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ああ、「ムラ人たちのイクミナと抑圧された不安の回帰」でさらっと記した「抑圧された不安の回帰」というのは、突っ込んでいけばとても難しいよ。そもそも「抑圧」と「不安」という語の扱いが実に厄介だ。 4年ほど前、「抑圧は誤訳」という投稿をしたことがあるが、基本的には抑圧[Verdrängung]という語には「抑えたり圧っしたり」の意味はない、と。むしろこれらの意味を持っている。 当時は主に2人の論者やフロイト自身の記述に依拠してそう記したが、とはいえ、晩年のフロイトはこうも言っている。 |
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抑圧は、水の圧力に対するダムのように振る舞う[Die Verdrängungen benehmen sich wie Dämme gegen den Andrang der Gewässer. ](フロイト『終りある分析と終りなき分析』 第3章、1937 年) |
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これを受け入れるなら、「抑える・圧する」の意味はあるんじゃないかな。だからやっぱり抑圧でいいよ。 他方、不安のほうだな、これまた厄介なのは。 フロイトには不安神経症[Angstneurose]という語があるね。 |
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不安神経症は、興奮の源泉、障害の原因が身体的領域にあり、ヒステリーや強迫神経症が心的領域にあるのとは異る。die Angstneurose …daß die Erregungsquelle, der Anlaß zur Störung, auf somatischem Gebiete liegt, anstatt wie bei Hysterie und Zwangsneurose auf psychischem. 〔・・・〕 不安神経症は、抑圧された表象に由来しておらず、心理学的分析においてはそれ以上には削減不能であり、精神療法では対抗不能である。Angstneurose …stammt er nicht von einer verdrängten Vorstellung her, sondern erweist sich bei psychologischer Analyse als nicht weiter reduzierbar, wie er auch durch Psychotherapie nicht anfechtbar ist. (フロイト『ある特定の症状複合を「不安神経症」として神経衰弱から分離することの妥当性について』1894年) |
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ーー上に「ヒステリー」とはあるのは、後述する身体領域の症状「パニックヒステリー」Schreckhysterieとは異なり、主に「転換ヒステリー」Konversionshysterieのことなので注意。 さて、心的領域にかかわる抑圧された表象 [verdrängten Vorstellung]ではなく、身体的領域[somatischem Gebiete] にかかわるということは、エスの欲動に関わるということだ。 |
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エスの要求によって引き起こされる緊張の背後にあると想定された力を欲動と呼ぶ。欲動は心的生に課される身体的要求である。Die Kräfte, die wir hinter den Bedürfnisspannungen des Es annehmen, heissen wir Triebe.Sie repräsentieren die körperlichen Anforderungen an das Seelenleben.(フロイト『精神分析概説』第2章、1939年) |
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つまり次の表現に相当する。 |
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不快な性質をもった身体感覚[daß Körpersensationen unlustiger Art](フロイト『ナルシシズム入門』1914年) |
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不快なものとしての内的欲動刺激[innere Triebreize als unlustvoll](フロイト『欲動とその運命』1915年) |
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この不快が不安であり、抑圧された不快なる不安だ。 |
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不快(不安)[ Unlust-(Angst).](フロイト『制止、症状、不安』第2章、1926年) |
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不安は、特殊な不快状態である[Die Angst ist also ein besonderer Unlustzustand](フロイト『制止、症状、不安』第8章、1926年) |
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抑圧の動因と目的は不快の回避以外の何ものでもない[daß Motiv und Absicht der Verdrängung nichts anderes als die Vermeidung von Unlust war. ](フロイト『抑圧』1915年) |
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不安が抑圧を引き起こす[Hier macht die Angst die Verdrängung]》(フロイト『制止、症状、不安』第4章、1926年) |
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つまり抑圧された不安(不快)は「基本的には」抑圧された欲動に相当する。ーー《抑圧された欲動[verdrängte Trieb]》(フロイト『快原理の彼岸』第5章、1920年) |
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自我はエスの組織化された部分である。ふつう抑圧された欲動蠢動は分離されたままである。 das Ich ist eben der organisierte Anteil des Es ...in der Regel bleibt die zu verdrängende Triebregung isoliert. 〔・・・〕 エスの欲動蠢動は、自我組織の外部に存在し、自我の治外法権である。われわれはこのエスの欲動蠢動を、たえず刺激や反応現象を起こしている異者としての身体 [Fremdkörper]の症状と呼んでいる。〔・・・〕これは内界にある自我の異郷部分である[Triebregung des Es …ist Existenz außerhalb der Ichorganisation …der Exterritorialität, …betrachtet das Symptom als einen Fremdkörper, der unaufhörlich Reiz- und Reaktionserscheinungen …das ichfremde Stück der Innenwelt ](フロイト『制止、症状、不安』第3章、1926年、摘要) |
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あるいはーー《抑圧されたものは自我にとって異郷、内的異郷である[das Verdrängte ist aber für das Ich Ausland, inneres Ausland]》(フロイト『新精神分析入門』第31講、1933年) つまり抑圧された不安の回帰とは自我の異郷部分が回帰するんだよ。おっとショーペンハウアーとはニーチェが向こうからやってきたな・・・
やあこのまま記してたらながくなるな。以下はあっさりいくよ。
と記しているとまた話が長くなるのでもうやめるよ。で、「ムラ人たちのイクミナと抑圧された不安の回帰」に戻って言えば、この(原)抑圧された不安の回帰は身体的領域[somatischem Gebiete]に関わる不安神経症▶︎パニック発作(パニックヒステリー)のことであり、これが「抑圧された欲動の回帰=自我の異郷部分の回帰」だ。少なくともその代表的なひとつ。 |
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ニーチェの言い方なら、不安の回帰とはさすらいびとの回帰だよ。これがフロイト的なパニック発作、DSMのパニック障害かどうかはいざ知らず。 |
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偶然の事柄がわたしに起こるという時は過ぎた。いまなおわたしに起こりうることは、すでにわたし自身の所有でなくて何であろう。 つまりは、ただ回帰するだけなのだ、ついに家にもどってくるだけなのだ、ーーわたし自身の「おのれ」が。ながらく異郷にあって、あらゆる偶然事のなかにまぎれこみ、散乱していたわたし自身の「おのれ」が、家にもどってくるだけなのだ。 Die Zeit ist abgeflossen, wo mir noch Zufälle begegnen durften; und was _könnte_ jetzt noch zu mir fallen, was nicht schon mein Eigen wäre! Es kehrt nur zurück, es kommt mir endlich heim - mein eigen Selbst, und was von ihm lange in der Fremde war und zerstreut unter alle Dinge und Zufälle. (ニーチェ『ツァラトゥストラ 』第3部「さすらいびと Der Wanderer」1884年) |
