伊藤比呂美の詩をネットで検索していたらーーボクは彼女の詩集を現代詩文庫ではたち前後に手に入れて愉快に読んだのだけれど今は手元にないーー、こんなのに行き当たっちゃって感心しちゃったよ。
わたしの子宮と臍帯でつながってるものはあくまでも異物であって胎児でなはないという認識を持ち続けている。[略] その異物がおナカのなかで動くようになった。[中略] その動きを感じる度にわたしはオナラをしたい。わたしはウンコをしたいのかもしれない。(伊藤比呂美「蠕動」)
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そうか、このところ母の身体が異物だって話を連発してるのだけれど、胎児が異物と感じるひともいるんだーーという具合で。
で、おもてに出たあとはどうなんだろう、母子関係は異物関係かもよ、これがフロイト曰くの愛の関係の原型かね、なんだか目からウロコが落ちた感じだな
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富岡多恵子が伊藤比呂美詩集の解説ーーどの詩集だかはわからないーーで、「彼女の詩の不気味は『健康』 からくる」と言ってるらしいけど(もっともカッコつきの健康で、十代のころは摂食障害だったらしい)、伊藤比呂美さんってのは偉大だな、現在はいくらかふつうのおばさんっぽいけど。ボクの三つ上で、今から思えば80年代の華のような女だったな。
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きっと便器なんだろう 伊藤比呂美
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ひさしぶりにひっつかまえた
じっとしていよ
じっと
あたしせいいっぱいのちからこめて
しめつけてやる
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抱きしめているとしめ返してきた
節のある
おとこのゆびでちぶさを掴まれると
きもちが滲んで
くびを緊めてやりたくなる
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あたしのやわらかなきんにくだ
やわらかなちからの籠め方だ
男の股に股が
あたる
固さに触れた
温度をもつぐりぐりを故意に
擦りつけてきた
その意思に気づく
わたしの股をぐりぐりに擦りつける
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したに触れてくびすじを湿らせてやるとしたは
わたしのみみの中を舐めるのだ
あ声が洩れてしまう
髪の毛の中にゆびを差し入れけのふさを引く
あ声が漏れる
ぐりぐりの男は
ちぶさを握りつぶして芯を確かめている
い、と出た声が
いたいともきこえ
いいともきこえる
わたしはいつもいたい、なのだ
あなたはいつもいたくする
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さっきはなんといった
あいしてなくたってできる、といったよね
このじょうのふかいこういを
できる、ってあなたは
何年も前に、I という男と
やったことがある
今、体重と体温がわたしのしりを動き
畳の跡をむねに
きざみながらわたしはずっと I を
わすれていた I を忽然と I を
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I の部屋 I によって
手早く蒲団が敷かれたこと
とうめいな
ふくろ、とか
こんなことやってきもちよくなるのかあたしはちっともよくならない
と言ったら I が
抜いてしまったこと
きもちよくならなくても暖かく
あてはまっていたのに
駅まで抱きあって歩いた風が強く
とても寒く
かぜがつよくとてもさむく
とてもさむく
そのあといちど会った腕に
触らせてもらって歩いた
性交しないで別れた
それから
会うたびに泣いた、あこれはあなたに対するときだ
わたしをいんきだと言った I の
目つきが残るその I のことをずっと
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あたしは便器か
いつから
知りたくは、なかったんだが
疑ってしまった口に出して
聞いてしまったあきらかにして
しまわなければならなくなった
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