いま、人びとは驚くほど馬鹿になっています。彼らにわからないことを説明するにはものすごく時間がかかる。だから、生活のリズムもきわめてゆっくりしたものになっていきます。しかし、いまの私には、他人の悪口をいうことは許されません。ますます孤立して映画が撮れなくなってしまうからです。馬鹿馬鹿しいことを笑うにしても、最低二人の人間は必要でしょう(笑)。(ゴダール「憎しみの時代は終り、愛の時代が始まったと確信したい」(1987年8月15日、於スイス・ロール村――蓮實重彦インタヴュー集『光をめぐって』所収) |
重要なのは、ゴダールの態度じゃないかね、《より純度の高い傲慢さを身にまとって自堕落に共有された傲慢さを撃つ》という「より純度の高い傲慢さ」だよ、人びとが驚くほど馬鹿になっている時代には、少し前記したが、愚かさが進歩している時代にはーー《フローベールの愚かさに対する見方のなかでもっともショッキングでもあるのは、愚かさは、科学、技術、進歩、近代性を前にしても消え去ることはないということであり、それどころか、進歩とともに、愚かさも進歩する! ということです。Le plus scandaleux dans la vision de la bêtise chez Flaubert, c'est ceci : La bêtise ne cède pas à la science, à la technique, à la modernité, au progrès ; au contraire, elle progresse en même temps que le progrès ! 》(ミラン・クンデラ「エルサレム講演」1985年『小説の精神』所収) |
◼️蓮實重彦 『ゴダール・ソシアリスム』初出:朝日新聞 2010年12月17日(夕刊) |
さる12月3日に80歳の誕生日を迎えたジャン=リュック・ゴダールの六年ぶりの新作『ゴダール・ソシアリスム』(2010)〔・・・〕 題名のソシアリスム、すなわち社会主義は、民主主義が古代ギリシャで生まれたように、まぎれもなく近代ヨーロッパで生まれた。帝国主義、資本主義、共産主義、等々、主義と呼ばれるものの大半もそうなのだから、ヨーロッパ的に思考すれば世界の誰もが普遍を体現しうるはずだと信じている人々の無意識の傲慢さが主題なのである。 勿論、ゴダールはその傲慢さを批判する。地中海の豪華客船を舞台に過去の戦争犯罪を糾弾し、フランス寒村のガレージでは民主主義の真の意味を問いなおす。零や幾何学が西欧的な起源など持ってはいないと想起させ、パレスチナ紛争こそヨーロッパ的な傲慢さの犠牲ではないかとも指摘する。だが、グローバリズムにも向けられたその批判は必ずしも反西欧的なものではない。ゴダールは、傲慢な人々が見落としがちな真のヨーロッパと、文学、絵画、音楽などを通して向かいあい、より純度の高い傲慢さを身にまとって自堕落に共有された傲慢さを撃つ。ゴダールがときに難解といわれるのは、その姿勢の屈折による。映画を発明したのはリュミエール兄弟でもエディソンでもなく、エドワール・マネだという名高い『映画史』(1988-98)の断言こそ、高度の傲慢さにほかなならい。 プロテスタント系の家庭にパリで生まれ、スイスとの二重国籍を持ち、過去30年ほどレマン湖の畔に暮らしているゴダールはその二重性を誇りにしているが、その誇りはたちどころに傲慢さと見なされ、彼を孤立させる。その孤立を「私は映画のユダヤ人だ」というきわどい比喩で語ったりするので、ユダヤ系の映画作家からは抗議文が寄せられるし、合衆国の高級紙も彼を反ユダヤ主義者ときめつける。だが、臆する風も見せない彼は、この作品でも、ハリウッドを作ったのはヨーロッパからの亡命ユダヤ人ではないかと挑発をやめない。傲慢さを批判できるのは自分だけだといっているかのようなゴダールは、傲慢な映画作家なのだろうか。それとも、語の純粋な意味での自由闊達な個人なのだろうか。 |
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どんなことでもすぐわかったつもりにならないことだよ、 |
人が二十年もかかって考えたことのすべてを、それについて二つ三つのことばを聞くだけで、一日でわかると思いこむ人々、しかも鋭くすばやい人であればあるほど誤りやすく、真理をとらえそこねることが多いと思われる。(デカルト『方法序説』) |
卑近な例であれば、宇露紛争で多くの人が誤ったのはすぐわかったつもりになって「皆が渡れば怖くない」になったことだ。
伝統的にロシア(ソ連)に対して悪いイメージが支配する日本の政治・社会がロシアのウクライナに対する武力侵攻に対してロシア非難・批判一色に染まったのは、予想範囲内のことでした。しかし、一定の肯定的評価を得ている学者、研究者、ジャーナリストまでが一方的な非難・批判の側に組みする姿を見て、私は日本の政治・社会の根深い病理を改めて思い知らされました。〔・・・〕日本の政治・社会の際立った病理の一つは、「赤信号一緒に渡れば怖くない」という集団心理の働きが極めて強いということです。ロシア非難・批判一色に染まったのはその典型的現れです。(東アジアの平和に対するロシア・ウクライナ紛争の啓示 浅井基文 3/21/2022) |
僅か10年前のマイダンクーデターの内実も知らずに、人は主流メディアや国際政治学者などの嘘に踊ったんだよ。 |
ジェフリー・サックス)これは米国とロシアの戦争だ。 ウクライナとロシアの戦争ではない。 これが最も基本的な点だ。 これは米国が引き起こした戦争ーー米国によって挑発された戦争[a war provoked by the US]ーーであり、米国の意図によるものであり、NATOの拡大を目的としたものだ。 |
This is a war Between the United States and Russia. It's not a War Between Ukraine and Russia. This is the most basic point. This is a war provoked by the US, with us intentions, with us aims for NATO enlargement. |
(Jeffrey Sachs: The Looming War With Iran, CIA Coups, and Warning of the Next Financial Crisis With Tucker Carlson 2024/08/31) |
前回記した国民負担率の話も同様。僅か10年前の議論も知らずに、消費税反対と言っておけば、大衆の票を稼げる政治家やら小遣い稼ぎの政治評論家やらの嘘を信用しないことだ。
だが人はいくら言っても騙される。とすれば、《より純度の高い傲慢さを身にまとって自堕落に共有された傲慢さを撃つ》しかない時代だ。