いやあ庭や陶器や詩じゃなくてやっぱり女だよ 犀星やヴァレリーだけじゃないさ 西脇はこう言ってるけどさ |
美しいものは裸の女神よりも 裸の樹の曲がり方だ。 ーー西脇順三郎「一月」 |
でも永遠回帰するのはマンダラゲだよ |
時間はとまつてしまった 永遠だけが残ったこの時間のない ところに顔をうずめてねむつている 「汝を愛するからだ おお永遠よ」 もう春も秋もやつて来ない でも地球には秋が来るとまた 路ばたにマンダラゲが咲く ーー西脇順三郎「坂の五月」 |
ひとつだけ女の厄介なところがあるけどさ |
章は思い出して、 「三河の猿投神社にも大きなやつが、三、四本あったね。ありゃ見事だったね」 と云った。彼はあそこにももう一度行って見なければならんな、と心に思っていた。 「方々に女をつくって歩く人があるが、あんたのはそれが木だから可笑しいよ」 とTが云った。 「女だって木だって同じことだ。恰好がちがうだけだ」 「木は騙さないから都合がいいね」 「都合がいいよ」 と章は云った。 (藤枝静男「天女御座」) |
かりに騙さないまでも 「なかさおはいりなせ--」を焦らすからな、 そうだろ、きみなんかはとくに? 庭や木みたいには自由にならないよ |
竹藪に榧の実がしきりに落ちる アテネの女神に似た髪を結う ノビラのおつかさんの 「なかさおはいりなせ--」という 言葉も未だ今日はきかない。 ーー西脇順三郎「留守」 |