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2021年5月7日金曜日

ひとりの女は夜を眠らぬ魂のなかに忍んでくる

 


フロイトラカンの核心を統合するには、最晩年のラカンと最初期のフロイトの二文を混淆させるだけでヨロシイ。


ひとりの女は異者である。 une femme […] c'est une étrangeté.  (Lacan, S25, 11  Avril  1978)

トラウマないしはトラウマの記憶は、異物 (異者としての身体[Fremdkörper] )のように作用する。das psychische Trauma, respektive die Erinnerung an dasselbe, nach Art eines Fremdkörpers wirkt,(フロイト&ブロイアー 『ヒステリー研究』予備報告、1893年)


すなわちひとりの女はトラウマです。これが「女への怨み」の内実です。


何よりもまずそのあたりのチョロチョロした日本ラカン派注釈書はすべて焚書処分にすべきです。


これでは物足りない方のためにこう引用しませう。


ひとりの女とは何か? ひとりの女は症状である! « qu'est-ce qu'une femme ? » C'est un symptôme ! (Lacan, S22, 21 Janvier 1975)

エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。〔・・・〕われわれはこのエスの欲動蠢動を、異物(異者としての身体 Fremdkörper)ーーたえず刺激や反応現象を起こしている異物としての症状と呼んでいる。

Triebregung des Es […] ist Existenz außerhalb der Ichorganisation […] der Exterritorialität, […] betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen (フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要)


ひとりの女はエスの欲動蠢動です。ひとりの女は異者としての身体の症状です。これが、ニーチェが『ツァラトゥストラ』のグランフィナーレで言っていることです。


いま、エスは語る、いま、エスは聞こえる、いま、エスは夜を眠らぬ魂のなかに忍んでくる。ああ、ああ、なんと吐息をもらすことか、なんと夢を見ながら笑い声を立てることか。

ーーおまえには聞こえぬか、あれがひそやかに、すさまじく、心をこめておまえに語りかけるのが? あの古い、深い、深い真夜中が語りかけるのが?


- nun redet es, nun hört es sich, nun schleicht es sich in nächtliche überwache Seelen: ach! ach! wie sie seufzt! wie sie im Traume lacht!

- hörst du's nicht, wie sie heimlich, schrecklich, herzlich zu _dir_ redet, die alte tiefe tiefe Mitternacht? Oh Mensch, gieb Acht! (ニーチェ『ツァラトゥストラ』第4部「酔歌」1885年)



ひとりの女の症状とはリアルな症状であり、固着です。ラカン語彙とフロイト語彙を照応させればこうなります。




身体の出来事とは固着、トラウマへの固着のことなのです。


症状は身体の出来事である。le symptôme à ce qu'il est : un événement de corps(Lacan, JOYCE LE SYMPTOME,AE.569、16 juin 1975)

身体の出来事は固着である un événement de corps est …une fixation. (J.-A. MILLER, L'Être et l'Un, 9/2/2011)



ひとりの女は暗闇に蔓延るのです。


原抑圧と同時に固着が行われ、暗闇に異者が蔓延る。Urverdrängung[…] Mit dieser ist eine Fixierung gegeben; […]wuchert dann sozusagen im Dunkeln, fremd erscheinen müssen, (フロイト『抑圧』1915年、摘要)



ひとりの女は穴です。身体の穴です。


固着が身体の物質性としての享楽の実体のなかに穴を為す。固着が無意識のリアルな穴を身体に掘る。Une fixation qui …fait trou dans la substance jouissance qu'est le corps matériel, qui y creuse le trou réel de l'inconscient,(ピエール=ジル・ゲガーン Pierre-Gilles Guéguen, ON NE GUÉRIT PAS DE L'INCONSCIENT, 2015)

現実界は穴=トラウマを為す[le Réel … ça fait « troumatisme ».](ラカン、S21、19 Février 1974)

身体は穴である。corps…C'est un trou(Lacan, conférence du 30 novembre 1974, Nice)


ひとりの女は身体にトラウマの刻印をするのです。


ひとりの女は他の身体の症状である Une femme par exemple, elle est symptôme d'un autre corps. (Lacan, JOYCE LE SYMPTOME, AE569, 1975)

穴を為すものしての「他の身体の享楽」jouissance de l'autre corps, en tant que celle-là sûrement fait trou (Lacan, S22, 17 Décembre 1974)


この「他の身体」とは前期ラカンの「イマジネールな身体」とは異なる「リアルな身体」のことです➡︎「ひとりの女」の意味



女性の享楽とは穴の享楽[la jouissance du trou]、つまり男女ともにあるトラウマの反復のことです。


純粋な身体の出来事としての女性の享楽 la jouissance féminine qui est un pur événement de corps …(J.-A. MILLER, L'Être et l'Un,  2 mars 2011)



くりかえせば身体の出来事=固着であり、穴=トラウマです。


人はみなトラウマ化されている。この意味はすべての人にとって穴があるということである[tout le monde est traumatisé …ce qu'il y a pour tous ceux-là, c'est un trou.  ](J.-A. Miller, Vie de Lacan, 17/03/2010)

われわれはトラウマ化された享楽を扱っている。Nous avons affaire à une jouissance traumatisée. (J.-A. MILLER, Choses de finesse en psychanalyse, 20 mai 2009)