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2022年5月8日日曜日

「芸術・美」と「哲学・知」の価値形態論

  なんでも構造化してみるんだよ。構造がすべてではないにしろ、頭のなかを整理するためにも「機能するフォルム化」してみるんだ。

例えば言説の基礎構造のヴァリエーションとしてこう置ける(参照)。


左下の穴Trou は欲動の穴だーー、《欲動の現実界がある。私はそれを穴の機能に還元する[il y a un réel pulsionnel … je réduis à la fonction du trou]》(Lacan, Réponse à une question de Marcel Ritter、Strasbourg le 26 janvier 1975)。


これは主体の穴でもある、《現実界のなかの穴は主体である[Un trou dans le réel, voilà le sujet]》(Lacan, S13, 15 Décembre 1965)



上に向かう矢印の場にあるシニフィアンは穴の表象化だ。


右上にある他者Autreはその表象を受け取る者。


右下の穴埋めbouchonは剰余価値(剰余享楽)だが、昇華の意味もある[参照]。欲動の穴(享楽の穴)の昇華だ。


ここでニーチェを取り上げよう。


芸術や美へのあこがれは、性欲動の歓喜の間接的なあこがれである[Das Verlangen nach Kunst und Schönheit ist ein indirektes Verlangen nach den Entzückungen des Geschlechtstriebes] (ニーチェ遺稿、1882 - Frühjahr 1887 )

プラトンは考えた、知への愛と哲学は昇華された性欲動だと[Platon meint, die Liebe zur Erkenntniß und Philosophie sei ein sublimirter Geschlechtstrieb](ニーチェ断章 (KSA 9, 486) 1880–1882)


で、言説構造図に置いてみる。



左上から右上の矢印にある「不可能」とは欲動の穴の表象化「芸術・美」は他者にそのまま受け取られることはないという意味だ。

左下から右上の斜めの矢印は鑑賞者は間接的に性欲動を受け取るということ。

右上から右下への下方の矢印は鑑賞者は「芸術・美」に遭遇して「哲学・知」という剰余価値=穴埋めを生むということだ。

菱形紋◇にある「不能」とは欲動の穴の昇華としての「哲学・知」は充分には穴埋めしえないということだ。したがって右下から左上への循環運動が永続的に起こる。

これが「芸術・美」と「哲学・知」の構造的関係だ。


ちなみにフロイトにとって性欲動[Sexualtriebe]とは、リビドー[Libido]=欲動エネルギー[Energie des Triebe] =愛の欲動[Liebestriebe]であり、プラトンのエロスと等置している(参照)。


そして究極的にはこの愛の欲動こそ死の欲動である(参照)。なぜなら愛とは愛する者同士の融合だから。真の融合とは死である。ーー《愛への意志、それは死をも意志することである[Wille zur Liebe: das ist, willig auch sein zum Tode. ]》ー (ニーチェ『ツァラトゥストラ』  第2部「無垢な認識」1884年)


これまでのところ、人間の最高の祝祭は生殖と死であるに違いない![So weit soll es kommen, daß die obersten Feste des Menschen die Zeugung und der Tod sind!  ](ニーチェ遺稿137番、1882 - Frühjahr 1887)



話を戻せば、ヴァレリーの「芸術についての考察」図にて示したマルクスの価値形態論起源の図も先ほどの図と同じこと。



ほかにも、ジュネ=ジャコメッティの美の起源は傷、つまり美の起源はトラウマも一緒だよ


美には傷以外の起源はない。どんな人もおのれのうちに保持し保存している傷、独異な、人によって異なる、隠れた、あるいは眼に見える傷、その人が世界を離れたくなったとき、短い、だが深い孤独にふけるためそこへと退却するあの傷以外には。

Il n’est pas à la beauté d’autre origine que la blessure, singulière, différente pour chacun, cachée ou visible, que tout homme garde en soi, qu’il préserve et où il se retire quand il veut quitter le monde pour une solitude temporaire mais profonde. (ジャン・ジュネ『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』)

Un traumatisme (du grec τραμα (trauma) = « blessure ») est un dommage, ou choc, provoqué par une blessure physique grave et soudaine  (Wikipedia )


言説構造図の左下の「主体$=欲動」の穴とはトラウマのことなんだから。ーー《現実界は穴=トラウマをなす[le Réel …fait « troumatisme ».]》(ラカン、S21、19 Février 1974)


いずれにしろ、マルクスの価値形態論に準拠したフロイトラカンの人間の社会的関係は、すべてが上の「機能するフォルム」に収斂する。