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2023年1月2日月曜日

おれたちはみな卑怯者さ

 

新年は、死んだ人をしのぶためにある、

心の優しいものが先に死ぬのはなぜか、

おのれだけが生き残っているのはなぜかと問うためだ、

でなければ、どうして朝から酒を飲んでいられる?

人をしのんでいると、独り言が独り言でなくなる、 

きょうはきのうに、きのうはあすになる、

どんな小さなものでも、眼の前のものを愛したくなる、

でなければ、どうしてこの一年を生きてゆける?


ーー「きのうはあすに」  



おれたちはみな卑怯者だ、

百円の花を眺めて百万人の飢え死を忘れる、

強い者のまえでは伏し目になり、

弱い者のまえでは肩をそびやかす。


ーー「卑怯者」



戦いと飢えで死ぬ人間がいる間は

おれは絶対風雅の道をゆかぬ


ーー「やせた心」


中桐雅夫『会社の人事』所収、1979年)




・・・とはいえいくら気張ったって

ヒトは「風雅」の道に逃げるんだよ

そうでないと人生やってけないね

おれたちはみな卑怯者さ



おもうふこと。―あゝ、けふまでのわしの一生が、

そっくり騙されてゐたとしてもこの夕栄のうつくしさ    金子光晴