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2026年8月25日火曜日

なんて政治はみにくくて、グロテスクなんだ、ぞっとするぜ!

 

少し気分転換するよ、ボクはもともと政治嫌いでね、「なんて政治はみにくくて、グロテスクなんだ、ぞっとするぜ!」という感じだな、やむなく政治について連投してるだけでさーー《私は政治を好まない。しかし戦争とともに政治の方が、いわば土足で私の世界のなかに踏みこんできた。》(加藤周一「現代の政治的意味」1979年)


ところでーー、むかしプルーストの「スワン家のほうへ」の次の箇所の翻訳比較を拾ったことがあるんだがね。



Je l'aimais, je regrettais de ne pas avoir eu le temps et l'inspiration de l'offenser, de lui faire mal, et de la forcer à se souvenir de moi. Je la trouvais si belle que j'aurais voulu pouvoir revenir sur mes pas, pour lui crier en haussant les épaules : « Comme je vous trouve laide, grotesque, comme vous me répugnez ! » Cependant je m'éloignais, emportant pour toujours, comme premier type d'un bonheur inaccessible aux enfants de mon espèce de par des lois naturelles impossibles à transgresser, l'image d'une petite fille rousse, à la peau semée de taches roses, qui tenait une bêche et qui riait en laissant filer sur moi de longs regards sournois et inexpressifs.


—-Marcel Proust,  Du côté de chez Swann



いまさらだが、井上究一郎訳は気品があるねぇ、ほかの訳者のものに最初に出会っていたら、こんなに『失われたときを求めて』にハマらなかったかもな、と思ってしまうぐらい。


A:井上究一郎訳

私は彼女を愛していた、あのとき彼女の感情を害するか、彼女を不快にして、むりにも私のことを彼女に思いださせようとするそんな余裕も妙案もなかったことが残念に思われた。彼女はいかにも美しく見えたので、あともどりして、両肩をそびやかしながら、こういってやればよかったのだ、「なんてきみはみにくくて、グロテスクなんだ、ぞっとするぜ!」そう思いながらも私は遠ざかっていった、――シャベルを手に、ずるそうな、何をあらわそうとしているかわからない視線を、長く私の上に走らせながら笑っていた、皮膚にそばかすがちらばっている、赤茶けた髪の少女の映像を、犯しがたい自然の法則によって、私のような種類の子供には近づくことの不可能な一つの幸福の最初の典型として、永久にはこびさりながら。


B:鈴木道彦訳

私は彼女を愛していた。彼女を侮辱し、いためつけ、こうしてむりやり自分のことを記憶にとどめさせたかったが、それをする時間の余裕もなく、またうまい方法も浮かばないのが残念だった。彼女はとても美しく見えたので、私は引き返して肩をそびやかしながらこう叫んでやりたかった、「なんて醜い、グロテスクな女だろう。きみを見るとぞっとするよ!」しかし私はその場から遠ざかった。赤褐色の髪の毛をしてバラ色のそばかすが皮膚に点々とついていた少女。シャベルを手に持ち、陰険で無表情な視線をずっと私の上に走らせながら笑っていた少女の面影を、背くことのできない自然の法則の名において、私のような子供には近づけない幸福の最初の典型として、永久に胸にたたんで持ち去りながら。


C:高遠弘美訳

私はジルベルトに恋していた。彼女を侮辱し、痛めつけ、むりやり私のことを記憶に刻みつけさせる余裕も、それにそもそもその発想もなかったことが残念でならなかった。ジルベルトはなんてきれいなんだ。そう感じていただけに、すぐに取って返し、肩をすくめて大きな声で、どれだけ叫びたいと思ったことだろうか。「なんてあなたは不細工なんでしょうね。笑ってしまいますよ。まったく厭になるほどです!」。しかし、実際は私はその場所から離れて行った。犯しがたい自然界の掟によって私ごとき子どもには近づくことが許されぬ幸福の最初の現れとして、薔薇色の雀斑をあちこちにこしらえた赤みがかったブロンドの少女、スコップをもち、笑いながら、陰険で何を訴えているかわからない眼差しを長い間私に注いでいた少女の面影を永遠に胸にしまいながら。


D:吉川一義

私はジルベルトを愛しており、相手を侮辱し、辛い想いをさせ、無理やり私のことを覚えているように仕向ける暇も発想もなかったことが悔やまれた。なんてきれいな娘だと思ったからこそ、できることなら引き返して肩をそびやかし、「なんて不細工で、滑稽な女だ。お前にはぞっとする」と叫んでやりたい気持ちだった。こうして遠ざかりながら私が永遠に心に刻みつけたのは、背けない自然の掟から私のような子供には近づけない幸福の原型として、赤毛で、バラ色のそばかすの肌をした少女が、スコップを手に笑いながら、陰険な表情のないまなざしで私をじっと見つめているイメージである。



なんだろうな、この違い。最後の《永久にはこびさりながら》でもさ。