der Ersatz für den Phallus des Weibes (der Mutter) (フロイト『フェティシズム』1927年)
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母のペニスの欠如は、ファルスの性質が現われる場所である。sur ce manque du pénis de la mère où se révèle la nature du phallus(ラカン「科学と真理」E877、1965)
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(象徴的ファルスとは異なる)他のファルスは、母の想像的ファルスである。un autre phallus c'est le phallus imaginaire de la mère. (ラカン, S4, 22 Mai 1957)
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Φは象徴的ファルスである。[Φ c'est le phallus symbolique]
ϕは想像的ファルスである。[ϕ c'est le phallus imaginaire.]
(Lacan, S8, 26 Avril 1961)
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フェティッシュfétiche は(欲望の対象ではなく)欲望の原因としての対象の次元 dimension de l'objet comme cause du désirにある。…
フェティッシュとは、ーー靴でも胸でも、あるいはフェティッシュとして化身したあらゆる何ものかはーー、欲望されるdésiré 対象ではない。…そうではなくフェティッシュは「欲望を引き起こす le fétiche cause le désir」対象である。…
フェティシストはみな知っている。フェティッシュは、「欲望が自らを支えるための条件 la condition dont se soutient le désir」だということを。(ラカン , S10, 16 janvier 1963)
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