憲法九条が日本人の無意識かどうかは別にしてーー私はこれに対してはいくらかの批判があるーー、柄谷は秀逸な洞察を『憲法の無意識』の末尾で書いている。
柄谷行人『憲法の無意識』2016年 |
第一次大戦の場合、それが始まった時点では、四年も続く戦争になると思った人はいなかった。各国が軍事同盟を結んでいたために、その連鎖が世界戦争に帰結したのです。…今後においても同じようなことがありえます。局地的な戦争はあっても、世界戦争はとうてい起こらないだろうと、いま人々は考えている。が、突発した局地的な戦争が世界戦争に発展する蓋然性は高いのです。〔・・・〕 このような混沌とした争いが、思いもよらぬ世界戦争に発展する可能性があるのです。.....現在の新自由主義的段階も、やはり戦争を通して終息する蓋然性が高いからです。しかし、それは最悪のシナリオです。現在の状況は、世界戦争を経なければ解決できないというわけではありません。真の解決はむしろ、世界戦争を阻止することによってこそもたらされるものだと思います。その場合、日本がなすべきでありかつなしうる唯一のことは憲法九条を文字通り実行することです。 |
「憲法九条を文字通り実行すること」とはどういう意味か。
柄谷行人「改憲を許さない日本人の無意識」文学界インタビュー 2016年7月号 |
ーー実際に現政権は、安保法案を作ったりして、九条を形骸化する方向に進んでいますね。 柄谷) だから、もっと積極的に攻勢的に行かないと駄目ですね。そもそも、九条があるだけでは意味がない。九条を文字通り実行することが必要であり、それが日本にとって唯一の希望です。たとえば、日本の政府は国連の常任理事国になることを切望していますが、九条を実行すると国連総会で宣言すれば、日本はすぐに常任理事国になれます。現在の常任理事国が反対しても、多数が賛成して国連総会で承認されるでしょう。日本国憲法前文に、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と書いてある。その国際社会というのは事実上、国連のことでしょう? 日本は、現在の国連では常任理事国になれないし、なる必要もない。それは「名誉ある地位」ではまったくないから。しかし、憲法九条を唱えて常任理事国になれば、それが現在の国連を根本的に変えることになる。 |
僕は、今の国連が永く続くとは思わない。なぜなら、あれはまだカントの理念とは縁のない、それ以前の考え方だからです。カントの平和論はサン・ピエール、そしてルソーの考えを批判的に受け継いでいるのですが、サン・ピエールは列国君主らが結ぶ平和連邦を構想した人で、第二次大戦の戦勝国が常任理事国を務める現在の国連はサン・ピエール型といえます。カントとはほど遠い。日本が唯一、カント的な国際連合を作る力を潜在的に持っているんです。だから、九条を実行するとだけ言えばいい。他の国が日本の真似をしようと思ったら、まずその国の憲法を変えないといけないわけですが、その点で日本は楽だよ(笑)。 |
ーーすでに条文があるから。 柄谷) それを実行さえすればいい。日本人は憲法九条を実行していないということは確かです。しかし、第二次大戦以後、一切戦争に加担していないといっても虚偽ではない。たとえば、僕の『〈戦前〉の思考』(一九九四)の韓国版が出ることになったときに、韓国の版元から「タイトルの『戦前』という言葉は韓国ではあまり意味を持たないので、変えてもいいですか」といわれて、承諾しました。考えてみれば、韓国は朝鮮戦争以後ずっと北と軍事的に対時しているわけです。ベトナム戦争にも参加している。今「戦後」などとはっきり言える国は少ないのです。日本で「戦後」ということがいえるのは、憲法九条のおかげです。国際社会における「名誉ある地位」を与えるものは、憲法九条のほかにない。また、日本文化というものがあるとしたら、真に名誉ある日本文化はこれだけです。 |
柄谷はこの思考を一朝一夕に考え出したわけではない。1990年代から既に温めていた。
柄谷)憲法第九条は、日本人がもっている唯一の理念です。しかも、もっともポストモダンである。これを言っておけば、議論において絶対に負けないと思う。〔・・・〕 浅田)実際、アメリカに現行憲法を押しつけられたにせよ、日本国民がそれをずっとわがものとしてきたことは事実なんで、これこそわれわれの憲法だといってまことしやかに大見栄を切ればいいわけですよ。それがもっとも先端的な世界史的理念であることはだれにも疑い得ないんだから。 柄谷)ヘーゲルではないけれど、やはり「理性の狡知」というのがありますよ。アメリカは、日本の憲法に第九条のようなことを書き込んでしまった。 浅田)あれは実は大失敗だった。 柄谷)日本に世界史的理念性を与えてしまったわけです(笑)。ヨーロッパのライプニッツ・カント以来の理念が憲法に書き込まれたのは、日本だけです。だから、これこそヨーロッパ精神の具現であるということになる。(『「歴史の終わり」と世紀末の世界』柄谷行人/浅田彰対談1993年) |
そして2016年に次のように言うのである。 |
『憲法の無意識』で九条をカントの平和論との結びつきにおいて考えましたが、僕の考えではカントの考えはライプニッツ、きらにはアウグスティヌスの『神の国』を受け継ぐものです。アウグスティヌスの考えは、ローマ帝国から来ていると思います。彼は帝国を「盗賊団」と呼んで批判しますが、全面的には否定しない。帝国の経験があるから、諸国家が共存する平和のヴィジョンを持ちうるのです。フィレンツェのマキャベリにせよ、ネーデルランドのスピノザにせよ、ジュネーブのルソーにせよ、近代国家を都市国家(ポリース)にもとづいて考えると平和は不可能です。それは一国しか考えていないから。その意味で、近代の主権国家の戦争状態を超える道は、アウグスティススが開示した方向にしかないと思います。〔・・・〕 |
憲法九条があるために、日本はリアルポリティックスに対応できないといわれますが、リアルポリティックスなどは空想の産物にすぎない。日本にどうして憲法九条が現実にあるのか。そのことに驚かないような認識こそ非現実的だと思う。 |
(柄谷行人「改憲を許さない日本人の無意識」文学界インタビュー 2016年7月号) |
われわれの最高の洞察はリアルポリティックスなる空想に耽る連中には、犯罪のように聞こえなければならない。 |
われわれの最高の洞察は、その洞察を受けとる資質もなく、資格もない者たちの耳に間違って入ったときには、まるでばかげたことのように、ことによると犯罪のように聞こえなければならないし――そうあるべきである! Unsre hoechsten Einsichten muessen - und sollen! - wie Thorheiten, unter Umstaenden wie Verbrechen klingen, wenn sie unerlaubter Weise Denen zu Ohren kommen, welche nicht dafuer geartet und vorbestimmt sind. (ニーチェ『善悪の彼岸』第30番、1886年) |
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ぜんぜん話は変わるが、もう128円いったか。
少し前、来年の半ばには170円〜180円はいくとしたが、もっと早まるかもな
「外国人も注目し始めた日米金融政策の違い。円安進行はこれから」「世界最悪のインフレ国家へ」 藤巻健史 2022年04月19日 |
1「外国人も注目し始めた日米金融政策の違い。円安進行はこれから」 外国では、今まであまり注目されていなかった「日米金利差拡大」がついに注目を集めるようになったようだ。円安進行はこれから、だ。特に5月になりFED がQT開始 でばらまいた資金回収を始めたら、より強烈な円安進行が始まるだろう。金をばらまきすぎた日銀は金融引き締めの手段がない。だから困る、良くない、と口で言うだけ。 The move in the yen is incredible,” said Bipan Rai, head of foreign-exchange strategy at CIBC. “But given the differing stances of the Fed and BOJ, it shouldn’t be all that surprising.” |
2.「世界最悪のインフレ国家へ」 泊まらぬ大幅円安で日本は近いうちに世界でも最悪のインフレ国家となるだろう。「世界最悪の財政赤字国家―>世界最大のメタボの中央銀行(お金のバラマキ)―>世界最大のインフレ国家」は、伝統的な金融論、財政論からすれば、当然の帰結。放漫財政許論者、MMTer、積極財政論者、「統合政府で考えれば財政は健全」論者の罪は重い。彼等素人集団がブードゥー経済学を振り回し、国家の軌道修正を阻んだ。そのツケをこれから国民が払わされる。 |