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2024年2月10日土曜日

二つのグローバリズム

 

はやばやと斜めから見る「タッカー・カールソンのプーチンインタビュー」メモが示されているね、



ツイッター社交界が無闇に盛り上がっているなかでのこの指摘は貴重だね、その正否は保留しても。タッカー・カールソンが「グローバリスト右派の演者」ではないかとあるが、以前からJ SATO氏はカールソンの発言からときに悪いにおいを嗅いでいた、背後にCIAがいるか否かはいざ知らず。

もうひとつ、プーチンがワン・ワールドを推進するグローバリストってのは、さてどうだろう?

重要なのはグローバリズムとは大きく二つの意味があることだ。

巨悪としての世界資本主義。金融資本に裏付けられた少数の金持ちが大半の世界市民を搾取しようとするシステム。マルクスの云うベンサム主義。


(資本制生産様式において)支配しているのは、自由、平等、所有、およびベンサムだけである。Was allein hier herrscht, ist Freiheit, Gleichheit, Eigentum und Bentham. 〔・・・〕

ベンサム! なぜなら双方のいずれにとっても、問題なのは自分のことだけだからである。彼らを結びつけて一つの関係のなかに置く唯一の力は、彼らの自己利益,彼らの特別利得、彼らの私益という力だけである。

Bentham! Denn jedem von den beiden ist es nur um sich zu tun. Die einzige Macht, die sie zusammen und in ein Verhältnis bringt, ist die ihres Eigennutzes, ihres Sondervorteils, ihrer Privatinteressen.(マルクス『資本論』第1巻第2篇第4章)

功利理論[Nützlichkeitstheorie」においては、これらの大きな諸関係にたいする個々人の地位、個々の個人による目前の世界の私的搾取[Privat-Exploitation]以外には、いかなる思弁の分野も残っていなかった。この分野についてベンサムとその学派は長い道徳的省察をやった。〔・・・〕この場合、功利関係はきわめて決定的な意味をもっている。すなわち、私は他人を害することによって自分を利する(人間による人間の搾取) ということである[daß ich einem Andern Abbruch tue (exploitation de l'homme par l'homme <Ausbeutung des Menschen durch den Menschen>)](マルクス&エンゲルス『ドイツイデオロギー』「聖マックス」1846年)


他方、究極の善としての世界史的理念のグローバリズムもある。


例えばカントの世界市民社会(コスモポリタニズム)[eine weltbürgerliche Gesellschaft(cosmopolitismus)]あるいは、世界共和国[Weltrepublik]だね。


諸国家が相互に侵略し征服しようとする絶え間ない戦争から生じる困窮は、最終的には諸国家を次のことへと向かわせるにちがいない。つまり、渋々ながらですら一つの世界市民的体制[eine weltbürgerliche Verfassung]へともたらすか、あるいは、(超大国の存在が多くの場合そうであったように)普遍的な平和の状態は、それが恐るべき専制をともなうがゆえに、自由の別の側面においてよりいっそう危険であるとすれば、戦争による困窮は、諸国家を次のような状態へと強いるにちがいない。すなわち、たしかに一人の元首の下での世界市民的公共体[weltbürgerliches gemeines Wesen]ではないにしても、共同的に協定された国際法に従う連盟[Föderation]という法的状態へ、である。(カント『理論と実践に関する俗言』第三論文「国際法における理論と実践の関係について」 1793)


『永遠平和のために』ではいささか妥協して国際連盟を言い出しているが、現在の国連はまったく機能していないのは周知の通り。


(すべてを失わないためには)一つの世界共和国という積極的理念の代わりに、戦争を防止し、持続しながら絶えず拡大する連盟という消極的な代替物のみが、法を嫌う好戦的な傾向性を阻止できる[kann an die Stelle der positiven Idee einer Weltrepublik (wenn nicht alles verloren werden soll) nur das negative Surrogat eines den Krieg abwehrenden, bestehenden und sich immer ausbreitenden Bundes den Strom der rechtscheuenden, feindseligen Neigung aufhalten, doch mit beständiger Gefahr ihres Ausbruchs].(カント『永遠平和のために』1795年)


最終的にはこの世界共和国=世界市民社会は、構成的理念ではなく統整的理念だと言うようになる。

世界市民社会[eine weltbürgerliche Gesellschaft (cosmopolitismus) ]のようなそれ自身到達され得ない理念は、構成的理念[konstitutives Prinzip](人間のきわめて生き生きとした作用と反作用のまっただ中にある平和の期待)ではなくて,単に統整的理念[regulatives Prinzip]にすぎない。すなわち、それを目指す自然的性癖があるという根拠のある推測がまんざらでもないような,人類の使命としての理念を熱心に追究するたあの統整的理念にすぎないのである。

aber allgemein fortschreitenden Koalition in eine weltbürgerliche Gesellschaft (cosmopolitismus) sich von der Natur bestimmt fühlen: welche an sich unerreichbare Idee aber kein konstitutives Prinzip (der Erwartung eines mitten in. der lebhaftesten Wirkung und Gegenwirkung der Menschen bestehenden Friedens), sondern nur ein regulatives Prinzip ist: ihr als der Bestimmung des Menschengeschlechts nicht ohne gegründete Vermutung einer natürlichen Tendenz zu derselben fleißig nachzugehen.

(カント『実用的見地における人間学』1798年)


この構成的理念[konstitutives Prinzip]/統整的理念[regulatives Prinzip]についての柄谷行人の注釈を貼り付けておこう。


僕はよくいうんですが、カントが理念を、二つに分けたことが大事だと思います。彼は、構成的理念と統整的理念を、あるいは理性の構成的使用と理性の統整的使用を区別した。構成的理念とは、それによって現実に創りあげるような理念だと考えて下さい。たとえば、未来社会を設計してそれを実現する。通常、理念と呼ばれているのは、構成的理念ですね。それに対して、統整的理念というのは、けっして実現できないけれども、絶えずそれを目標として、徐々にそれに近づこうとするようなものです。カントが、「目的の国」とか「世界共和国」と呼んだものは、そのような統整的理念です。


僕はマルクスにおけるコミュニズムを、そのような統整的理念だと考えています。しかし、ロシア革命以後とくにそうですが、コミュニズムを、人間が理性的に設計し構築する社会だと考えるようになりました。それは、「構成的理念」としてのコミュニズムです。それは「理性の構成的使用」です。つまり、「理性の暴力」になる。だから、ポストモダンの哲学者は、理性の批判、理念の批判を叫んだわけです。


しかし、それは「統整的理念」とは別です。マルクスが構成的理念の類を嫌ったことは明らかです。未来について語る者は反動的だ、といっているほどですから。ただ、彼が統整的理念としての共産主義をキープしたことはまちがいないのです。それはどういうものか。たとえば、「階級が無い社会」といっても、別にまちがいではないと思います。しかし、もっと厳密にいうと、第一に、労働力商品(賃労働)がない社会、第二に、国家がない社会です。(柄谷行人「生活クラブとの対話」2009年)



統整的理念については詰め将棋の事例を示してもいる。


カントは、ある種の超越論的仮象は、実践的に有益であり、不可欠だと考えた。その場合、彼はそのような仮象を「理念」と呼んだ。ゆえに、理念とは、そもそも、仮象である。


例:詰め碁や詰め将棋では、実戦でならば解けないような問題が解ける。それは詰むということがわかっているからだ。サイバネティックスの創始者ウィーナーは、自ら参加したマンハッタン・プロジェクトで原爆を作ったあと、厳重な情報管理をしたという。それは原爆の作り方を秘密にすることではない。原爆を作ったということを秘密にすることだ。作れるということがわかれば、ドイツでも日本でもすぐにできてしまうからだ。いわば、原爆の作り方が構成的理念だとしたら、原爆を必ず作れるという考えが統整的理念である。

ある理想やデザインによって社会を強引に構成するような場合、それは理性の構成的使用であり、そのような理念は構成的理念である。しかし、現在の社会(資本=ネーション=国家)を超えてあるものを想定することは、理性の統整的使用であり、そのような理念は統整的理念である。仮象であるにもかかわらず、有益且つ不可欠なのは、統整的理念である。(第一回 長池講義 講義録 柄谷行人  2007/11/7)


この「統整的理念としての世界共和国」観点からは、プーチンがワン・ワールドを推進するグローバリストであるのは、ある意味で当然だよ。彼は日々、ロシア連邦内部で他民族との共存の仕方、その統合のあり方を考えざるを得ないポジションに20年以上いるのだから、それを世界にも適用しようとする理念としての視点を持っていない筈がない。それがコスモポリタニズムの「夢」であろうと(プーチンの理念は理性の暴力としての構成的理念ではけっしてないから気づきにくいが)。

日本は嘴の黄色い愛国者ばかりが跳梁跋扈しているから、まったくワカンネエかもしれないがね。


故郷を甘美に思うものはまだ嘴の黄色い未熟者である。あらゆる場所を故郷と感じられる者は、すでにかなりの力をたくわえた者である。だが、全世界を異郷と思う者こそ、完璧な人間である。

The person who finds his homeland sweet is a tender beginner; he to whom every soil is as his native one is already strong; but he is perfect to whom the entire world is as a foreign place.

(サン=ヴィクトルのフーゴー『ディダスカリコン(学習論)』第3巻第19章)


………………


※追記


と記したところで実にすぐれたまとめが上がっているので貼付。


J Sato@j_sato Feb 10, 2024

タッカー・カールソンが、プーチンのインタビューから得た5つのポイント:


#1 - プーチンは西側諸国の拒絶に「非常に傷ついている」


- NATOの要諦はロシアを封じ込めることだろう。プーチンはこれに傷ついている"


#2 - "ロシアは膨張主義国ではない"


- そんなことを考えるのはバカだ。ロシアはすでに大きすぎる。世界最大の国土だ。人口は1億5000万人しかいない。


- 天然資源は十分すぎるほどある。彼らは天然資源で泳いでいる。彼らの考えでは、人口が足りない。だから、彼らがポーランドを占領したいという考えは、なぜそんなことをしたいんだ?彼らは安全な国境を望んでいるだけだ。


#3 - プーチンはウクライナの和平を望んでいる可能性が高い


- プーチンは、ウクライナの和平を望んでいることを認め、それを手放しで口にした。彼はそれを何度か口にした。繰り返しになるが、私が気づかなかったところで嘘をついているのかもしれないが、彼はそれを言い続けていた。


- "実のところ、1年半前に和平交渉、あるいは和平交渉開始による和平交渉の一部、ある種の和解案がテーブルの上にあったという、圧倒的な証拠があるのだが、英国のボリス・ジョンソン元首相がバイデン政権に代わってそれを頓挫させ、ゼレンスキーとウクライナ政府にこの交渉に入らないよう説得した。つまり、これは既成事実のようなものだ。イスラエル人はそこにいた。彼らはそれを明らかにした。それが起きたのだ"


#4 - ロシアへのクリミア放棄要求は非常識だ


- 米政府高官は、ロシアがクリミアを放棄することが条件の一部であると公言し、私にも言った。


- "プーチンは、クリミアが問題になれば、核戦争も辞さないだろう"


- "平和の条件がプーチンがクリミアを放棄することだと本気で思っているのなら、あなたはまるで狂人だ!"


#5 - 米政府による外国の政権転覆は良い結果を招いてきていない


- "我々は変人によって運営されている。大統領とあの毒舌バカ、ビクトリア・ヌーランドだ。ああ、プーチンを退陣させるんだ。それでどうなる?"


- カダフィを退陣させ、殺害を許したとき、リビアで何が起きた?サダムを裁いたイラクで何が起きたか?これらの国は崩壊し、二度と再建されることはなかった。


- アフガニスタンでは、中央政府を倒したが、彼らは戻ってきた。今もタリバンが政府を運営している。指導者をやっつけるのは(米国には)とても簡単なことだが、その実績はせいぜい点々たるものだ。事態が好転するとは限らない。そして、世界最大の国土を持ち、世界最大の核兵器を持つロシアに対してそれを行うのは、それが良い考えだと思うなら、あなたは麻薬をやっているようなものだ。


@VigilantFox

Tucker Carlson’s 5 Key Takeaways from the Putin Interview:


#1 - Putin is “very wounded” by the rejection of the West.


• “That’s the whole point of NATO, I guess, is to contain Russia. And Putin is wounded by this.”


#2 - “Russia is not an expansionist power.”


• “You have to be an idiot to think that. Russia is too big already. It’s the biggest landmass in the world. They only have 150,000,000 people.”


• They’ve Got more than enough natural resources. They’re swimming in natural resources. They don’t have enough people, in their view. So, the idea that they want to take over Poland, why would you want to do that? They just want secure borders.”


#3 - Putin likely wants peace in Ukraine


• “He was willing to admit that he wants a peace deal in Ukraine and sort of give it away and just say that out loud. He said it a couple of different times. Again, maybe he’s lying in ways I didn’t perceive, but he kept saying it, and I don’t know why he would say it if he didn’t mean it.”


• “As a matter of fact, there is evidence, overwhelming, that there was a peace deal, or part of a peace deal with the beginning of peace talks, a settlement of some sort on the table a year and a half ago that the former prime minister of Great Britain, Boris Johnson, scuttled on behalf of the Biden administration and convinced Zelensky and the Ukrainian government not to enter into these talks. I mean, that’s kind of an established fact. The Israelis were there. They revealed this. That happened.”


#4 - Demands for Russia to relinquish Crimea are insane.


• “U.S. officials have said on the record and have said to me and are telling a bunch of people that part of the terms have to be Russia giving up Crimea!”


• “Putin would go to war, nuclear war, if it came down to Crimea.”


• “If you really think that a condition of peace is that Putin is going to give up Crimea, then you’re like a lunatic!”


#5 - The U.S. has a poor track record with regime change.


• “We are run by nutcases. The President and that poisonous moron Victoria Nuland. ‘Oh, we’re going to depose Putin.’ Well, then what happens?”


• “What happened in Libya when we deposed and allowed, you know, Qaddafi to be murdered? What happened in Iraq when we brought Saddam to justice? Those countries fell apart, and they never been rebuilt again.”


• “In Afghanistan, we took out the central government, and they came back. It’s still run by the Taliban. So, our track record of knocking out the leader, which is very easy to do, is spotty at best. Things don’t always get better. And to do that to Russia, the largest landmass in the world with the largest nuclear arsenal, you’re on drugs if you think that’s a good idea.”


@TuckerCarlson