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2023年10月28日土曜日

ルールに基づく国際秩序は二重基準の別名

 

前回、岡真理さんのとても優れた論考「「人権の彼岸」から世界を観る――二重基準に抗して」(岡真理『世界』2023年3月号への寄稿)を掲げたが、次のミアシャイマーの論文でも、西側の二重基準について同様な事を言っている。


◼️失敗する運命

リベラルな国際秩序の興亡. ジョン・J・ミアシャイマー 2019年

Bound to Fail

The Rise and Fall of the Liberal International Order. John J. Mearsheimer 2019


「秩序」とは、加盟国間の相互作用を管理するのに役立つ国際機関の組織的なグループのことである。秩序には必ずしも世界のすべての国が含まれるわけではないため、秩序は加盟国が非加盟国に対処する助けにもなる。さらに、秩序は地域的または世界的な広がりを持つ制度で構成されることもある。大国は秩序を創造し、管理する。秩序の構成要素である国際制度は、事実上、大国が考案し、従うことに合意したルールである。ルールは許容される行動と許容されない行動を規定する。当然のことながら、大国は自分たちの利益になるようにルールを作成する。しかし、そのルールが支配国家の重大な利益と一致しない場合、支配国家はそのルールを無視するか書き換えてしまう。

An “order” is an organized group of international institutions that help govern the interactions among the member states. Orders can also help member states deal with nonmembers, because an order does not necessarily include every country in the world. Furthermore, orders can comprise institutions that have a regional or a global scope. Great powers create and manage orders. International institutions, which are the building blocks of orders, are effectively rules that the great powers devise and agree to follow, because they be-lieve that obeying those rules is in their interest. The rules prescribe acceptable kinds of behavior and proscribe unacceptable forms of behavior. Unsurprisingly, the great powers write those rules to suit their own interests. But when the rules do not accord with the vital interests of the dominant states, those same states either ignore them or rewrite them.


引用の最後に、《当然のことながら、大国は自分たちの利益になるようにルールを作成する。しかし、そのルールが支配国家の重大な利益と一致しない場合、支配国家はそのルールを無視するか書き換えてしまう》とあるが、これは事実上、ルールに基づく国際秩序は二重基準の別名だと言っているに等しい。


以下、この一年半ほどのあいだに拾った、いくつかの同様な指摘を列挙しておこう。

◼️ジャック・ボーの最新インタビュー

Our latest interview with Jacques Baud

Originally published: The Postil Magazine on September 1, 2022 by The Postil Magazine

TP:この戦争は、最終的にヨーロッパ、アメリカ、中国にとってどのような意味を持つとお考えでしょうか?


JB:この問いに答えるには、まず別の問いに答えなければならない。「なぜこの紛争は、西側諸国が始めた過去の紛争よりも非難され、制裁されるのか?」

アフガニスタン、イラク、リビア、マリの惨事の後、世界の他の国々は、西側が常識的にこの危機を解決する手助けをすることを期待した。西側諸国は、こうした期待とはまったく逆の反応を示した。この紛争がなぜ以前の紛争よりも非難されるべきものなのか、誰も説明できないばかりか、ロシアと米国の扱いの違いから、被害者よりも加害者の方が重視されていることが明らかになったのである。ロシアの崩壊をもたらす努力は、国連安全保障理事会に嘘をつき、拷問を行い、100万人以上の死者を出し、3700万人の難民を生み出した国々の完全な免罪符と対照的である。


この扱いの違いは、欧米では気づかれなかった。しかし、「世界の他の国々」は、「法に基づく国際秩序」から、欧米が決定する「ルールに基づく国際秩序」に移行したことを理解したのである[But the “rest of the world” has understood that we have moved from a “law-based international order” to a “rules-based international order” determined by the West.]

より物質的なレベルでは、2020年に英国によるベネズエラの金塊の没収、2021年にアフガニスタンの政府資金の没収、そして2022年に米国によるロシアの政府資金の没収があり、西側の同盟国の不信感を高めている。これは、非西側世界がもはや法に守られず、西側の善意に依存していることを示している。


この対立は、新しい世界秩序の出発点なのだろう。世界が一気に変わるわけではないが、この紛争は世界の人々の関心を高めた。「国際社会」がロシアを非難するといっても、実際には世界人口の18%の話なのだから。


伝統的に西側に近いアクターも、徐々に西側から遠ざかっている。2022年7月15日、ジョー・バイデンは、サウジアラビアがロシアや中国に接近するのを阻止することと、石油の増産を求めるという2つの目的で、モハメド・ビン・サルマン(MbS)を訪ねた。しかし、その4日前にMbSはBRICSのメンバーになることを正式に要請し、1週間後の7月21日にはMbSはプーチンに電話し、OPEC+の決定を支持することを確認したのである。つまり、原油増産はなし。欧米とその最強の代表の顔への平手打ちであった。




◼️ドイツとEUは宣戦布告を手渡された ぺぺ・エスコバル 

Germany and EU Have Been Handed Over a Declaration of War

PEPE ESCOBAR • SEPTEMBER 28, 2022

バルト海のノルドストリーム(NS)とノルドストリーム2(NS2)のパイプラインに対する破壊工作は、「惨事便乗型資本主義」をまったく新しい有害なレベルにまで押し上げるものである。

このハイブリッド産業・商業戦争の出来事は、国際海域のエネルギー・インフラに対するテロ攻撃という形で、「我々のやり方か本道か」「ルールに基づく」秩序に溺れた国際法の絶対的崩壊を告げるものである。


The sabotage of the Nord Stream (NS) and Nord Stream 2 (NS2) pipelines in the Baltic Sea has ominously propelled ‘Disaster Capitalism’ to a whole new, toxic level.

This episode of Hybrid Industrial/Commercial War, in the form of a terror attack against energy infrastructure in international waters signals the absolute collapse of international law, drowned by a “our way or the highway”, “rules-based”, order.



…………………



◼️解放軍報「アメリカの二重基準「ルール」は世界が乱れる源」(中国語原題:"美式"规则"成世界乱源|一,言行相悖虚成性") 鈞声署名論評 2022年7月4日

骨の髄まで染み渡った「アメリカ的二重基準」の症状がまた発作を始めた。ブリンケンの最近の演説は、中国が世界秩序の「もっとも深刻な長期的挑戦」であると公言した。しかし、まともな眼力のある人であるならば、国内法を国際法に優先させ、国際ルールに関しては自分の都合に合えば使い、合わなければ捨てるアメリカこそが国際秩序を乱す最大の原因であることを見て取ることだろう。


アメリカの政治屋にとって、「国際ルール」というモノサシは他人を計るもので自分を規制するものではない。「ルールに基づく国際秩序」なるものも、アメリカ以下の少数の国々が勝手に決めたものに過ぎず、守ろうとするのはアメリカ主導の「秩序」であって、私利をむさぼることこそが真の目的である。長期にわたるアメリカのこのような行動は、世界の政治経済秩序を深刻に破壊し、グローバルな安全と安定を脅かすに至っている。〔・・・〕

アメリカがかくも厚顔無恥で、平然と二重基準に訴えるのは、本を正せば、「アメリカだけは特別・例外」という覇権思想が脳みそに巣くっているためだ。その本質は自己優越論であり、アメリカは他の国々とは違い、「偉大であることが運命づけられ」、「世界を導かなければならない」ということにある。しかし、歴史が証明しているとおり、このイデオロギーは虚妄であるだけに留まらず、極めて有害でさえある。アメリカの著名な経済学者ジェフリー・ザックスは著書『新しい外交政策:アメリカの例外主義を超えて』の中で次のように指摘している。すなわち、各国の利益は密接に関わり合い、運命を共にしており、歴史上のいかなる時にも増して国際協力を強め、人類社会が直面するリスクと挑戦に共同で対処するべき時に、アメリカ政府は独り我が道を行き、勝手に国際ルールを破壊している。これは「アメリカ例外主義」の表れであり、自らを深刻に害し、世界にとっては非常に危険なことである。


事実が証明しているとおり、二重基準を奉じ、「アメリカは特別・例外」を行うアメリカは「ならず者国家」になるだけである。真のスタンダードに対しては、世人の胸の内には一定のはかりがある。アメリカには以下のことを勧告する。「二重基準」をやめ、国際的に公認されたルール及びスタンダードを遵守する正しい軌道に戻ることだ。さもなければ、国家のイメージを台無しにし、国際的信用が完全に失われるだけである。





◼️「ルールに基づく国際秩序」にルールと秩序の居場所はない

No place for rules and order in the 'rules-based international order'

Xin Ping 18-Oct-2022

米国が喧伝する「ルールに基づく国際秩序」は、暴力と弱肉強食を礼賛する秩序である。米国は自国の強さを語り続け、柔軟な筋肉に喜びを感じている。240年以上の歴史の中で、224年以上戦争をしており、残りの16年は戦争を仕掛けることに忙しかった。ほとんどすべてのホットスポット問題で、米国は軍事的圧力をかけ、戦争を煽り、外交交渉を妨害することに熱心である。イェール大学のデビッド・ブロムウィッチ教授は、「規範は、米国が或る瞬間に望むものから生まれる...」と率直に述べている。「私たちは最も軍国主義的な国である。自国を武装化するために使えるエネルギーをすべて使って、他国民が互いに殺し合うのを助けるために武器を売っている」。

The "rules-based international order" touted by the U.S. is an order that venerates violence and the law of the jungle. The U.S. keeps talking about its position of strength and enjoys flexing muscles. The country was at war in more than 224 years throughout its over 240 years of history, and in the remaining 16 years it was busy starting one. On almost all hot-spot issues, the U.S. is keen on exerting military pressure, war-mongering and sabotaging diplomatic negotiations. Yale University professor David Bromwich said bluntly that "the norms come from what the U.S. desires at a given moment... We are the most militarized of nations. With all the energy we can spare from arming ourselves, we sell weapons to help other people kill each other."




◼️ラブロフ露外相 2022年7月27日スピーチ

〔・・・〕我々は、西側が意図する、国際法ではなく彼らのルールによって動かされる世界を選ばなくてはならないかという問題だ。彼らは「ルールに基づく世界秩序」という表現を編み出した。西側の実際の行動を分析すれば、これらのルールがケース・バイ・ケースで違うことが分かる。単一の基準は存在しない。そこにはたった一つの原則しか存在しない。すなわち、西側が欲することには従え、さもなければ罰せられる、ということだ。これが西側の推進する「ルールに基づく世界秩序」の示す将来の姿だ。要するに、EU及びアジアの同盟国を自分の意志に従属させたアメリカの一極世界である。これは提案ではなく最後通告だ。


要するに、ルールに基づく国際秩序とは、米国の一極集中覇権主義が辛うじて支えてきた集団的西側の勝手気ままな似非秩序に過ぎず、さらに米覇権の凋落が歴然と進行しつつある現在、もはや愚かしい無用の長物にほかならない。あるいは、ーー《「敵」を非難するときは振りかざし、自己の利益のためには踏みにじる、ご都合主義の道具に過ぎない》(岡真理「二重基準に抗して」『世界』2023年3月号)


……………


なおミアシャイマーは冒頭に掲げた同じ論文で次のようにも記している。


2000年代の最初の10年の半ば、リベラルな国際秩序に深刻な亀裂が入り始め、それ以来、亀裂は着実に拡大している。

Midway through the first decade of the 2000s, serious cracks began to appear in the liberal international order, which have since steadily widened.[...]


かつて有望と思われたオスロ和平交渉は失敗し、パレスチナ人は自国の国家を獲得する望みを事実上失っている。ワシントンの支援を受けて、イスラエルの指導者たちは、2人の元イスラエル首相が言ったように、アパルトヘイト国家となる大イスラエルを作ろうとしている。

The Oslo Peace Process, which once seemed so promising, has failed, and the Palestinians have virtually no hope of acquiring their own state. With Washington's help, Israeli leaders are instead creating a Greater Israel, which, as two former Israeli prime ministers have said, will be an apartheid state.[...]


リベラルな国際秩序が衰退の一途をたどっていることは認めつつも、冷戦後の秩序の行き過ぎを避けるような、より実用的なバージョンに置き換えることができると主張する人もいるかもしれない。より穏健なリベラル秩序とは、自由民主主義を広めるためのよりニュアンスに富んだ、より攻撃的でないアプローチを追求し、超グローバル化(ハイパーグローバリゼーション)を抑制し、国際機関の権力にある程度の制限を設けるものである。この視点によれば、新秩序は冷戦期の西側の秩序に似ているが、それはグローバルでリベラルなものであり、非束縛的で、現実主義的なものではないだろう。しかし、この解決策は実現不可能である。というのも、一極集中は終わりを告げ、リベラルな国際秩序が維持される可能性は当面ないからである。

One might acknowledge that the liberal international order is in terminal decline, but argue that it can be replaced with a more pragmatic version, one that avoids the excesses of the post–Cold War order. This more modest liberal order would pursue a more nuanced, less aggressive approach to spreading liberal democracy, rein in hyperglobalization, and put some significant limits on the power of international institutions. The new order, according to this perspective, would look something like the Western order during the Cold War, although it would be global and liberal, not bounded and realist. This solution is not feasible, however, because the unipolar moment is over, which means there is no chance of maintaining any kind of liberal international order for the foreseeable future. (John J. Mearsheimer, Bound to Fail. The Rise and Fall of the Liberal International Order 2019)