幻の花 石垣りん 庭に 今年の菊が咲いた。 子どものとき、 季節は目の前に 一つしか展開しなかった。 今は見える 去年の菊。 おととしの菊。 十年前の菊。 |
遠くからまぼろしの花たちがあらわれ 今年の花を 連れ去ろうとしているのが見える。 ああこの菊も! そうして別れる 私もまた何かの手にひかれて。 |
菊ばかりではなく、人もまた幻の花かもしれません。個性などといい、なにか一人だけ特別なことをしているようなつもりでも、ほんのひとときを咲いて、たちまちに祖霊たちに連れ去られていく存在かもしれないのです。(茨木のり子『詩のこころを読む』) |