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2022年1月1日土曜日

幻の花

 


幻の花  石垣りん


庭に

今年の菊が咲いた。


子どものとき、

季節は目の前に

一つしか展開しなかった。


今は見える

去年の菊。

おととしの菊。

十年前の菊。


遠くからまぼろしの花たちがあらわれ

今年の花を

連れ去ろうとしているのが見える。

ああこの菊も!


そうして別れる

私もまた何かの手にひかれて。




菊ばかりではなく、人もまた幻の花かもしれません。個性などといい、なにか一人だけ特別なことをしているようなつもりでも、ほんのひとときを咲いて、たちまちに祖霊たちに連れ去られていく存在かもしれないのです。(茨木のり子『詩のこころを読む』)